・・・雪、雪、雪。 辺り一面真白に染める雪化粧。 「うわぁ・・・雪乃先輩、綺麗ですねぇ!」 遙は、思わず大声で喜んだ。 雪と共に舞うような、可憐な少年を前に、雪乃は。 「そうねぇ・・・わたしも、雪が、大好き」 「だって、『雪乃』ですもんね、せんぱぁい♪」 無邪気な応答。 雪乃は、この一瞬が永遠のものであれば良いのに・・・と、願った。 「先輩とボク」Another;『Snow,snow,snow,snowwrolds』 ・・・ここ数日降りしきった雪は、コンクリートの路面すら凍結させていた。 屋根にはつらら、木々を覆う真白な雪。 時々、どさりと落ちる電線の上の雪を眺めては、遙は驚嘆の声を上げる。 「ほーッ・・・うわぁ、雪世界」 それを、微笑み混じりで見つめる雪乃。その両手には、無垢の雪。 そう、いまや彼らの街は、雪の支配する、冬世界。 暖房が暑いくらい。 雪乃はたまらず、教室の中で上着を脱いだ。 「まぁ・・・」 傍らの明日香が、ものめずらしそうに声を上げる。 「いつもはあんなに寒がりなのに・・・」 「ハルカがはしゃぎすぎて遅刻寸前になっちゃったから慌てて走ったのよ・・・まったく、あのコったら」 苦笑。しかしその表情は穏やか。 「まぁ、遙君らしい」 明日香の目の前に、雪と戯れる遙の姿が浮かぶようだった。 「らしいのは良いけど、もう少し時間を考えて欲しかったわ・・・」 少し怒ったような表情を作って口を尖らせる雪乃に、明日香は。 「でも、雪乃うれしそうだよ?」 と、ニヤニヤしながら。 「遙君、可愛かったんでしょう!」 「・・・・・・うん」 冷やかすような明日香の言葉に、雪乃は頬を紅色に染めて、うなずいた。 屋上は積雪のため閉鎖されていた。 昼食を食べ終えたいつもの面々は、めずらしく図書館に集う。 図書係をしている三国まいなのうさみみが、ピコピコと揺れる。 傍らには、白と黒のつがいのウサギのぬいぐるみ。 「あ、まいなちゃん・・・ウサギ増えた?」 遙が気付いて、明るく声をかける。 まいなはすこしうつむき加減で、 「・・・うん・・・やっと、出来たの・・・」 と、小さな声で言った。 そんな小さな変化にも気付かない、無神経な二人組、仁科と秋山。 「オレ図書館なんてひっさしぶりに来たぜ?それにしても静かだなぁ・・・」 元々体育会系で騒がしい二人には、この空間は少々異質に写る。 「なんかおもしれーもんねぇかなぁ・・・」 「性教育性教育」 「うは!」 まったく、騒がしい。 その二人の様子が、雪乃の癪に触る。 「アンタ達・・・もう少し静かに出来ないのかしら?」 厳しい視線・・・だがそうだろう、彼ら以外の読書をする面々は皆迷惑顔だ。 「・・・すんません、堀江さん」 秋山が素直に謝る。 「・・・・・・」 だが、当の雪乃は彼を気にも留めず、民俗学の棚へと足を運ぶ。 ぱたぱたと後を子犬のようについていく、遙。 「・・・俺、マズイことしたかぁ?」 秋山はきょとーんと、たちすくんだ。 「まぁあの態度もどうかと思うけど、キミたちはしゃぎすぎよ!もう少し静かにしなさい・・・」 優しく諭す明日香。 その言葉に、ようやく二人も反省したのだった。 「ねぇまいなちゃん?遠野物語はないの?」 探しくたびれた雪乃が、図書委員のまいなにたずねた。 まいなは手早く、貸し出しカードをラックから検索する。 高いところにある棚は、器用に頭のうさみみでひょい、と探る。 「・・・まいなちゃん、それって?」 あまりにシュールな光景に、雪乃は好奇心いっぱいにたずねる。 まいなは顔を少し赤くして、 「え?・・・うさぎさんのみみ、です・・・」 と言った。 答えになっていない。 雪乃は首をかしげながら、まいなの頭を思わず撫でた。 結局、遠野物語は貸し出し中であった。 「めずらしい・・・一昨日まではホコリかぶってたのに」 「あ、チャイム・・・」 昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。 遙は両手いっぱいに本を抱えている。 「絵本ばっかり・・・どうしたの?」 一寸不思議がる雪乃に、遙はにっこりと答えた。 「だって今日はこんなに素敵な雪の日じゃないですか!だから、雪にまつわる絵本ばっかり借りてみて・・・」 「遙ちゃん、絵本大好きだから・・・ねぇ?」 まいながうれしそうに言う。 遙はちょっとだけ恥ずかしそうに、 「うわ、まいなちゃん・・・あまり隼人君達の前でそう言うこと言わないでよぉ・・・」 と、懇願した。 「あら、良いじゃない?連中みたく性教育の本ばかり借りてるよりは全然粋だと思うけど?」 ・・・ネタになりそうな性教育の本を借りて、バカみたいに騒ぐ仁科と秋山。 「・・・うわ、アレは」 ちょっと引いている様子の遙の手を、まいなはぎゅっと握った。 「遙ちゃん・・・遙ちゃんは本が大好き、なんだよね?まいなも・・・うれしい・・・」 そして手を取りあったまま、照れてうつむき加減の二人。 その様子を明日香と雪乃はじぃっと見つめる。 「まぁ・・・」 「なんて可愛らしいのかしら。ねぇ明日香?」 後姿が、妙に微笑ましい。 「・・・でもハルカは、わたしだけのモノなんだから・・・」 ・・・少しすねる、雪乃。 放課後。 この連日の大雪で、バイトがある者も大抵は休みになってしまう。 なにもする事が無い上、今日は5時間目で授業も切り上げになった。 さりとて、この雪・・・する事も、あまりない。 「じゃあまいなちゃんを待って、マスターのお店に集合!」 2階の廊下に集合した面々に、雪乃は大張り切りで言った。 「おい、遙・・・なんか雪乃さんおかしくね?」 仁科がいぶかしげに、遙に耳打ちする。 「あぁ、今日は大雪だから先輩はしゃいじゃってるの!」 愛らしくウィンクしながら、遙もこっそり答えた。 「へぇ・・・案外子供っぽいんだなぁ、雪ではしゃぐなんて」 意外そうな顔で言う仁科。 「だって、『雪乃』って言うくらいだし、雪が大好き・・・」 「コォラ仁科!なにわたしのハルカにちょっかい出してるの!?まったくこの、ハードゲイ!」 変わった様子を感じ取り、妙ないちゃもんを付ける雪乃。 「は、ハードゲイってなんスかぁ!?」 斜め上の難癖に憤慨する仁科に、 「だってハルカに手を出したら・・・・・・」 ・・・・・・妙な迫力で迫る雪乃。 「せ、せんぱぁい・・・そんなんじゃないってば!」 恋人の妙なジェラシーに、とまどいながらも友人を弁護する遙。 そして、抱きつき。 「だからボクには先輩だけって、言ってるじゃないかぁ・・・・・・」 いじらしいくらいに、雪乃を強く強く抱きしめる。 「まったく・・・ハルカってば・・・」 抱きしめられて、安堵の笑みで囁く雪乃。 置いてけぼりの周りの者たち。 「まったく、雪乃にも呆れるけど・・・遙君も遙君よねぇ・・・・・・」 呆れ果て溜息混じりの明日香。 理解できない、とばかりに両手を宙に振る仁科。 そんな中、まいなは一人本を両手に、生暖かい視線で二人を見つめる。 「・・・・・・ラブラブぅ?」 今日は雪合戦大会、と洒落こむつもりが・・・予想以上の降雪に、結局断念せざるを得なかった。 口惜しそうにコーヒーをすする、雪乃。 「まさにドカ雪・・・」 「おぅ雪乃チャン、ドカがどうしたってぇ?」 どうやら中途半端に聞き取ったのを、雪乃の父が乗るドゥカティの話と勘違いしたらしい。 「・・・お父さんのバカ趣味なんて興味無いわ」 つーんと、冷たく答える雪乃。 「ふぅん・・・俺のZZRは振りまわしてるのになぁ。雪乃にはゼッテードカのが似合うって・・・なぁ、遙チャン?」 マスターが同意を求めるが、そもそもその手のものに詳しくない遙はきょとーんとするだけ。 「ほら!雪乃チャンの親父が乗ってる、あの真っ赤な・・・」 「あぁ!」 遙は、雪乃がドゥカティ996にまたがる姿を想像する。 「・・・か、カッコイイ・・・」 「だろう?」 珍しく、ようやくながら会話が噛みあった。 「まったく・・・わたしはバイクなんか乗るつもり無いから」 そんな二人を振りきるように、雪乃は冷たく言い放った。 外は、雪。 結局バカ二人は秋山家でエロ画像鑑賞会を開く事にしたらしい。彼ららしい。 明日香は母親が道で転んだとかで、慌てて帰っていった。 そして残されたのは遙と雪乃、そして窓を眺めながらうさみみを左右にゆらゆらさせる、まいな。 「・・・ゆき・・・」 ウサギのぬいぐるみをぎゅっとして、空から舞い降りる雪を眺めてる。 「まいなちゃん、雪・・・好き?」 雪乃はまいなの隣に並び、一緒に雪の舞う外を見やる。 「・・・うん」 まいなはこっくりとうなずいた。 気が付けば、外はすっかり暗く。 街灯が雪に反射して、ぼんやりと、暖かく、輝いた。 「ねぇ、ハルカ?」 唐突な雪乃の言葉。その手には、白く輝く服。 「・・・また、なんですか?」 ちょっと呆れたように言う遙。 そしてその隣で、瞳を輝かせるまいな。 「折角冬だから・・・雪化粧に似合う服を、と思って」 白いフリルと、雪の結晶をイメージした刺繍が施された、手の込んだ衣装。 「うわぁ・・・綺麗・・・・・・」 遙は、ただ驚嘆した。 まいなは裾の辺りなどひらひらとしながら、無言で遙に着るよう促す。 「・・・でも、コレは」 「イメージは雪の王子さま・・・どうかな?」 少し厚手のつやのある生地が、美しい。 遙は少し躊躇しながらも、その服を手に取った。 「・・・今回はずいぶん頑張っちゃったじゃねーか」 マスターも、驚嘆の極みというふうに言った。 「だって、雪の中ぱたぱた走るハルカ想像しちゃってさ・・・手が、止まらなくて」 本当にうれしそうに、話す雪乃。 まいなは、その様子を見て顔を赤くしてしまう・・・。 「ん?まいなチャン、どうしたんだい・・・」 「だって・・・熱々・・・・・・だもん」 ・・・雪乃と遙の様子、見ているほうが赤面するくらいの、甘々な関係なのは間違い無い。 厨房の奥の更衣室で、雪のように白い服に着替えた遙。 その裾からわずかにのぞく素肌には紅がさし、可憐さを強調する。 なるほど、雪の王子さま。 「・・・先輩・・・足がちょっと、寒いかなぁ・・・」 遙の華奢な足は、ちょうど膝辺りからさらけ出された格好。 「そうねぇ・・・ニーソックスかしら?」 用意周到、すでにこの格好に合わせたニーソックスを準備している。 細い足のシルエットが、靴下に覆われる事でさらに際立った。 「・・・うわ、想像以上・・・」 遙を見つめる雪乃の瞳は、ときめきでとろけたようで。 まいなも、うっとり見つめる。 「遙ちゃん・・・可愛い」 「う〜ん、ボクはもっとなんて言うか、カッコイイ感じが良いんだけどなぁ・・・」 不満そうにぼやく遙。 やわらかい栗色の毛がふわ、っと揺れる。一層、愛らしい。 「そうだ!雪乃先輩、」 文句を言いながら、ふとなにかに気が付いたように。 「先輩、ボクは雪乃先輩の王子さま!」 ぱぁっ、と明るい笑顔で言った。 その様子に、雪乃は思わず遙を抱きしめながら、 「うん、うん・・・・・・キミはわたしの、素敵な素敵な王子さま」 と、耳元であまぁく囁いた。 「おいおい・・・見てるこっちがとろけちまうじゃねえか!!」 マスターは顔を赤らめながら、照れ隠しのようにからかった。 そして、耳まで真っ赤にしながらうさみみをじたばたさせる、照れ屋さんなまいな。 とろけるような甘い時間は、あっという間に過ぎてった・・・。 「おぅ、オマエら気を付けろよ!特に足元・・・」 言っているそばから、足を掬われそうになる遙。 「おとと・・・」 意外にもまいなは器用に凍った道を歩く。うさみみでバランスを取っているらしい。 そして華麗なステップを踏む、雪乃。 「あぁあぁハルカ・・・ほら、わたしに掴まって?」 「うん・・・」 白服の少年は、ちょっと気恥ずかしそうに、雪乃の手を取った。 そしてその反対側に、まいなの手も取って。 「雪乃チャン、すっかりお姉さんだな?」 マスターが思わず叫ぶ。 「てへ、可愛いでしょう?わたしのきょうだい・・・」 二人の手を上げながら、得意げに答える雪乃。 「せ、せんぱぁい・・・」 恋人なのに・・・と、フクザツな表情を浮かべる遙。 一方、うれしさに黙ってしまう、まいな。 「いいよねぇ・・・本当はわたしも、妹とか欲しかったんだけど」 二人の手をぎゅっと握りしめながら、雪乃はさみしそうにつぶやいた・・・。 ぴょん、ぴょん、ぴょん。 三人仲良く凍った道でステップを踏む。 真白な遙、ピンク色のまいな、そして透明な青色の雪乃。 「・・・さぁ、着いちゃったわよ?」 目の前には、氷付けになったチェリーピンクのインプレッサ。 ウサギの模様まで、雪に覆われて。 「ゆき、うさぎ・・・」 その滑稽な光景に、まいなはまた感嘆する。 「・・・まぁ、フィンランドラリーとかではこんな光景普通だって・・・仁科が言ってた」 ・・・WRCで勇猛な活躍を見せるインプレッサも、まいなの趣味にかかるとこんなにも牙を抜かれたように。 そして、まいなは玄関にぴょん、と飛んだ。 まるで、ピンク色のウサギのように。 「じゃあね、まいなちゃん・・・」 「さよならー!」 雪乃と遙の言葉に、照れ臭さからか答える事は出来なかったが、まいなはただひたすらに、その両腕とうさみみを振りつづけた。 結局二人は、またマスターの店に戻る事にする・・・。 道行く途中、雪乃は改めて、遙をまじまじと見つめた。 「・・・やっぱり、雪の・・・」 じーっと見つめているとなにかがこみあげてきて、それが我慢できなくなってきて、雪乃はまた思わず遙を抱きしめる。 「わわ、せんぱぁい・・・」 ・・・どさりと、道の脇に倒れこむ。 下敷きになった遙・・・衝撃は、綺麗な雪がふんわりと和らげた。 「・・・ごめん、なんか・・・切なくなっちゃって」 「・・・?」 尻もちついたままの遙は、ぽやーんとした表情で、雪乃を見つめる。 雪乃は呆然とする遙の手を取って、身体を引き起こす。 「・・・先輩ってば、突然なんだから!」 ハッと我に帰ったように、遙はちょっと強い口調で言った。 そして、お返しにキス。 雪乃は突然のことに、少し目を見開いた。 遙のやわらかいくちびるが、雪乃のくちびるに、ぷるるん、と。 そしてふんわりと抱きついた遙の身体を、雪乃は逃さないようにと、強く、ぎゅっと抱きしめる。 街灯に照らされ、雪の中のキス・・・・・・。 遙は珍しく、心の中でガッツポーズを決めていた。 ・・・こんなロマンティックなシチュエーションで、先輩とキスしちゃったあああー!!!! キスを終えた後も、遙はドキドキが止まらない様子だった。 雪乃は穏やかな瞳で、遙を見つめ、そしてその手を取る。 「・・・ハルカ、行こう?」 やさしい、雪乃の声。 遙は恥ずかしさのあまり、耳まで赤くしながら、うなずく事しか出来なかった。 雪乃に手を引かれながら、ふらふらと歩く遙。 「・・・これじゃ、どっちが王子さまか、わかんない」 少しだけ不満そうに、遙はつぶやいた。 雪乃は、 「でも・・・それがわたしたちらしいと、思わない?」 とだけ、答えた。 ・・・予感に気付いたのは、どちらだったろうか。 この冬が、一寸だけおかしいと。 はっとひらめいたように、雪乃は水晶柱のペンデュラムを取りだす。 「・・・なにか、居るんですか?」 ぼんやりとは感じ取ったものの、それがなにかまでは、遙には分からない。 雪乃は穏やかな目をして、言った。 「・・・忘れ形見、とでも言うべきかしら」 そして捜索を開始する。 ・・・この世には、存在しなかったはずのモノを。 「・・・おや、こんな雪の夜に・・・珍しいですなぁ」 雪乃の目の前にヌッと現れた、黒い外套をまとった老紳士。 「うわぁッ!?」 思いがけず、驚く雪乃。 「先輩、おじいさんですよ・・・」 遙は意外にも冷静に言い、そして会釈する。 「おぉ、またずいぶんと可愛らしい・・・雪の日にはこんな不思議な事もあるもんですな」 帽子を脱ぎ、深々と頭を下げる、老紳士。 雪乃も、すこし照れ臭そうに、会釈をする。 「ま、今日は足元も悪いですから・・・気をつけて」 やさしい声で、老紳士は労うように言った。 「えぇ、貴方こそ」 雪乃も穏やかに、返す。 「またね、おじいさん・・・」 足早に二人を後にする老紳士に、遙は無邪気に手を振った。 雪乃も、かすかに。 「・・・ちょっと、ビックリした・・・どうしたのかしらねぇ?」 驚いた拍子に乱れた髪を直しながら、雪乃がつぶやいた。 「大切な人に、会いに来たんじゃないかなぁ・・・」 思いついて、遙。 「なるほどね、こんな酷い雪の日に普通出歩こうなんて・・・ねぇ」 「ボク達くらいですか?」 おもわず顔を見合わせ、笑った。 ダウジングの揺れが、妙な空間をさした。 寂れた祠・・・道祖神、と言うのだろうか。 「・・・ハルカ、アレ」 その視線の向こうに、一つのしゃがみこむ影が合った。 ・・・哀しそうに、嘆く。 「・・・貴方、どうしたの?珍しいわね、こんなところで」 雪乃はその影の隣にしゃがみこみ、話しかけた。 「せ、先輩?」 少々不安げな、遙。 「・・・大丈夫、この人は悪くないわ。・・・ねぇ?」 ・・・雪乃の問いかけに、影はうなずいた。 「でも・・・この雪は、貴方の仕業でしょう?ねぇ・・・答えて」 その声に、影はゆっくりと立ちあがった。 ・・・この季節と言うのに、薄手の着物。どう見ても・・・雪女。 「・・・お姉さん?」 遙が、少し驚いたようにいう。 「・・・・・・この雪は、お姉さんのせいなの?」 雪女とおぼしき女性は、哀しげにうなずいた。 「・・・かつて、私が恋した人が、ここに・・・・・・」 女は、聞かれるでなく、語り始めた。 どうやら、昭和初期の話らしい。 ふとしたことで倒れていた彼女を、優しく介抱した男が居る、というのだ。 だが、もうそれも、あまりに遠くて・・・・・・。 「・・・あのときのように、雪を降らせれば・・・・・・きっと、あの人が気付いてくれると、思ったのです。わがままを、お許しください・・・」 そう言って、また女性は、しゃがみこみすすり泣いた。 「・・・さて、困った・・・これじゃあきっとこのままね。わたしとしてはこのままでも良いんだけれど・・・」 と雪乃が言った刹那、遙がバランスを崩し、また尻もちを着く。 「・・・このままだと、ハルカが心配なのよねぇ・・・」 遙の手を引っ張りながら、困り顔でつぶやく雪乃。 「ハハ、良く分かんないけど・・・でもあのままじゃ、あの人がかわいそうですよ・・・」 ・・・彼女が何者か、そして今の状況がどうであるかをまったく省みず、ただ彼女を思って、遙は言った。 ・・・雪乃は、ハッとする思いで、目の前の少年を見つめた。 そうだ、打算とかなんとか関係無いじゃないか・・・雪乃は思わず、遙の手を引いて走りだした。 「・・・先輩!?思い当たったんですか!?」 「さっきのおじいさん!!」 ・・・黒い影が、横切った。 その刹那、遙の瞳が緋色に染まる・・・。 「・・・遙」 雪乃はそれに気が付いた瞬間、恐ろしい予感に襲われた。 二人が立ち止まったとき、それは現実のものとなる・・・。 「・・・じいさん、遅かったか・・・」 血を流す老人、そしてなにもない闇に視線を送る遙。 「おじいさんッ!?」 駆け寄る雪乃・・・しかし、彼は既に事切れていた。 ・・・見なれた事とは言え、到底この事実になれるものではない。 ましてや・・・この老人が、こんな夜に雪の中、さまよっていた事を思うと。 「遙、コレ」 リボンから取りだした、異様なペンデュラム・・・。 「・・・あぁ」 ぶっきらぼうに放り投げられた禍々しいそれを、乾ききった無機質な声と共に、遙は受け取った。 雪乃は既にこの世に亡い老人の手を、握りしめる。 「・・・・・・」 虚空を見つめる、遙。 そして・・・・・・ 一瞬の隙を付くように、空隙にペンデュラムを突き立てる。 流れ出す闇、そして金切り声のような一陣の風。 雪にまみれ・・・全ては、一瞬だった。 亡骸に、雪が降り積もる。 雪乃の頭にも、白い雪。 「・・・まぁったく、風邪引くぜ?」 そう憎憎しげに言いながら、遙は雪乃の頭の雪を払う。 「・・・・・・」 だが、雪乃は言葉も無い。 「・・・弔い、か」 呆れたように、遙は言い放った。 それに耳も貸さず、かと言って泣くでなく、ただただしんしんと降り続く雪の音に耳を澄ませるように、じっとしている雪乃・・・。 珍しく、遙にはそれが堪えがたかった。 しん、と雪を踏みしめる音。 ・・・さっきの、雪女。 「あぁ・・・いってしまった・・・」 哀しそうに、つぶやく。 「貴方だったの・・・けれど、遅すぎた」 「そんなことない」 ・・・うつむいたまま、雪乃は叫んだ。 「この人を・・・迎えに来たのね?だったら・・・まだ間に合うから!」 雪乃の悲痛な叫びに、雪女は。 「・・・そうね、まだ・・・彼を」 雪女は、雪乃から彼の亡骸を受け取った。 ・・・意外なほどに軽い、彼の身体を抱き上げて、スゥッ、と歩き出す、雪女。 「・・・・・・間にあったかしら?」 哀しげな笑みを浮かべ問う雪乃に、雪女は振りかえり、笑顔で答えた。 その刹那、亡骸は消えうせ、若き日の老紳士の姿が、ぼんやりと浮かぶ。 「お、帰るのか?」 緋色の目を輝かせながら、遙がたずねる。 「・・・」 女は、黙ってうなずいた。 そしてひときわの吹雪が吹き、その向こうへと、二人は消えていった・・・。 「ねぇハルカ、いつまでそうやってるの?」 名残雪の上で横たわる遙に、雪乃はにやにやしながらたずねた。 気まずそうに起きあがる、遙。 「あれ・・・ボク、寝ちゃってたの?」 ボーッとした様子でたずねる遙。 雪乃は哀しそうに笑みを浮かべ、答えない。 「・・・先輩、そのカオ止めてください」 笑顔の意味に気が付いたかのように、遙は顔をそむけながら言う。 その背中を、雪乃は黙って、抱きしめる。 「・・・・・・先輩・・・・・・」 背中から伝わる雪乃のぬくもりが、遙には全てを物語っているように思えた。 遙は、それ以上言わない事にした。 そしてぼんやりと辺りを見まわし、呆けたような口調で、つぶやいた。 「雪が・・・なくなっちゃった」 「・・・これで、良いのよ」 遙の耳元で、雪乃は囁いた。 雪のように真白な少年は、その心臓を高鳴らせる。 「あ、先輩!」 思いだしたように、遙。 「雪女さん、行っちゃったんですか・・・・・・?」 「えぇ、たずね人も見つかったようだし」 穏やかな声で、答える。 「この大雪も、全部全部、連れて帰ったわ・・・・・・」 気が付けば辺り一面雪は消えうせ、地面がぬかるむ。 遙の周りに抱きしめるように雪が残っていたのは、雪女の心ばかりの配慮であろう・・・。 「ちょっと、さみしいなぁ・・・」 切なげな横顔で、遙がつぶやいた。 そのふわふわとした頭を、雪乃は撫でながら。 「・・・良いのよ、これで」 そして満天の星空を見上げ、つぶやいた。 「ねぇハルカ?」 「なんですか?先輩・・・」 ・・・雪乃は哀しい目をしながら、とってもさみしい声で・・・・・・。 「今日だけは、わたしは雪が嫌い」 作者あとがき。。。 先ボク退魔編、2話です。 元々構想として存在しながらずっと放置状態だった退魔編を七夜梓先生が唐突に書き始めたので、それにインスパイヤされて多重人格遙の物語を書き始めました。 一抹のさみしさのようなものが漂う七夜版退魔編に比べ、俺の書いた先ボク退魔編1話「Nightstalkers」はかなり攻撃的な仕上がりになって、自問自答しましたよ・・・「こ、コレは先ボクじゃないのみならず退魔の話ですらねえ!!」 七夜たんには「この退魔遙ただの変態じゃん」と言われ、某氏には「先ボクのキレイなイメージがふっ飛んだ」とまで言われてしまったりなんかしてね。いや、俺の書いた退魔編遙は以前に鏡写しの遙として書いた正反対の人格が元になってたりするんですが・・・だからしきりに雪乃とやりたがってると言う。最低。 で、今回。この話は、せっかくだから普段の先ボクらしい話にしようと思ってつらつらと書きました。だから前回に比べバトルも少なめだし、遙がアサルトライフル振りまわしたり雪乃がガトリングガン無理やりブッ積んだ190馬力の怪物バイクZZR1400を振りまわしたりというのは控えてみた。 それから、見返すと三国まいなちゃんの出番が非常に多くなっちゃいました。うさみみ付けて、ウサギのぬいぐるみぎゅっとするその姿が愛らしいんだろうなー・・・とか思ったりなんかして。まぁ先ボクの基本ラインは可愛いお話、だったりするので。 それからコレは退魔編に限った話じゃないんだけど、雪乃が非常にまぁるくなりました。いや、俺が描いた雪乃がそもそも小説の内容と全然違ってしまったりしてるという事情も合ったりするかも分からないけど。・・・遙が「お前高校生!?」ってくらい幼いのはまぁショタですし、絵と小説のイメージでそんなにずれてはいないんじゃないかなーって密かに思っているからいいんですけど。 今、俺は「先輩とボク」の話を通常のショートストーリー、本編で特殊な位置付けのロータスイーター/ヒガンバナ、そして完全に元設定をかなぐり捨てた退魔編(退魔編は七夜先生が書いたほうがある意味本編かもしれません)の3本を同時並行的に書いてます。 そんな事情もあってかわかりませんが、とにかく退魔編はハードです。そろそろマキトも登場しますし、多分。本編ではなんかただのショタコンかつ変態と化しているマキトですが、特に堀江家という異常な家庭の中では非常に重要な存在なんですよね。 それはさておいて、ひたすらに無軌道に続けてる先ボクですがまぁみなさま、引き続きお付き合い願いたく存じます。 ・・・しっかし、つくづく女装ショタじゃねーよな、コレ。 先ボクにテーマと言うものがあるとすれば、「俺の理想のショタを書く」という物語となんの関係も無い部分でしかないので結構好き勝手やらせてもらってます。なにか意見があったらいろいろ俺のトコに言ってやって下さいな☆ 2005.10.14 NullPox記す。