先輩とボク

「季節流れて。」



 いつものように、放課後の屋上。
 さわやかな風に吹かれながら、雪乃先輩とボクは夕日を眺めてました。
 先輩の綺麗な黒髪が夕焼けに照らされて、ちょっとドキドキ。けれど心臓が高鳴るのは、何もそれだけじゃありません・・・・・・1年前の事、思い出したんです。
 きっと先輩も、おんなじ事考えてる。だって先輩の視線は切なげで、夕焼けの遥か遥か彼方を見つめているようだったから。

 「・・・ハルカ、桜が綺麗ね」
 突然、雪乃先輩はボクを後ろからぎゅっとしながら言いました。柔らかい感触と突然の衝撃が、ボクの心臓まで揺らすようでした。
 「うわぁっ!?」
 「ハルカってばぁ、相変わらずなのね?」
 ・・・突然抱きついたりキスしたりする雪乃先輩のクセ、前から変わりません。いつまで経っても慣れなくて、先輩の無頓着にはちょっとビックリしちゃいます。
 「・・・こういうのって、ハルカは慣れないのかしら?」
 「だって・・・・・・いつもあんまり突然だから、ビックリしちゃうんです」
 「そっか、ごめんね?」
 そう言うと雪乃先輩は、ボクの頭を優しく撫でました。くしゅくしゅって、ボクの猫っ毛がなります。
 雪乃先輩の指は細くって、撫でられてるとなんだか、こそばゆい。

 それからしばらくボクたちは、無言で空を眺めてた。
 少し無言に不安になりかけたその時、雪乃先輩はボクに言いました。
 「ハルカ、どの季節が一番好き?」
 ちょっとあっけに取られて、なんとか答えようとします。
 「えっとぉ・・・・・・い、いきなりは答えられないです。だって、どの季節も素敵な事いっぱいあるから」
 「あ〜、ずるいなぁ。まぁ良いわ? わたしはね・・・・・・」
 雪乃先輩は微笑むと、フェンスに切り取られたような夕焼け空を仰いで言いました。
 「・・・夏は活気を感じるし、何より夏休みが楽しいわね。秋も紅葉にちょっぴり切ない風、それからいろんな行事もあった。でもわたしは・・・・・・冬が、好きだったかな」
 「冬、ですか?」
 冬には少し物悲しいイメージがあったから、いつも明るい雪乃先輩にはちょっと意外でした。
 先輩はちょっぴり切なげな笑顔で、答えます。その表情を夕焼けが照らして、見つめられたらキュンとなっちゃいました。
 「そうよ、静かな空気に降りしきる雪、そしてどこまでも銀世界・・・・・・ほらハルカ、わたし『雪乃』って言うくらいだから。白くてふわふわして、はかなげな雪が大好きだったの」
 嬉しそうに、語ります。
 綺麗で、はかなげで、切なさを感じさせる雪。
 いつもはとっても明るくって元気な雪乃先輩だけど・・・・・・時々、なんだか凄くはかなく見える時、あります。そんな時の雪乃先輩は、ちょっと話し掛けづらいかも。
 「雪って、素敵ですよね!」
 また切ない顔になったら少し困っちゃうから、ボクは笑顔で明るく答えました。でも先輩はにっこりと笑いながら、違う事を言いました。
 「そうよね。でも今は・・・・・・わたし、春が好きかな?」
 「えっ?」
 ・・・なんでだろう、雪乃先輩の言葉に、ボクはこころをドキィーンと撃ち抜かれたみたいになっちゃいました。どうしよう、心臓がドキドキする・・・・・・。
 意を決して、胸のドキドキを押さえ込みながら尋ねます。
 「どうしてですか?」
 「ほら、こんなに穏やかな風」
 そう言うと雪乃先輩は両手を広げて、春の風を受けながらくるりと一回転しました。その仕草がなんでだろう、妖精さんのように思えました。
 先輩は穏やかな笑顔で、続けます。
 「それに桜も綺麗だし、草むらの草木も初々しいし。それに何より・・・・・・」
 あっけに取られたようなボクに近づくと、先輩はボクの額に手を当てました。髪の毛をそっと上に撫で、おでこに・・・・・・チュッ。
 「・・・初めて逢ったときも、今日みたいな日だったじゃない?」
 そこでボクは、ハッとしました。
 そうだ、入学式から1週間くらい経った頃。ボクはなかなか友達も出来ないで、ひとり泣きそうになりながらここで夕日を眺めてました。そんな時、声を掛けてくれたのが・・・・・・雪乃先輩でした。
 「あの時ねぇ、わたしも寂しくって・・・・・・だからキミがいてくれて、本当に嬉しかったのよ?」
 雪乃先輩は懐かしそうな瞳で、ボクを見つめました。
 「それからはわたし、春が一番好き。それにこの穏やかな風、どこかハルカに似てると思うの」
 「え、ぼ、ボクにですか?」
 ・・・雪乃先輩の言ってる意味は良く分かんないけど、なんだか凄く嬉しく思いました。でも、そんな事考えてたらまたドキドキしてきちゃって、それで思わず・・・・・・。
 「・・・ボクも、好きです。だって雪乃先輩、春の日差しみたいに優しいんだもん」
 そう言いながら、ボクは先輩にぎゅっと抱きついちゃいました。雪乃先輩、凄く嬉しそう。
 優しく抱き返しながら、先輩はボクに言いました。
 「ありがと、これからもよろしくね。ハルカ」
 そして先輩とボクは、夕焼けの中でぎゅっと寄り添ってたんです。

 「そう言えば、初めて逢った時」
 雪乃先輩が、思い出したように言いました。
 「え、なんですか?」
 「ハルカの事なんだけど・・・・・・」
 そう言うと雪乃先輩は、少し悪戯っぽい笑顔を浮かべました。
 「最初、女の子かと思っちゃったのよ? あんまりに可愛くって」
 「あ〜っ、またそう言う事・・・・・・」
 ・・・やっぱり、気になるんです。事あるごとにボクに女の子の服を着せちゃうんだけど、最初からそうだったのか・・・・・・うぅっ、気にしてるのに。
 でも雪乃先輩はあくまでも優しく、言います。
 「だってこんなに可愛いんですもの。やっぱり可愛いカッコ、してもらいたくなるじゃない?」
 うぅん、でもボクは男の子・・・・・・やっぱりヘンだと、思うんだけれど。
 ボクの反応にちょっぴり困った表情の雪乃先輩を見てると、やっぱりどうでも良くなってきちゃうかも。
 ちょっぴりヘンテコだけど・・・・・・でもやっぱり素敵な、雪乃先輩の前には。
 「・・・・・・せ、先輩が好きって言ってくれるなら」
 「あら、ハルカ・・・・・・嬉しいわ?」
 そう言うと雪乃先輩はまた猫っ可愛がり! こんな調子でやっぱりドキドキしてきちゃって、顔まで熱くなってきて・・・・・・。
 うぅっ、ちょっぴり恥ずかしい。

 でも、本当に嬉しかったんです。
 1年前のあの日から、今こうして二人屋上で。
 いつも一緒にいるだけで、ドキドキしてきて、でもほんわかとあったかい気分になれるんです。
 大好きです、雪乃先輩。
 だからボクも、初めて先輩とであったこの春が、一番好き。


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