「先輩とボク」なんですが、最近どうもストーリー志向になってしまった気がする。 元々は単発ネタだったはずなのでそれを思いだすべく、短編ばかりを描いて見る事にしました。 しばし、お付き合いください。まずは今宵十五夜なので月スペシャルで。 「満月の下で会いましょう」 ・・・ボクはその日、ぼんやりとPCの前に座っていました。 付きあっている、憧れの、雪乃先輩の写真を並べながら、うっとりと眺めていたんです。 ・・・すると突然、その雪乃先輩からお呼び出しの電話が。 ドキィっ!? 「ねぇハルカ・・・今夜はとっても、月がキレイね・・・・・・」 突然、恍惚とした声色で先輩はボクに語りかけました。 ボクは慌ててPCの画像を閉じると、ベランダに掛け出して。 気が付けば、空には大きな満月が。 「・・・うわぁ・・・・・・」 ボクも思わず、歓喜の声を上げました。 そんなボクに、雪乃先輩は。 「・・・ねぇ、ハルカ?今何してたのかな・・・?」 とってもやさしい、でもなにか含んだような声で、たずねます。 その声を聞いたとたん、ボクの心臓は高鳴りだします・・・。 ・・・・・・だって、先輩の写真見てデレデレしてましたなんて、言えるわけ無いじゃないですか!? 「えっと・・・あの、そのー・・・」 ボクはもじもじしながら答えあぐねていると、先輩はボクに言いました。 「わたしはねー・・・今、キミの写真を見てたんだ・・・やっぱりかわいいなぁ、って、ときめいてたよ☆」 ものすごく、あまったるい声で。 ボクの心臓の鼓動を、かき乱すような・・・・・・。 「せ、せんぱぁい!?」 ボクは思いっきり動揺して、もうなんて言えば良いか分からなくなっちゃって・・・・・・。 でも、先輩は。 「でもやっぱり写真より、直接ハルカに会いたいな・・・・・・この満月の、やわらかな光の下で」 あんまりに、詩的な科白を・・・・・・。 ボクもなんだか居ても立ってもいられなくなって、パジャマに一枚上着を羽織って、どこで待ち合わせか聞くことも無く、気が付けば外に飛びだしていました。 外は少し肌ざむくて。 つい一週間まではうだるような熱気だったのに、今じゃもう、この肌寒さが切ないくらい。 そして響き渡る虫の声、鈴のようにリンと響いて。 ・・・瞳を閉じます。 さざめく幽かな風に、小さな虫たちの鳴き声が重なって、静かな自然のオーケストラ・・・。 星空の下、響く夜想曲。 そして月光の下、待っているはずの雪乃先輩を探して、ボクは走りだしました。 ・・・どこへ? 大丈夫、待ち合わせ場所なんて聞いていないけど、でもきっと、会えるはず・・・。 月光が反射して白く輝く道を、ボクはひたすら走りつづけました。 深夜の公園。 街頭が幽かに緑を照らします。 やわらかい、ちょっとレトロな雰囲気のガス灯の明かり・・・・・・。 誰もいない、虫の声響く公園をぐるり見まわすと。 ぽつんと、少しさみしそうにブランコに座る、雪乃先輩。 ・・・涙目? 「・・・ハルカ・・・・・・」 ボクの方をぼんやり見て、悲しげな声で囁くんです。 あんまりに悲しそうで、一瞬声を掛ける事を躊躇したほどだけど。 でも、そんな先輩、ほって置けない。 「せーんぱい☆どうしたんですか、そんな顔しちゃって・・・・・・」 ボクは笑顔で、思いっきり明るく声を掛けちゃいました。 でも先輩、やっぱり憂鬱な表情で。 「・・・満月を見ると、少しだけ哀しくなるの」 その横顔、切なかった。 あんまりに切なくて、堪え切れなくて。 ちゅっ。 雪乃先輩のやわらかなほっぺたに、そぉっとキス。 「・・・ハルカぁ!?」 ボクからキスするなんて珍しいからかな・・・雪乃先輩、ビックリしちゃって。 でも、そんな様子、気にしてなんかいられません。 だって、先輩には元気になってもらわなきゃ、ボクがイヤだから。 「そんなショボーンとしたカオ、雪乃先輩には似合わないですよ☆」 どうにも先輩を元気付けたいから、泣きがおの先輩に変わってボクが満面の笑みで。 でも先輩、 「・・・そうかな」 と少し笑顔になったけど、でもちょっと作り笑いで。 だからボクは、雪乃先輩に後ろから抱きついて・・・いつも先輩が、ボクにそうするように・・・、そして言いました。 「先輩・・・ボク、先輩のそんなカオ見るの、ちょっと悲しいです・・・だから、笑って、ね?」 雪乃先輩は相変わらず憂鬱な表情だったけど、ぽつり・ぽつりと、話し始めました。 どうして満月の日に、悲しくなるのか、って。 「ハルカ・・・かぐや姫って、知ってるよね?竹取りのかぐや姫。かぐや姫は月の人で、いつか月に帰らなきゃいけないのね・・・」 ・・・? かぐや姫は知ってるけど、どうしてそれで悲しくなるのか、ボクには分かりません。 「・・・知ってますけど、どうして?」 「かぐや姫、結構酷い事ばかりしてるのよね・・・」 ・・・かぐや姫は、月に帰るから。 結婚する事は、出来なくて。 でも、とっても美しいかぐや姫には多くの貴族からの結婚の申し出があって、仕方なくかぐや姫は無理難題を出しました。 伝説上にしかないはずのものを、持ってきた人と結婚する、って・・・。 偽者を作った人もいたけど、すぐにバレてしまったり。 ・・・・・・中には、死んでしまった人も、いたんだって。 「なんかね・・・月を見ながらハルカの事考えてたら、今までわたしってばハルカに無理難題押しつけてたんじゃないかな・・・って、思えてきちゃって・・・・・・」 ・・・あ、涙が・・・・・・。 「だって、わたしの趣味で女装させるわ・・・いつも、振りまわしてばかりで・・・、それに、危険な目にも会わせちゃって・・・・・・それ、で・・・・・・」 ボクの方、目に涙をいっぱいにためて、じっと見つめるんです・・・・・・。 「先輩・・・・・・」 「おかしいよね、ハルカ・・・わたし、かぐや姫みたいにはなりたくないのに、ねぇ?・・・」 ・・・どうしよう、困った。 こう言うとき、ボクはどうすれば、良いのでしょうか!? ボクをじっと見つめながら、先輩はぽろぽろと涙をこぼすんです。 ボクまで、悲しくなってきちゃうよ・・・。 でも、泣いちゃダメ。 だってあのとき、ボクは先輩が悲しいときは、元気づけてあげなきゃ・・・って、誓ったんだもの。 ボクよりもなんでも出来ちゃう雪乃先輩に、ボクがしてあげられる、数少ない事。 「先輩・・・・・・」 ・・・でも、言葉なんて、出てこなくて。 ただ、抱きしめるしか、無かった・・・・・・。 強く、ぎゅっと、強く。 先輩も、ボクの肩に手を掛けて、もう大泣きしながら・・・・・・。 先輩が少し落ちつくまで、ボクは先輩の背中をやさしく叩きながら、抱きしめつづけました。 時間が、止まったよう。 「・・・ハルカ、」 ようやく、少し冷静さを取り戻して。 そしてすっくと立ちあがって、いつものような笑顔を見せてくれました。 「もう、大丈夫だからね?なんか、悪かったわね・・・・・・」 ちょっとだけ、照れ臭そうだったけど。 「いいえ、そんな事無いです!!ちょっと落ちこんじゃったときとか、またすぐに電話してくださいね!?ボク、すぐに駆けつけますから!!」 ボクは、ムキになって、それにものすごいクサイ台詞を言ってしまって恥ずかしいせいもあって、カオが真っ赤になっちゃいました。 そんなボクの様子を見て、先輩はクスリと笑いました。 「あー、何がおかしいんですか!?」 「だって、カオ真っ赤にしちゃって、かわいいんだもの・・・・・・」 そして先輩は、突然、ボクのくちびるにキスをしました。 ・・・涙のあとが残る頬。 満月の下での雪乃先輩とのキスは、しょっぱい涙の味がした。 そして、ちょっと悲しげな、涙色の満月。 「月の災禍」 ・・・夢を、見ました。 とっても幻想的で、でもものすごく、哀しい夢。 気が付くと、ボクはドレス姿で一人きり、夜空の下白い砂の大地に横たわっていました。 なんだかよくわかんないけど、ボクは途方に暮れてしまって。 辺りを見まわすと、どこかで見たような、でも地球上ではありえない光景・・・・・・。 そうだ、月面写真!! そしてその遥か向こうには、白く輝く白亜の塔。 ボクは他に行くあても無く、その塔を目指して歩き始めました。 ・・・不思議な事に、ボクが歩みを進めると周りには人が集まり始めたのですが、ボクが声をかけても誰も返事もしてくれません。 こんなに人がいるのに、一人きり。 一層、途方に暮れてしまって・・・。 そんな時、一人の男の子が、ボクに声を掛けました。 「ねぇキミ・・・一人?よかったら、ぼくと一緒にあの塔へ行かないか?」 ボクはすがるような気持ちで、うなずきました。 男の子はトキオと言いました。 「ボクは遙・・・よろしくね?」 「あぁ、よろしく。ところでキミ、あの塔で何をするか、知ってるかい?」 「・・・ううん?だってボク、気が付いたらここにいて、なんにも知らないんだ・・・・・・」 するとトキオは不思議そうなカオして、 「え?キミ、なにも知らずにここに来ちゃったの?まあいいや、遙急ごう!時間が無い」 と、手を引いて走りだしました。 ワケも分からず、付いて行くしかないボク。 走る途中、不思議なものがいっぱい目に付きました。 廃棄された宇宙船、白い町並み、青い水をたたえる静かの海・・・。 いろんな、見たこと無いものが、ボク達の視線を流れていきます。 でも、それがなんなのか、たずねるヒマも無くって。 ・・・・・・今思えば、もっとトキオと話しておけばよかった。 白亜の塔の門にたどり着きました。 「よかった・・・間に合った。それにしても遙、足遅いな」 トキオは少し悪戯っぽく笑って言いました。 ボクは少しだけムッとして、 「トキオが早すぎるんだよ!!」 と、言ってやりました。 するとトキオは笑って、 「遙、男の子のクセに情けないなぁ!」 なぁんて、言うんです。 少し、落ちこんじゃった。 「あぁそうだ、遙・・・ここで何するか、話さなきゃな・・・」 トキオは少し真剣な顔で、話し始めました。 この塔が出来た理由と、ここに来た意味。 なんでも、トキオ始めここの人たちは月の住人だけど人間じゃなくって、人間に作られた存在なんだって。 そして、15歳になると人間になるための特別な儀式を行なうんだって・・・・・・。 「なぁ遙、キミはどんな人間になりたい?」 ・・・人間じゃない、そして人間になる・・・。ボクには全然、わからない。 「・・・う〜ん、カッコイイ人に、なりたいかな・・・」 いつもの願望を、とっさに口に出して。 するとトキオは怪訝そうな顔で、 「えぇ!?なんていうかさ、もっと具体的な・・・・・・」 と、ちょっとムキになって話し始めた、そのとき。 白亜の塔に、緑色の炎が、ぶつかって。 まばゆい光を放ちながら、塔の上部は消滅し、緑色の火の粉が落ちてきて、月の住人たちの身体を焼き始めました。 ・・・怖かった。 ボクは足がすくんで、動けなくなってしまったけれど・・・。 ・・・・・・トキオが身代わりになって、その緑の炎全部その身に受けとめた・・・・・・。 「・・・なぁ遙、いつかこうなるって、分かってたんだ・・・だから、いいんだけど・・・ぼくたちのこと、キミの知りあいに伝えてくれないか?」 苦しそうなトキオの声。 一瞬にして、緑の炎に包まれて・・・・・・。 「・・・・・・トキオっ!!!」 ボクはどうしようもなく、ただ叫んで・・・・・・。 意識を、失ってしまいました。 幽かに残る残像は、黒い巨大な甲冑の影、そして交錯する光の刃、消滅してゆく白亜の塔。 ・・・ボクが目覚めたのは、全てが終わったあとでした。 有名なあの月面写真そのままの死んだ世界に、一人ぽつんと、取り残されて。 「・・・トキオ?」 おもわず、つぶやきます。 あまりに哀しげな光景に。 「トキオっ!!」 ボクは叫びながら駆けだして、さっきまで一緒にいた、ちょっと生意気な男の子の姿を探そうとしたけれど・・・・・・。 ・・・足元いっぱいに落ちた、銀色のプレート。 その一枚にふと、目が釘付けになりました。 それを拾い上げ、星の光に透かすようにかざすと。 「Tokio U.I.No.xxxxxxxxxxxx」 ・・・・・・そう、それが、あのトキオだったんです。 ボクはどうしようもなくなって、荒れた月面で一人、大声を上げて泣いていました・・・・・・。 奇妙な、そして哀しい不吉な夢は、そこまで。 「・・・なんだったんだろ?」 雪乃先輩の部屋で、先輩とマキトさんに、その夢を話しました。 あまりに奇妙で、二人とも首をかしげています。 「なーハルカ、なにそのSF?」 ボクの背中に学ランを合わせながら、マキトさんがたずねました。 「わかんない・・・でも、トキオはなにか伝えたがってた」 ボクはちょっとマキトさんの手を払いのけるようにしながら、答えます。 「ふぅん・・・ちょっと暗示的だな」 「そうね・・・ねぇハルカ、なにか変わったことは無い?」 雪乃先輩が、心配そうにたずねます。 「ううん?なにもないですけど・・・・・・」 うん、なにもないんだけど・・・・・・。 「でも、人間もどきって・・・・・・よく、わからないわね」 先輩もマキトさんも、首をかしげます。 本当にわからなくて、ボクも困ってる。 あのときトキオは、ボクに何を伝えたかったのかな・・・・・・? 「・・・・・・引っかかる」 マキトは一人、PCに向かいながら、つぶやいた。 「あのハルカの言っていた・・・ちょうど『アレ』にそっくりなんだよな・・・・・・」 ・・・手にした、シリコン製の銀色のチップ。 「困ったな・・・さて、どんな問題が起きるのか、まったく見当も付かないがどうしようもねぇか・・・」 「おイヌさまごっこ」 ・・・困った。 いつもハルカの事ばかり考えていて、ハルカを自分だけのものにしたいと思い悩んでいるのですけど、まさかこんな事考えてしまうとは・・・。 やっぱりわたし、おかしいのかもしれない。狂ってさえいるのかもしれない。 けれどこの気持ちは、自分ではどうにも押さえようも無くて・・・。 わたしは、ハルカに電話を掛ける事にした。 ・・・雪乃先輩から、お呼び出しが掛かりました。 ボクは急いで先輩のウチに行くと、玄関で妙な笑顔で先輩が待っていました。 「ハルカ・・・今日は、お願いがあるの」 ・・・いつもと少し違う、なんかヘンな顔して。 「・・・なんですか?」 妙な空気に気が付いて、ボクは首をかしげながらたずねます。 「まぁ、まずは中に入って?」 先輩、少し慌ててるようだった。 部屋に入るなり、雪乃先輩がとりだしたのは首輪でした・・・・・・。 「!?」 ちょっと、怖かった。 だって、ごっつい鎖の付いた、猛犬用の首輪ですよ!? でも、先輩はなんだか自分でもよく分からないような表情で、切なげに言ったんです。 「・・・ハルカ、なんていうか・・・キミを、わたし一人のものにしたいの!だから今日だけは・・・」 ・・・先輩、泣きそうだったんです。 「え?よく分からない・・・・・・」 困惑、してしまって。 先輩も少し、混乱しているようで。 お互い、落ちつくのを少し待つ事にしました。 冷静になった雪乃先輩は、ボクに思いの丈をぶつけて来ました。 ・・・あまりによく分からない事ばかりで。 「あのね・・・キミの事考えてたら切なくて、なんていうか・・・ハルカが他の人と話してるのすら、イヤになってきちゃってね?だから、今日一日だけは、キミをわたし一人のものにしたくって・・・・・・」 ・・・雪乃先輩、泣きそうだったから。 ボクは先輩の事、ぎゅっとして。 「大丈夫ですよ・・・ボクは先輩の事、好きだから」 ・・・こんな事言うから、抱きしめながら、顔を真っ赤にしちゃった。 先輩は、ボクの頭をやさしく撫でながら。 ・・・でも、まだなんだか、悲しそうで。 「わかりました!でも、今日一日だけ、ですからね?」 先輩はボクの首に手際よく首輪を巻きつけます。 ・・・ヘンな感じ。いつもいぬって、こんなのしてるのかな・・・なんて。 シロも、なのかな? 先輩はボクの様子を見て、少しだけ照れたように笑いました。 「・・・どうですか?」 思わず、たずねます。 「・・・う〜ん、わたしってばこういう趣味は無いんだけどね・・・・・・」 って、また苦笑いしながら答える、雪乃先輩。 それにしてもなんでまた、こんなこと、先輩ってば考えちゃったんだろ? 少しだけそれが、気になります。 首輪に繋がった鎖は、ひとまず先輩の部屋のタンスの取っ手に繋ぐ事にしました。 なんだか、本当に先輩の飼い犬になった気分・・・でも、先輩のペットだったらそんなに悪い気は、しないかもしんないけど。 ・・・いつも、ペットみたいなもんだしなぁ・・・着せかえ人形のように女装させられっぱなしだし。 今日のボクの衣装は、黒いYシャツにネクタイ、それに半ズボンと言う。 「・・・う〜ん、ますますそれっぽくなってしまった・・・」 ボクにそんなカッコさせながら、先輩は一人頭を抱えてしまいました。 ・・・本当に先輩の考えている事が、よく分からない。 ・・・別に鎖で繋がれても、いつもとたいして変わらない感じ。 先輩の部屋にいるときは、何するでもなしに他愛の無い話をしてばかりだから。 そして、今日もずっと、そんな感じだけど・・・。 ただ、鎖の鈍い光だけが、少し重かったりして。 「・・・この鎖はね?」 先輩がボクに寄り添って、鎖を手に取りながら言いました。 「・・・本当は、赤い糸、だったのかな?」 つぶやくように。そして、悲しげに。 ボクはその表情に、思わずドキドキしてしまって。 「・・・赤い、糸?」 ボクはなんだかヘンに顔が熱くなってきちゃって、どうしようもなくてそれだけたずねました。 雪乃先輩はうなずいて、 「でも、なんだか頼りなくて・・・だからって、こんな鎖でハルカ繋いじゃう事無いじゃない、ねぇ?」 と、本当に今にも泣きだしそうな顔して、言いました。 どうしてそんなに、かなしいの? 雪乃先輩・・・・・・。 雪乃先輩はボクをむぎゅっと、抱きしめました。 ちょうど、バランスが崩れて、ボクは後ろに倒れこんでしまいます。 ・・・雪乃先輩に、押し倒された格好・・・・・・・。 でも先輩は気にも留めず、ゆっくりと、ボクのくちびるにキスしました。 ・・・コレは、マズイ。 ヤバイよ、どうしよう・・・・・・? 「せ、先輩っ!?」 覆い被さるようにして抱きしめる先輩に、ボクは声を絞りだすようにして、訴えます。 「ダメですよ、こんなの・・・だって、ボク達・・・」 ・・・先輩は顔を上げて、ボクを見つめました。 ぷにぷにとしたほっぺ、桜色で。 ちょっと瞳が、うるんでて・・・・・・、 そして、ぷるんとしたくちびるが幽かに開いて、つぶやきました。 「ハルカ・・・分かってる」 そして、ボクの頬に先輩の頬がちょうどくっつくように倒れこんで、うずくまって。 耳元で、先輩は言います。 「だってハルカ、そういうのイヤだって言ったから・・・絶対しないけど。でもね?少しこのままで、いさせて・・・?」 ・・・そのあまったるくて色っぽい声に、ボクの心臓は爆発寸前に・・・。 息がつまるほど。 ボクはやっとの思いでうなずいて、答えました。 「うん、今日は先輩のものだから・・・でも、ゴメンなさい、そういうのはやっぱダメだし・・・」 すると、先輩も笑いながら。 「大丈夫よ、わたしだってえっちしたいとか思わないもの」 ・・・・・・そういうこと、あからさまに言っちゃうなんて、先輩ってば無神経なんだから!! もう、顔が真っ赤で、めまいまでしてきちゃうじゃないかぁ・・・・・・。 でも、ボク達はこのままで。 すっかり、時間が止まってしまったようで、よく分からないけど・・・ずーっと、ずーっと、そのままで。 先輩はボクの髪をかきあげて、首筋にそっと、キスをしました・・・。 コレまでで、一番どきどきしたキス、だったかも。 そのあと、二人離れてからも、隣同士寄り添って。 ボクの頭を膝の上に乗せて、髪をやさしく撫でる雪乃先輩。なんだかボク、これじゃ先輩の飼ってるイヌになったみたい・・・。 「・・・どう、かな・・・・・・こういうの」 先輩の膝がやわらかくて、ボクはすっかり穏やかな気分になっていました。 「うーん・・・ずぅっと、このままでいたい感じです・・・・・・」 ちょっと照れながら、ボクは小さな声で、言いました。 「でも、いぬはちょっと、イヤかな」 すると先輩は、申し訳なさそうな顔をして。 「ゴメンね、ヘンな事言いだして・・・まったくわたしってば、ハルカにいつも迷惑かけてばかり・・・」 その顔が、悲しそうだったから。 ボクは先輩に、ゆっくりと、キスをしました。 「・・・ハルカ」 すこし驚いた様子の雪乃先輩に、 「だってボクは、雪乃先輩の恋人なんですからね!?」 と、少しだけムキになって、言いました。 「なにもこんなことしなくっても、ボクはずぅっと、先輩のそばにいるんだから・・・・・・」 ・・・ちょっと信用されて無かったみたいで、くやしい。 「そうね、もうこんなもの、いらないわ」 先輩はふっと我に帰ったように、ボクの首輪を外すと、ぽーんと部屋の隅っこに放り投げました。 気が付けば、いつもとおんなじ、にっこりと少し大胆不敵な笑顔。 「・・・先輩?」 突然の事で、ボクは少し呆然として。 そんなぽやーんとしているボクを、先輩はぎゅっと抱きしめて。 「そうよねぇ、だってこのまんまで良いんだモノ・・・ハルカ、ゴメンね?」 謝ったけど、その表情は笑顔で。 ・・・安心した。 「先輩、なにか悩み事があったらきちんとボクに言ってくださいね!?」 顔を胸元にぎゅうぎゅうとされて顔を赤くしながら、ボクは少しムキになって、言いました。 先輩は笑って、 「そうするから・・・」 というと、ボクの額に、やさしくキス。 ・・・気が付けば、もう7時を回っています。 「あ、もう帰らなきゃ」 少し慌てるボクに、先輩は笑顔で。 「うん、じゃあ一緒に帰りましょ?」 って、やさしく言いました。 すっかり日が落ちて、静かな中に、まぁるい月。 「もう、すっかり日も短くなっちゃったね・・・」 先輩は少し驚嘆するように言いました。 「だってもう9月も中ごろですよ?」 少し見上げて、ボクも答えます。 そのあとは虫の声に耳を澄ませながら、二人並んで歩きます。 別れ際に、でも今日のアレはちょっとマズイ、と思ったので。 「先輩・・・やっぱりあれ、一歩間違えれば犯罪ですよ?気を付けてくださいね・・・」 う〜ん、困っちゃうよね・・・。 でも先輩はあっけらかんと、 「もう二度としないわ、あんなこと・・・思いだすだけで気分悪くなってきちゃう」 と、つぶやきました。 そして、またボクにやさしくキスをして、 「じゃあハルカ、また明日、学校で」 と、やさしく頭を撫でながら言いました。 ボクはなんだか、またドキドキしてきちゃって。 雪乃先輩の後ろ姿、見えなくなるまで見送っちゃったりして・・・・・・。 部屋に戻ると、子犬の霊のシロが、不機嫌そうに出迎えました。 「はるかくん、ゆきのちゃんにへんなことされてたでしょ」 毛布をガジガジしながら、ムッとした声で。 「なんだよ、先輩にヘンな事なんてされてないもんね・・・」 「だってぼくみたいにつながれてたじゃないか・・・」 「それはね・・・う〜ん、しかたないの」 「しかたない?」 シロはヘンなの・・・、って表情でボクをジーっと見つめました。 「そう、先輩時々ヘンなんだ・・・だからボクがいてあげなきゃ」 「そうかな?だってちょっとこわいよ、ゆきのちゃん・・・悪いひとじゃ、ないけどね・・・」 シロはやっぱり不機嫌そう。 「あ、今日遊んであげなかったから、ちょっとすねてる?」 悪戯っぽく、ボクは言いました。 するとシロはムキになって、 「そうだよ!だってはるかくんってばゆきのちゃんのことばかりで、ぼくのことなんてちぃっとも相手にしてくんない・・・」 「だってキミ、他の人には見えないんだよ?」 シロと外出遊んだりなんかしたら、ヘンな人に思われちゃう。 シロはようやく、引き下がりました。 そして気が付くと、どうやら外に出かけてしまったみたい。 ・・・今日は先輩、ヘンだった。 なにか悩んでる事が、あるのかなぁ・・・・・・? 「ピンクウサギの憂鬱」 「ぺるなちゃんからのぷれぜんとでぇ〜っす!!」 あのピンクテロリストを標榜する可愛いもの好きの三国まいなさんが、旋光の輪舞の台に真剣になって向かっています。 ぴょこぴょこ揺れる、うさみみ。 ちょうど、ディスプレイでレーザーやら弾幕を撃ち跳ね回るロボット「カストラート」も、そのパイロットのペルナも、なんだかうさうさしています。 「わーい、かっちゃった」 ・・・三国さん、どうやら勝ったみたい。 向かいの台から、 「あー、悔しいわ・・・」 と、雪乃先輩の声。 そうです、三国さんはどうやら、雪乃先輩が紹介したこのゲームに、はまってしまったようなんです・・・・・・。 ひょんなことから、いつもの屋上に集まるメンバーが、三国さんのお家に行く事になりました。 「あのね・・・、今日はウサギの、ぬいぐるみができたけど・・・、どれが一番可愛いか、みんなで選んで・・・・・・?」 妙な申し出に、みんなヘンな顔しながらも、ぞろぞろと三国さんのお家へ向かいました。 駐車場に、ピンク色のウサギのマークが入った、妙に愛嬌のある顔のクルマが一台。 「お、インプレッサじゃん・・・」 バイクだけじゃなくモータースポーツ全般に詳しい隼人君が、すこし驚いてます。 「すっげー・・・」 「ウサギ・・・」 眼鏡を直しながら、如月先輩がクルマをまじまじと見つめます。 「これ、まいなちゃんの趣味?」 雪乃先輩が、うさみみをぴょこぴょことさせている三国さんにたずねました。 「・・・コレは、お父さんが・・・。このクルマに、関係あるって・・・」 ちょっとたどたどしい、話し方。 三国さん、少しおしゃべりには慣れてないみたいです。 「あー、ラビットかぁ・・・そういえばSTI、このエンブレム出してたよなぁ・・・このピンク色も、STIのイメージカラーなんだぜ?でも三国の趣味にぴったりじゃん・・・」 隼人君が、少し説明してくれます。 「なぁ、三国の親父さん、ラリーとか好きなの?」 隼人君がたずねるけど、いつも話しなれてない三国さんはちょっとびくっとして、 「えっと、知らない・・・っ」 とだけ言って、顔をぷいっとそむけてしまいました。 「・・・オレ、三国に悪い事聞いちゃった?」 隼人君、ちょっとだけ気にしてます。 すると、六条先輩がフォローをいれて。 「あら、そんな事は無いと思いますわ?ただ、あなたとほとんど話した事無いから、ビックリしちゃっただけですわ?」 六条先輩、三国さんの頭を撫でながら言います。 なんだか、仲の良い姉妹みたいです。 三国さんは、すこしだけ決まりの悪い顔して、 「はやとくん・・・ごめんね・・・?」 と、上目使いで言います。 そしたら隼人君、ちょっと照れちゃって。 「いや、わりぃって、そんな事ねーよ・・・オレの事、イヤじゃ無いっしょ?じゃ、いいや・・・あは、アハハハ」 ・・・隼人君、ひょっとして三国さんのこと・・・? 部屋に入るなり、ものすごい数のウサギのぬいぐるみ。 「ちょっと・・・コレは・・・・・・」 あの雪乃先輩が、圧倒されています。 壁に敷き詰められた色とりどりのウサギのぬいぐるみ、ゆうに100個は超えています・・・。 三国さんは、大きなぬいぐるみをベッドから出して、ぎゅっと抱きしめました。 「わたし・・・うさぎさん・・・好き、だから・・・・・・」 学校でも、うさぎさんのぬいぐるみを離さず持っていて、ウサギ小屋の前でいつもウサギを見つめてる、三国さん。 ボク達が入学したての頃、ウサギ小屋が「何者か」に荒らされた時、一番悲しんでたのは、三国さんだった・・・・・・。 「あのね、みんな・・・コレ、食べて?」 そんな三国さんがボクたちに出してくれたのは、ウサギのサブレ。 「あら、まいなさん・・・ありがとう☆」 と、六条先輩が耳からかぶりつこうとすると。 「だ、だめぇ〜!!」 珍しく、大声で止めます。 「・・・どうしましたの?」 ちょっとビックリして、六条先輩がたずねると。 「うさぎさんは・・・みみから食べちゃ、ダメなの・・・・・・」 「・・・じゃあ、どう食べれば良いのかしら?」 ・・・・・・どうすればいいんだよぅ。 三国さんの新作ウサギは、なんと七色。 「どれが・・・一番かわいい、かな・・・?」 七色もある上、みんな違う品種。耳が小ぶりなのとか、垂れてるのとか・・・。 どれも個性的で、とっても可愛い。 「三国さん・・・みんなかわいいよ?」 ボクは少し悩んだ末、答えました。 だってホントにみんなかわいくて、どれが一番なんかって、決められないから。 すると三国さんはハッとしたような表情で、 「・・・そっか、みんな、オンリーワン・・・だね」 と言って、ぬいぐるみみんな、ぎゅっと抱きしめました。 「まいなちゃん、ウサギも良いけど、恋の方はどうなのかしら?」 ちょっと意地悪げに、雪乃先輩が言います。 ホント、ちょっと意地が悪いですよ!? 「・・・だって、男の子、可愛く無いんだもの・・・遙ちゃんは、別だけどでも・・・違う・・・」 ・・・どうやらうさみみが似合う男の子が、良いみたい? 「・・・う〜ん」 雪乃先輩、少し頭を抱えてます。 「まぁまぁ、慌てる必要は無いですわ?」 ちょっと心配そうな顔になった三国さんに、六条先輩はやさしく言いました。 六条先輩ってちっちゃいけど、お姉さんみたいな感じですね・・・。 雪乃先輩もお姉さんみたいな感じだけど、でもやっぱり違うんだよね。 難しいなぁ、もぅ。 けっきょく品評会はお開きにして、とりあえず出掛ける事にしました。 どこが良いか歩きながら考えていると、 「そうだ!ゲーセン行こうぜ!?ギルティの新作でたしよ!」 と、アーケードの格ゲーからPCのエロゲーまでこなすゲーマーな秋山和樹君が提案します。 「えぇ!?ギルティギア新作!?」 雪乃先輩、大声で。 ・・・あのブリジット目当てなのか・・・・・・。ブリジット君、絶対男の子には見えないよね・・・。 「じゃあ行きましょ!あー久しぶりに腕がなるわ?」 先輩は大胆不敵な笑顔で、走りだしました。 「ちょ、雪乃!?」 如月先輩、少し慌てて付いていきます。 ・・・・・・三国さん、すこし心配そうな顔で、取り残されたように。 「・・・ゲームセンター、は・・・ちょっと、怖いです・・・」 ごもっとも。昔は不良の溜まり場だったから、ねぇ・・・。 不良10人を一瞬でブッ倒す雪乃先輩ならともかく、普通の女の子にはちょっと近寄りがたいのかも。 ボクも、怖いし。 すると大鳥先輩が言います。 「三国さん、大丈夫。今はそんなのいないし、みんないるんだから・・・もしも不良が来たら、俺がなんとかするよ」 身長が180センチ以上もあるカッコイイ大鳥先輩の言葉、説得力があります。 その言葉に促されたのかな、三国さんは少しびくびくしながらも、みんなのあとを付いていきました。 ゲームセンターに付くなり、雪乃先輩は早速旋光の輪舞を始めます。 「ね、ハルカ!ツィーラン使ってツィーラン」 妙にうれしそうに、ボクを誘う雪乃先輩。 でもボクは三条櫻子さん(なんか、六条先輩に名前が似てませんか?)を使うことに。 「ハルカぁ!?やっぱりおっぱい大きい人が好きなのね!?」 なぜか妙なところでヤキモチを妬かれてしまいます・・・・・・。 でも、別に櫻子さんのおっぱいが大きいから選んでるわけじゃないんですよ・・・? トライアドのキック技みてると、なんだか雪乃先輩を連想してしまって・・・・・・。 ・・・・・・おとといの雪乃先輩のマキトさんへの飛び蹴り、壮絶でした・・・・・・。 そんなボクたちを尻目にちりぢりになるみんな。 でも、一人取り残されちゃった、三国さん。 「・・・どうしたの?」 ボクが声をかけると。 「遙ちゃん・・・よく、わかんない・・・・・・」 ごもっとも。 ボクも初めてゲーセン来たとき、何がなんだかよくわかんなかったもんね。 ボクはあっさり、雪乃先輩に負けてしまいました。 そして大きくツィーラン君のカットイン。 「この子、男の子なんだよ・・・?」 先輩が、三国さんに言います。 三国さん、少し驚いてる・・・いや、ツィーランが男だと知ってボクもビックリしました。いや、誰もが驚いたに違いない、間違い無い。 でも次の瞬間には、妙にうれしそうに。 「ねこみみ・・・・・・ねぇ雪乃ちゃん、うさみみ、は?」 流石ウサギ大好き。 ・・・・・・そういえば、このゲーム、ウサギとピンク色が大好きな三国さんにはうってつけのキャラクターがいるんです。 「あ、ペルナちゃん」 「・・・?」 興味津々の三国さん、さっそくコインを入れました。 ・・・キャラクター選択画面でペルナをみたときの三国さん、いままでみた事無いほどうれしそうです。 なんか、ときめいてました・・・・・・。 初めてのセンコロではやっぱり負けてしまった三国さんですが、負けちゃってもなんだかうれしそう。 「ペルナちゃん・・・良い、なぁ・・・」 うさみみ少女がうさみみ少女操るうさうさしたロボットを駆る訳です。なんか、ヘンな感じ。 「あー、今日は遊んだぁ・・・それにしても隼人、やっぱお前には勝てねえよ!!」 ギルティギアの新作やると言ってたはずの秋山君は、ずっと隼人君と湾岸MIDNIGHTをやってたみたい。 そりゃあそうだよなぁ・・・だって隼人君、毎週バイクで峠を攻めてるんですから。 「ハハハ、和樹修行が足りねーよwwww」 得意げな隼人君、悔しそうな秋山君、その他みんなもいろいろな気持ちで。 そして三国さんは、雪乃先輩とボクに、言いました。 「ねぇ、遙ちゃん、雪乃ちゃん・・・来週もまた、一緒に・・・ね?」 雪乃先輩は大喜びで、 「そうね、また来ましょっか!」 と、明るく言いました。 ボクは少し、げんなり・・・・・・。 「あー、じゃあ来週もツィーランの衣装ハルカに着せないとなぁ・・・どれがいいかしら?」 「ねこみみ・・・・・・」 ・・・・・・雪乃先輩、4種類全部作ったんです。まったく、もぅ・・・・・・。 そして、今日。 それにしても、雪乃先輩を追い詰めるなんて・・・三国さん、通い詰めてたのかなぁ!? 「まいなちゃん強すぎ・・・練習したの?」 三国さんはこっくりとうなずいて。 「この・・・マイケルくんと・・・一緒に、毎日・・・・・・」 ・・・ウサギに名前、付けてたんだ・・・・・・。 それにしても、毎日って、ねぇ。 「ねぇまいなちゃん、これ面白い?」 「うん・・・・・・ウサギさん、大好きだから・・・・・・」 ・・・・・・なんだかなぁ。 「女装の教室」 入学したての頃は教室のすみっこでぽつんといたボクも、気が付けば沢山の友達が出来て。 でも、なんかヤケに、女子の制服着てって、言われます。それもクラスの女子に・・・。 ボクは好きで女の子のカッコしてるんじゃないんだからね!?・・・先輩が、かわいいって言ってくれるから・・・・・・。 「ねぇ、井上君・・・」 同じクラスの女の子が、ボクに声をかけました。 ・・・ボク、さっきまで屋上にいて、先輩に案の定女子の制服を着せられてました・・・いや、今も。 ・・・・・・だって、着替える時間が無かったんだもん!! 多分それで、この人もボクに声をかけたんだと思うんですけど・・・。 なんか、ニヤニヤしてるし。 「井上君てさー、やっぱ女子の制服似合うよねー!」 周りの女の子みんな、うなずきます。 ・・・なんか、イライラします。 「女子の制服って、どんな感じ?」 そんなボクの様子も気にせず、女の子はボクに質問します。 よっぽど、「気分最悪」って答えようと思ったんですけど・・・・・・。 ・・・視線が、キラキラしてて。 「えっと・・・なんか、スースーするし、ヘンな感じです」 ・・・ボクの意気地無し。 ホンットボクってば、女の子には強く出られないんだよなぁ・・・あ、男の子にもか。 ボクの返答に、女の子は妙に喜んでます。 「ねーねー、やっぱ休みの日も女装するの?」 「なんで井上君ってそんなにかわいいの・・・」 ・・・うぅっ。 なんかよく分かんないうちに、質問攻めです!! ボクを中心に女の子が集まってるもんだから、今度は男子も寄ってきます。 「どーしたん?」 隼人君、輪の中に入ってくると。 「仁科君、見てよー井上君・・・かわいいよねー」 あぁ、また余計な事を・・・。 隼人君、女子の制服のままのボクを見て、言いました。 「オマエなー・・・まだそのカッコだったのかよ」 目のやり場が無い、って感じ。 「だって、着替える時間が無かったんだもん・・・」 少し、しゅんとして。 すると隼人君、ボクの頭を唐突に撫でて。 「ま、いっけどさ・・・」 ・・・・・・隼人君の目が、妙にキラキラしてるんですが。 そんな隼人君をよそに、他の男子が唐突にボクにたずねます。 「なー遙、やっぱ女装って・・・気持ち良い?」 ニヤニヤしながら。 内心、「そんなワケ無いじゃないか!!今すぐにでも脱ぎ捨てたい気分だよ!!」と、叫んでましたけど・・・。 でも、他の人の女子制服の姿、見てみたくなっちゃった。 ・・・だから、ボクはちょっと意地悪く、こういってやりました。 「・・・キミもやってみれば?やらないとわかんないなー、この感じは・・・・・・」 女子からはすぐに、 「えー!?井上君だから許されるのにィ・・・」 とか妙な不満の声が上がっていますが、一方男子は、 「へー、女装面白そうじゃん!今度やろうぜ!?」 なんて言いだすヤツがいて、その声にみんな同調するんです。 なんかヘンな騒ぎになって、収拾付かなくなっちゃった・・・。 ・・・・・・コレはちょっと楽しみ、かも。 ヘンにタイミングの良い事に、次の授業は保健体育。 今日の授業は、「セックスとジェンダー」。 ・・・・・・そのお題のせいか、特に男子が、授業前から騒がしいです。 「おい!隼人、セックスだってよセックス!!」 和樹君、妙に喜んでます。 でも意外と冷静な隼人君。 「和樹、オマエパスポート持ってないの?」 ・・・性別欄に、sexって書いてありますよね?当然の事ながら性別の事です。 みんなまったく・・・何を勘違いしてるのかなぁ。困りますよね? すると突然、先生が騒がしい教室にやって来ました。 「まぁ〜1組は相変わらず騒がしいのね・・・何?今日のお題が悪かったかしら?誤解しても当然かもしれませんね・・・」 色白で丸顔の、ふっくらした感じの美人教師、五月先生です。 五月先生は眼鏡をくいっと直し、教卓に付きました。 「さぁさぁこっち向いたー!今日は皆さんお待ちかね、『セックスとジェンダー』について、勉強し、そして自分たち自身で考えてみましょう!」 にっこりと、やさしい笑顔で言います。 絶対に怒らないやさしい、キレイな先生です・・・でも、雪乃先輩には、負けるけどねー! 五月先生の授業はとっても分かりやすく、そして色々な事を考えさせてくれる授業です。 今日の問題提起は、「社会的性別は肉体的性別によってのみ規定されているのか?」ちょっと、むずかしいけど。 「つまり、私たちは『男らしさ』『女らしさ』という価値観が大きな位置を占める社会に生きています。そして、さっきも言った通り人間はやっぱり男と女では体格も、考え方も、そして子供を生むということでも、違っているのです。でも本当に、『女らしさ』とか『男らしさ』というのはそれだけなのでしょうか?今日はそれを、みんなで考えていきたいと思います」 ・・・う〜ん、やっぱりボクには、ちょっと難しい。 周りを見ると、授業直前「セックス」という言葉でサルのように騒いでいたのがウソのように、真剣に聞き、考えています。 納得して、うなずいてる人もいれば、良く分かんないと言うふうな人も・・・ボクみたいに。 そこで五月先生は、とんでもない具体例を挙げたのです。 「じゃあ、まず服装について考えてみましょう!」 にっこり微笑みながら、手を叩いて五月先生は言いました。 確かに、男物女物、ってあるし、ものすごく当たり前のように考えてたけど・・・・・・。 ・・・・・・ボク、雪乃先輩に女装させられまくってます。 「せんせーい、なんで服装なんですか?」 男子の一人が手を挙げて、発言しました。いつもは全然授業を聞かない人なんだけど・・・。 「あら、まずはそれをお話ししなきゃいけませんね?」 まってました、とばかりにまた手を叩く先生。 「あなた達は制服を着てるでしょう?でも男子はズボン、女子はスカート。なんでだか考えた事、ある?」 ・・・・・・今ボクってば、スカートなんですけどぅ・・・・・・。 すると隼人君が答えます。 「それってアレでしょ?男はすね毛が生えてるから似合わないからじゃないんですか?」 ・・・普通、男にはスカートなんて、似合わないもんね・・・ボクはよく似あうって、言われちゃうんですけど・・・。 すると先生、にこにことして答えます。 「そうとも限りません。例えばスコットランドでは巻きつけるタイプのスカートが男性の伝統衣装として有名ですし、他にも男性がスカートあるいはそれに近いものをはいているということは意外と多いんです・・・ただ、一般的な場所ではやっぱりスカートは女性のものでしょう?それに・・・」 ・・・・・・五月先生はとっさにボクの方を向いて。 「・・・女の子とおんなじくらい、いいえひょっとしたらそんじょそこいらの女の子よりずっとスカートが似合う男の子だっているでしょう?」 ・・・コレじゃ、ほとんど名指しですよぅ・・・。 「それって遙?」 隼人君が身を乗りだして聞きます。イジワル・・・。 それに五月先生は意味深な笑顔で、 「ご想像におまかせします☆」 ・・・って、ボクの方をちらり見ながら。 なんだかなぁ・・・。 授業はその後も楽しく(ボクにとってはちょっと楽しくなかったんですけど・・・)進み、もうチャイムのなる時間。 「じゃあ来週も、この問題について議論しましょう。・・・先生個人の意見ですけど、もっとスカートを男の人が普通にはいたりする社会が来ても良いと思います。だってそれは男性女性関係無いと、私は思うんですけど・・・」 ・・・この人何言ってるんだろう。 いつもは正論を言う人なんですけど、時々五月先生って、ずれてる気がします。 号令の後、五月先生が教室を出ると、とっさに隼人君がボクに耳打ち。 「・・・なぁ遙。五月先生ってさ、ショタコンなんだってさー・・・可愛い男の子を見るとときめくらしい」 ・・・・・・それは教師としてどうかと・・・・・・・・・。 「ひょっとするとオマエもヤバイんじゃね?だってオマエ・・・その、かわいいし、よぉ・・・」 なんて、隼人君はちょっと顔を赤くしながら言います・・・。 なんか色々、げんなりなボク。 すると仲間内で「マスターオブエロス」の称号を賜る秋山和樹君が、聞きつけて話に入ります。 ・・・秋山君、前にボクの事「オカマヤロー」って言った割には、「女装ショタ萌え〜」なんだそうです・・・雪乃先輩も大好きなツィーランが男だと判明したときにはときめいた、と和樹君は言ってました・・・。 「え?五月先生?あーそうだよ、だって俺先生に女装モノのエロゲー何本か貸してるし逆に俺もショタ漫画借りてる」 ちょ!? ・・・なんて人たちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。 ボクたちが五月先生のショタコン疑惑で盛りあがってた頃、他のみんなはなにやら怪しい相談ごとをしています。 「・・・でよぉ、どうやったら女子の制服なんて・・・」 「どっかで貸しだしてるらしいぜ?」 「そうだ!女装のエキスパートに聞くしかねぇ!!」 ・・・なんか、話はいつの間にか、ヘンな方向に向かっていたようです・・・・・・。 「なぁ井上、その制服ってどうしたん?」 突然男子の一人が、ボクに聞きます。 「え?コレ、雪乃先輩が・・・」 ・・・勝手にボクに手渡しました。 その答えにちょっと不満そうな彼。 「・・・彼女かぁ・・・ちょっと待てよ、堀江先輩ってオマエより全然身長あったよな!?サイズあわねえんじゃねえの・・・?」 「うん・・・だからボクのサイズ測って注文したんだってさぁ・・・」 ・・・ハァ。まったく先輩ってば、つくづく非常識なんだから・・・。 でも、うちのクラスのみんなも、かなり非常識です。 「そっか・・・サイズ測って注文すれば作れるのか・・・」 ・・・そういう、問題? ・・・・・・それ以前に。 ・・・・・・・・・みんな一体、何を考えてるの!? 翌週。 その日、教室は異様な雰囲気でした。 あんまりにも違和感があって・・・いいえ、違和感とか言うレベルじゃないです。コレはもう、別次元と言うべき・・・。 保健体育の授業を前に、みんなは今か今かと待ち構えています。 真剣な顔して。 「ガララッ」 ・・・来ました。 ・・・・・・両手に大きな袋を抱えた五月先生は、驚くでなしに本当にうれしそうな顔をしていました。 「まぁみんな!!ちゃんとスカートはいてきてくれたのね!?」 そして教卓に付くなり、その上に袋を置き、中を見せました。 ・・・・・・男子の人数分の、スカート。 「折角用意したんだけど・・・まぁいっか。・・・あれ?私はいてくるように言いましたっけ?ま、良いわ。授業を始めましょう!」 ・・・クラスの男子全員が(ボク含め・・・間違って着てきちゃいました・・・)女装すると言う、とんでもない空間。 ぽややんとした先生率いる、これぞまさしく女装の教室。 ・・・・・・・・・スカートはくんだったら、せめてみんなムダ毛処理くらいしてよ・・・毛むくじゃらの足がスカートからにょっきり出ていて・・・・・・はっきり言って、キモイです。 「撲殺て(ry」 「ゆぅき〜のせんぱぁい♪」 ある日曜日。 ボクは、いつものように雪乃先輩のお家をたずねます。 そして、玄関から大声で呼んだのですが・・・・・・。 「ドカッ!バキィッ!!!」 突然、大きな音が響きます。何かがへし折れる音、床が抜けたような音・・・。 何が起こったのか分かりませんが、怖いです・・・。 その謎の轟音はしばらく続き、ボクはビクビクしながら玄関の前で待っていました。 しばらくして、ようやくドアが開きます。 「あら、ハルカおはよう☆」 満面の笑みの、雪乃先輩。いつも通り、なんだけど・・・・・・。 ・・・・・・・・・服には、返り血。 ボクは卒倒寸前になりながら、 「せ、先輩!!どうしたんですか!?」 と、大声で叫びました・・・だって、こんな事になってるんですよ!?パジャマも少し破けてるし・・・・・・。 ・・・でも、そんな心配するボクに対し、先輩はあっけらかんと返します。 「あぁコレ?ちょっと、ね・・・」 ちょっと困ったような、呆れたような表情。 でもボクはやっぱり心配です!! 「ちょっとじゃ分かりません!誰かに酷いことされそうだったんですか!?」 ・・・そして、相手は酷い返り撃ちに遭ったのかなぁ・・・・・・。 すると先輩、今度は呆れ果てた顔して言いました。 「マキト兄さん、わたしが寝てるスキにキスしようとしたのよ!?信じられる!?」 マキトさんが・・・キスぅ!? 「そうだったんですか!?」 ボクはそれを聞いて憤慨しました。フンガー。 だって恋人のくちびるが奪われそうになったとあっては、いくらボクでも、それに相手がマキトさんでも黙ってられません! ボクは居ても立ってもいられなくて、先輩のウチに飛びこみました。 「マキトさん!!」 大声出しながら掛けこむと、目の前にはボッコボコの顔して倒れているマキトさんの姿がありました。 「・・・あれ?」 あんまり酷い様子で、ちょっとボーゼンとしてたのですが・・・・・・。 ・・・さっきの物音は、雪乃先輩がマキトさんに仕返しする音だったのかな・・・・・・? そんなことぼんやり考えていると、酷い顔のマキトさんがうめくように言いました。 「うぅ〜、ハルカぁ・・・雪乃ッてばヒデエんだぜ!?ただ挨拶代わりにキスしようと思っただけなのによー・・・」 ・・・うわぁ・・・・・・。 ボクは、なんとも言えなくて、ノーリアクション。 するとちょっと不機嫌な雪乃先輩が、掛けこんで来ました。 「まったく・・・寝てる人間のくちびる奪おうだなんて・・・人として最低!」 ちょっと、どころじゃありませんでした・・・普段は冷静な先輩が、顔を真っ赤にして怒ってます。 そりゃ、そうですよ!ボクだって・・・・・・。 「マキトさん!先輩に何しようとしてるんですか!?」 先輩とボクに責め立てられて、それでも悪びれる様子も無くマキトさんはあっさりと答えます。 「だって、欧米じゃキスなんて挨拶だぜ?なぁ雪乃、オマエも1年くらいイタリアに・・・」 その様子が、先輩の癪に障ったようでした・・・。 ドンッッッ。 雪乃先輩は、怒りをあらわに床を踏みしだきました。 そして、恐ろしい目つきで睨みつけながら、言います。 「兄さん・・・ココは日本でわたしは日本人よ?いい加減にして頂戴」 ・・・怖いよぅ・・・。 「ちょ、雪乃!落ちつけ、話せば分かる・・・」 あのマキトさんが、動揺してます・・・。 でも雪乃先輩、この上なく冷酷な視線をマキトさんに浴びせて。 「そんなはず無いじゃない?」 ・・・にっこりと、言いました。 あの恐ろしい、目つきで・・・。 そして鋭い蹴り一閃。 マキトさんの身体は、サッカーボールのようにかるーく、部屋の隅っこまで飛んでゆきました。 ・・・先輩、マキトさんにはホントに厳しいと言うか、なんていうか・・・。 でも、そんな恐ろしい一面を見せたさっきの様子とは、本当に同一人物か!?というくらいの猫鳴き声で、先輩はボクの頭を撫でました。 「ねぇハルカ?わたしのくちびるは、キミだけのものだものねぇ?」 なんて言いながら、ボクにキス。 ・・・ボクを抱き寄せた拍子にパジャマの破けたところがずり落ちて、ブラジャーが、丸見えにィ・・・!? でも先輩はそんな様子おかまい無しで、むぎゅーっとしながら、長いキスを続けます。 ・・・・・・ん? 「ふぇ、ふぇんぷぁい?」 微かな鈍い鉄のような味に、思わずくちびるを重ねたままボクは訴えます。 雪乃先輩はそれを分かってて、ちょっとの間離してくれなかったんですけど・・・。 ようやくボクを解放すると、不思議そうな顔して、 「ハルカ、どうしたの?」 と、たずねます。 ボクは少し顔を青くしながら、 「せ、先輩・・・血の味が・・・」 と、訴えます。 でも先輩、気にする様子も無く、 「あ、ホントだ・・・口の中、ちょっと切れちゃった」 と言うなり、またボクにキスするんですよ!? その様子には、流石のマキトさんも呆れて、 「・・・あー気分わりぃ、オレバイク乗ってくるわ」 と、青いあざになった頬をさすりながらトボトボとライディングジャケットを羽織って、外に出ました。 しばらくすると、マキトさんのバイクが爆音を響かせ、飛びだしていったみたい。(機種はGSX1100Sカタナというんだそうです。なんでも、『キリン』という漫画の主人公のバイクのレプリカらしく、天下第一刀という名前を付けてます・・・マキトさんってアホ・・・) バイクが遠ざかると、雪乃先輩は溜息一つ付いて、 「はぁ・・・ようやくアホがいなくなったわ」 と、安堵したように言いました。 ボクは、おもわず雪乃先輩がマキトさんにキスされちゃってないか、心配になって来ました・・・。 「先輩ッ!?その・・・」 でも、とっさには言葉が出ません、ボクってば・・・うつむいちゃったりして。 先輩は少し心配そうな顔で、 「ハルカ?」 と、ボクの顔を覗き込みます。 ボクは少し涙目になっちゃって、 「そのッ、マキトさんにキス、されちゃってないよね!?」 と、思いきって聞いたんです。 本当に心配で、顔が真っ赤になっちゃって。 すると、先輩は笑いながら、 「ヤだなぁ・・・何心配してるのかしら?わたしはハルカだけなのよ、マキト兄さんになんかキスされるワケ無いじゃない・・・」 と、ボクをぎゅっとしながら、やさしく言います。 ・・・さっきマキトさんをボッコボコに伸した、白く細い、キレイな腕で。 ボクは思わず、言いました。 「先輩・・・こんなキレイな腕なんだから、もう殴ったりとか怖い事しないで欲しいです・・・似合わないよ・・・」 なんでこんな事言ったのか、自分でもよく分かんないけど。 それに、雪乃先輩ってば、 「とは言ってもねぇ・・・やっぱりハルカのため、だから」 なんて、よく分からないこと言うんです。 そして先輩はいきなり更に強く抱きしめて、 「ハルカってば、可愛いんだからぁ・・・!」 って、頬ずりまでしてくるんです!! う〜ん、うれしいんだけど・・・・・・。 コレじゃどっちが酷いことされそうになってたのか、よくわかんないよ!? ・・・とある峠。 マキトは愛車を駐車場に止め、缶のスポーツドリンクを頬に当てていた。 「あー、いてぇ・・・雪乃てばなんだってオレを目の敵にするかねぇ・・・」 カタナに腰かけながらぼやいていると、目の前から一台のバイク・・・最新のヤマハYZF−R1が、向かってくる。 「お・・・来たなオテンバ」 R1は、マキトのカタナの隣に止まる。 ライダーは、どうやら長身の女性らしかった。 ダイジローのレプリカモデルのヘルメットを脱ぐと、R1のライダーの女性は髪をふぁさ、とかきあげた。 そしてマキトに、なれなれしい挨拶。 「よぉマキト!らしくないじゃない・・・」 「来たな、ナオ・・・てんめぇ、今一番会いたく無かったよ」 苦々しい表情のマキト。 青あざだらけの顔を見るなり、ナオは興味津々にマキトにたずねた。 「ねぇどうしたの?それ・・・珍しい、ヤクザ相手にしょっちゅう半殺しにしてるマキトが」 マキトは如何にもうっとうしい、という表情で顔をそむけた。 しかしナオはそむけた顔に視線をあわせ、しつこくたずねる。 「マキトをココまでボッコボコにするヤツ、会ってみたいなぁ・・・」 するとマキトは、仕方ないとばかりに言った。 苦虫を噛み潰すような表情で。 「・・・雪乃だよ。ほら前に話した、オレの可愛い妹分」 ナオは、4歳違いの可愛いといういとこの話は聞いていた・・・が。 「そこまで凶暴かつ強靭な娘さんとは・・・」 「写真、見る?」 今度は意外にもあっさりと、マキトはナオにケータイを手渡す。 「・・・誰?この美少女」 ナオは少し不機嫌そうに、ケータイの待ちうけ画像を見ながら言った。 マキトは何故か得意げに、 「コイツが雪乃。可愛いだろ?」 と、話す。 ナオは感心して、 「へぇ・・・美人さんねぇ。このコを、マキトは狙ってたのね?」 「うん」 口をへの字に曲げながら、マキトはうなずいた。 そして心の奥底で、つぶやいた。 「あーまったくもう、ドイツもコイツも・・・なんだってオレをほっといてくれねえもんかねぇ!?」 「バカばっか・・・」 今日も今日とて雪乃先輩のおへや。 でも今日は他の友達が用事があって来れなくて、かわりに珍しくマキトさんが一緒に。 ・・・あんまりの乱暴狼藉に、マキトさんは雪乃先輩のお部屋に、出入り禁止なんです。 そして雪乃先輩とマキトさんは、今日も言い争いをしているんですが・・・・・・。 ・・・原因は、ボク。 「だぁ〜から!この微妙な似合わないッぷりが良いんじゃねーか!」 「何言ってるの!?ハルカにはひらひらした愛らしいカッコが似合うんだから!」 今日はボクに、セーラー服を着せるか学ランを着せるかでなぜか二人して言い争い・・・。 二人とも、ボクの事なんておかまい無しなんです・・・。 ボクは、先輩とマキトさんのオモチャじゃ、無いんですからねッ!? ・・・って、きっぱり言えたらなぁ・・・・・・。 「ほら!ハルカにはちょっとでかいだろ?このぶかぶかッぷりが可愛い後輩って感じしねえか!?」 結局、むりやり着せられちゃうんです。 しかも、ボクにあったサイズの制服って、無いんですよ・・・一番小さいサイズなのに、ボクにはぶかぶか。 なぜかマキトさん、ムキになって力説。 「いや、弟と言っても良いだろう!うは、萌えるぅ・・・なぁハルカ、おにいちゃんって言ってくれ」 ・・・雪乃先輩、マキトさんのみぞおちにパンチ一発。 苦悶の表情を浮かべくずおれるマキトさんを無視するように、先輩は甘ぁい声で、ボクに言いました。 「ねぇハルカ・・・やっぱハルカにはセーラー服が似あうよ、ねぇ?」 ねぇ、って言われても・・・・・・。 返答に、困ります。 結局今度はセーラー服着せられちゃって・・・。 「ほら、可愛いでしょ?やっぱりこっちの方がしっくり来るのよ・・・」 うんうん、とうなずきながら雪乃先輩は御満悦。 それに対して、マキトさんはちょっと不満みたい。 「そりゃあばっちり似合ってるけどよぉ・・・でも、今一つときめく何かが欠けてるんだよなぁ・・・」 ・・・ときめくって、じゃあマキトさんはボクのぶかぶかな学ラン姿にときめいちゃってたのかなぁ・・・。 ・・・・・・自分では認めたくないけど、マキトさんってやっぱり・・・・・・ショタコン? ・・・ショタって、これじゃボク、ショタキャラみたいじゃないか!!ボクは子供じゃなぁーいッッッ!!! そんな葛藤も、この堀江家のおふたがたには関係無いんです・・・。 ・・・そんな、一人悶々とするボクをよそに、雪乃先輩とマキトさんは協議会を開催し始めました・・・。 「だからハルカの足を引き立たせるにはやっぱりスカートの方が・・・」 「何を言うか!あのぶかぶかこそが可愛い弟って感じを演出するんじゃねえか!」 「弟とはまた偏狭な価値観を・・・」 ・・・この人たち、何言ってるんでしょうねぇ? 病んでますね☆ ・・・突然、二人はボクの方に向き直ります。 あんまり突然で、ボクはちょっとビクッとして。 「え・・・どうしたんですか?」 すると二人は頭をふかぶかと下げて。 「井上遙様、当堀江家・雪乃と牧人の協議の結果、やはりハルカに似合いかつ二人とも納得する服装は裸ワイシャツしかないとの強力な合意に達しました。つきましては是非こちらのYシャツを御召しいただきたくぅ・・・」 ・・・雪乃先輩も、マキトさんも、何故かマジがお。 ボクはあんまりにアホなことを二人が言いだすので、返す言葉もございません。 「・・・・・・」 呆れ果てて、無言のボク。 「・・・ハルカ?」 二人同時で、ボクに言いました。 ボクはじとーっと、二人を見つめます。 ヘンな事、考えてるんじゃないだろうなぁ・・・。 「・・・で、Yシャツは着てくれないの?」 雪乃先輩が、首をかしげてちょっとかわいこぶりっこ。 まったく、呆れた!! 「お邪魔しましたー」 とっさに遙は、きびすを返し雪乃の家を後にした。 「あ・・・・・・ハルカ!?」 慌てて引きとめようとする雪乃だが、足がもつれて転んでしまう。 「あ、雪乃!大丈夫か!?」 とっさに助けに入ろうとするマキトを、勢いよく蹴り飛ばす雪乃。 マキトはまた、サッカーボールのように軽く飛ばされた。 「いってぇ・・・またかよ・・・それよりハルカ!!」 気を取りなおして遙を追いかける雪乃とマキト。 勢いよく玄関を飛びだすと、雪乃の家の前で遙は待っていた。 二人への視線が、痛い。 「・・・なぁハルカ、さっきは悪かった」 「そうよ、冗談よ冗談・・・」 ・・・しかし遙は、 「しーらないッ」 と口を尖らせて、くるりと二人に背を向けた。 取り残された二人、呆然。 しばしの沈黙の後、マキトが重い口を開いた。 「・・・オマエさぁ、『冗談』って、マジ?」 マキトの問いに、雪乃は気まずそうな笑顔で言った。 「いいえ?本気だったわ・・・兄さんこそ」 「オレはいつだって本気だぜ?しっかしまさか・・・」 華奢な少年の後ろ姿を見送りながら。 「まさかハルカ、あんなに気難しいとはなぁ・・・」 マキトは意外そうに言った。 「あら、アレで結構扱い大変なのよ?あのコ・・・すぐすねるし、ヤキモチ妬きだし」 雪乃が悩ましげな顔で、答える。 「ふぅん・・・」 言葉につまり、マキトはタバコに火をつけた。 ふかぶかと煙を吸いこみ、思い立ったように。 「あ、雪乃・・・ハルカ襲うなよ?」 ニヤケがお。 雪乃は、少し不機嫌そうに答える。 「・・・わたしをケダモノのように言うのね・・・ハルカがイヤだって言うから、そう言う事はしないわ?」 遙は遥か彼方へ、見えない。 二人は、ふかぶかと溜息を付いた。 「The way of the bloody」 ある日、雪乃が悩んでいたのを思いだす。 「ねぇ兄さん、夢のなかの話なんだけど、周りのみんなは大きな翼を持っていると言うのにわたしだけ翼が無いの・・・」 珍しく、悲しそうな表情だった。 それも、オレに見せるなんて。 「・・・ハルカは?」 「ひときわ大きい翼を持っていたわ・・・わたしを抱き抱えて飛んでくれるの」 ・・・夢ってヤツは、どうやら暗示的なものらしく。 つまり雪乃なりのコンプレックス、と言ったところか。 「・・・兄さんは、そんな夢を見た事があるかしら?」 カーテンを開けながら、雪乃はさみしそうにつぶやいた。 オレはガラムに火を付けながら、こう答えた。 「さぁ、ね・・・ま、オレには関係無い話だけど」 ・・・翼なんかより、この地上で飛びっきりの存在になりたいんだ。 遥か地平線を駆ける銀の馬・・・ホリゾンタル・グレイズ・・・ってね。 いい加減『キリン』に影響されすぎてる気が、しないでもないがな。 だが、そんなオレを、運命と言うヤツは赦してはくれないようだ。 オレにはどうにも、やらなきゃいけないことが多すぎる・・・。 首都高最速を目指すためだけに愛車「天下第一刀」・・・GSX1100Sをブッ飛ばせればいいんだけどな・・・コイツのスロットルをひねる理由は、いつも違うんだ。 「あ、雪乃・・・例のブツ」 オレは頼まれ物の本を思いだした。 後ろを向いている雪乃に、投げ渡す。彼女はとっさに振りかえり、片手で器用にキャッチした。 「相変わらず鋭いな」 オレが笑いながら言うと、 「兄さんこそ?」 と、妙に余裕の表情で返す雪乃。 見た目はずいぶんと女らしくなったが、中身の方はちっとも変わってないみたいだ。 「・・・兄さん、コレ」 少し驚く雪乃。といってもコイツ、昔ッからめったに感情を表に出さない・・・ってか、ごまかすクセがある。 「アカシック・レコードのバックアップの方。昔から欲しがってたろ?」 オレは、精一杯の笑顔で、言ってやった。 一応、彼氏持ちのいとこながら、オレはずっとコイツに恋してるわけだ。 あんまりに不器用で、おまけに嫌われてるもんだが、出来る事ならいくばくかやってやってるってとこだ。 「・・・兄さん、」 雪乃がオレに近づく。 「ありがとう」 感謝の言葉。うれしいねぇ・・・。 ・・・・・・絶対自分に振り向かないって分かってるってのに。切ないねぇ、オレ。 「良いってことよ・・・」 オレは照れかくしにぶっきらぼうに言い放つ。本心と、まったく違うが。 ・・・そろそろ、時間だ。 「じゃあ雪乃、オレ行くから」 「あら兄さん、今夜も首都高?」 厄介者がいなくなったとばかりのリアクション。 そうさ、どうせオレは、嫌われ者。 「ちげーよ・・・ちょっと用事が、な」 ・・・思いだすだけで、苛立ってくる。 その様子を察してか、雪乃の顔が少し曇る。 「・・・兄さん、いつまでこんな事続ける気?」 「そうだなぁ・・・さしあたり『本家』の連中皆殺しにするまで、かな」 雪乃が玄関まで、無言で見送る。 オレがドアを開けると、目の前にはちんまい、白いワンピースを着た男の子が。 「あ、マキトさん!!こんにちは☆」 無邪気な笑顔でオレに挨拶する、雪乃の彼氏、井上遙。 「よぉハルカ!オマエ元気にしてるか?風邪引いたって聞いたぞ・・・」 「大丈夫ですよぅ・・・あれ、マキトさんお出かけですか?」 手にしたアライのヘルメットに気付き、首をかしげる。その仕草が、無性に愛らしい・・・ってコイツ、男なんだけどな。 オレはハルカの頭、ふわふわの髪の毛を撫でて。 「わわっ!?マキトさんってば・・・」 頬を赤くして驚くハルカ。 ・・・コイツ、ホントにかわいいよな・・・こんな弟が欲しかったよ。 堀江家に生まれた以上、そんな期待も出来なかったんだがな。 「じゃ、行って来るぜ」 可愛いいとことその可愛い彼氏に、手を軽く振って別れを告げた。 ハルカも、その細い腕を振って、 「行ってらっしゃーい☆」 と、無邪気に答える。 その様子に、自然と笑みがこぼれる。 一方、オレの事情を知っちまった雪乃は心配そうに、 「・・・いってらっしゃい」 と、か細い声で答えた。 「なぁにしけたツラしてんだよ!折角の美人が台無しだぜ?」 ・・・そんな哀しい顔、見たくもねぇ。 「そうですよ?そんなカオ、先輩には似合わないもん・・・で、今日は何するんですか?」 白い足をぱたぱたとさせながら、雪乃の元へ駆けるハルカ。 「ん〜?今日はねぇ・・・まだ考えてなかったわ」 苦笑いの雪乃。 さて、幸せいっぱいの二人置いておいて、邪魔ものはとっとと地獄へ舞い戻りますかな・・・。 ちょっと見せつけるようにキスをする二人を尻目に、オレは扉を閉めた。 ヘルメットをかぶりあご紐を締め、オレは世界一と信じる「キリン」のカタナのレプリカント、それに更にニトロをぶち込んだ怪物・・・「天下第一刀」に火をいれる。 ・・・この名前、なぜかさっきの二人が聞くと大笑いするんだけどな。 ・・・バカと言われてもかまわないさ。世界一のマシンにまたがれるオレは、幸福だと思ってる。 後は、コイツで好き勝手走ってられりゃあ、最高なんだがな・・・。 現在、午後6時を回ったところ。 さて、「アイツ」をブッ倒しに、向かいますかな・・・・・・。 ちょ、ナオてめぇ・・・なんでこんなときにバトルおッ始めるんだよ!! いくら首都高で出会ったからって・・・最悪だなコイツ!! ・・・とある埠頭。 鈍色の輝きを放つ塊を右手に持つ、黒づくめの男が一人。 彼方から、硬質のエキゾーストノートが響く。 ソリッドな塊が一つ・・・鉄馬。 それは男の目の前にこれ見よがしに停まると、また黒づくめの男が、降り立った。 長い黒髪を後ろに束ねた、優男。 対峙する、身長2メートルはあろうかという筋肉質の巨体。 「よぉ、待たせたな」 「貴様は・・・いささか知りすぎたようだ」 冗談半分の優男の言葉を無視し、巨漢は銃を構えた。 「おいおい・・・仮にも本家の人間だぜ?いくら裏切り者でも殺しちまったらヤバイんじゃね?」 あくまでも軽い調子の、男。 「本家・・・あいにくだが、その本家から頼まれたんだよ」 重々しい口調で返す。 「じゃあオレも、オマエさんブッ殺して良いってことだな?」 優男・・・マキトがニヤリと、笑った。 巨漢は意に介さず、持っているデザートイーグルの撃鉄を降ろす。 腰に付けた鎖を外し、構えるマキト。 「・・・拳銃相手に、鎖一丁とは舐めたもんだな・・・」 「ハァ?キサマ如き三下なんざぁ、コレでももったいないくらいだぜ!?」 暗闇に躍る二つの影。 12.7mmの鉛弾とチタン合金の鎖が激突し、火花が散る。 誰もいない中繰り広げられる、命を賭けた死の輪舞。 「ほぇ〜・・・雪乃先輩、また怖い事件ですよ?」 翌日、遙と雪乃は珍しく、テレビを食い入るように見つめていた。 「へぇ・・・デザートイーグル持ったヤクザなんて、初耳・・・」 そのとき、テレビが意外な状況を告げた。 「昨日未明、某埠頭で、鎖で縛られた男が銃刀法違反で逮捕されました。男は指定暴力団・・・」 それを聞いて、雪乃はピンと来た。 「・・・・・・マキト兄さん!?」 微かに、つぶやく。 「え?さっき映像出てたけど、マキトさんじゃ無かったですよ?」 「そうじゃなくて・・・」 テレビは、事件の詳細な分析に入る。 「通常、暴力団がこんな銃持っている事は無いですね・・・高コストの上、入手が困難なんですね?例えば中国、ロシア・・・こんな国の銃が多いんです。それにチタン製の鎖・・・こんなもの、通常は手に入りません」 コメンテーターが驚いた口調で語る。 「・・・マキト兄さん、あの鎖自慢してたのよね・・・」 「え?」 いぶかしげな遙に、雪乃は 「・・・なんでもないわ。さ、出かけましょ?」 と、ごまかすように言った。 さすがの遙も奇妙に思ったが、気にしないことにした。 ・・・さて、まんまと逃げおおせたってぇワケだ。 一応オレの名前は出せないように催眠掛けといたが・・・なんかの拍子でバレちまったら、日本にもいられなくなるわけか。 イギリス、スペイン、イタリア、ドイツ・・・アメリカ大陸もヤバイしな。 今度バレたら次はどこに逃げるか・・・そうだな、インドネシアが良い。ガラムだって手に入るしな! ま、今は考えない。 とにかく、アイツらにはなんとか連中の手が届かないよう、妨害するだけだ。 ・・・雪乃がハルカに取られちまうのも悔しい話だけど、まぁ妹と弟と考えりゃあ、そりゃ幸せになって欲しいわな・・・。 ま、オレには関係無いけれど。 どうせオレの逝く道なんて、どこまで行っても血みどろさ。 「お見舞いに行こう!!」 ココ何日か、ずぅっと咳は出るし鼻水ひどいし・・・と思っていたんですけど。 今朝は起きられなくなっちゃって、折角の日曜日が台無し。 お母さんが体温計を持ってきてくれて、測ってみると38度も熱が。 ・・・これじゃ雪乃先輩に、会えないよぅ・・・・・・。 「・・・エェッ!?ハルカ熱出しちゃったんですか!?」 電話片手に、ビックリする雪乃ちゃん。 電話の向こうでは、すまなさそうに遙くんのお母さんが、 「ごめんなさいねー・・・遙、身体丈夫じゃないし・・・」 ・・・遙くん、結構風邪、引きやすいんです。 ぼくが遙くんを見守るようになっても、遙くんはなんか一月に一回くらいは病気してる感じ。 もっと体力付けた方が良いよっていってるのになぁ・・・。 ・・・ぼくはだれか、って? ぼくは遙くんをみまもるイヌの霊(って言うんだって)、シロって言います。 もう60年前に死んじゃったけど、でもぼくには守らなきゃいけない人がいるんです。 その一人が遙くん・・・って、ぼく実は何人かを掛け持ちで守護霊(専門用語だって)、やってます。 でも今日は悪い事もなさそうだし、一番心配なのは遙くんだから、遙くんが一番好きで、一番遙くんと親しい人・・・雪乃ちゃんの様子を、見ることにしたんです。 ・・・正直言って、遙くんにとって一番危険なのは雪乃ちゃんだと、思う事があります・・・・・・。 「あら、じゃあハルカのお見舞いに行かなくちゃ・・・」 雪乃ちゃんが、パジャマからお出かけ用の服に着替えてます。 胸に大きなリボンが付いた、ちょっとひらひらしたお洋服。 そして雪乃ちゃんは鏡の前で一ポーズ決めてから、大きなお財布とカバンを持って、勢い良くお家を飛びだしていきました。 「んーっと、お見舞いには・・・花とフルーツかしら・・・あとは・・・」 道を歩きながら、雪乃ちゃんは考え事。 すると前からクルマが・・・危ないッ!? でも雪乃ちゃん、華麗な動作でクルマをかわします。そして、相槌を一つ。 「そっか、モモ缶!!」 ・・・・・・なんか違うきもするんだけどなぁ。 ショッピングモール、とかいうお店が沢山入った場所で雪乃ちゃんはお買い物。 両手には大きな袋・・・って、遙くんにホントに全部持ってくつもり!?なんか違う気がする、やっぱり。 そして雪乃ちゃんがスターバックスに入って一休みしようとすると、そこには雪乃ちゃんのお友達、明日香ちゃんがいました。 「あ、雪乃!・・・どうしたの?そんなに荷物持って・・・また遙くんの服?」 ちょっとニヤニヤしながら、明日香ちゃんは言います。 でも雪乃ちゃんはちょっと憂鬱そうな表情で。 「明日香・・・実はね、ハルカ風邪引いちゃったのよ・・・」 「うそ!?こんな季節なのに・・・」 心配そうな顔の明日香ちゃん。 「・・・それで、お見舞い?」 明日香ちゃんは、雪乃ちゃんの荷物を見ながら言います。 「うん・・・早く元気になって欲しいから」 「でもそれは・・・やりすぎ、かな・・・」 ちょっと呆れがおの、明日香ちゃん。 明日香ちゃんも一緒に、遙くんのウチにお見舞いに。 ぼくも、(二人には見えないけど)こっそりと、ついていきます。 遙くんのお家に着くと、お母さんが迎えます。 「あら、雪乃さんに明日香さん・・・遙のためにわざわざ済みませんねぇ・・・」 丁寧な口調で言います。 「いえ・・・わたしもハルカには早く元気になってもらいたくて・・・」 ちょっと照れたように、雪乃ちゃんは答えます。 そして二人は、遙くんのお部屋へ。 「あれ?雪乃先輩に如月先輩・・・」 熱のせいでボーッとした様子の遙くんが、身体を起こして挨拶。 桜色のほっぺ、女の子みたーい。 「あ、ハルカ・・・ひょっとして、寝てた?」 雪乃ちゃんはちょっと申し訳なさそうに。 「遙くん、大丈夫?」 心配そうな顔の、明日香ちゃん。 「大丈夫ですよ・・・来てもらえて、うれしいな・・・」 遙くんはそういうと、またベッドに倒れこみます。 結構、辛そう。 その様子を見て、雪乃ちゃんはとっても心配そう・・・。 「ねぇハルカ?なにか出来る事、ある?」 遙くんの頭を撫でながら、たずねます。 遙くんはちょっと辛そうに、 「大丈夫ですよぅ・・・」 とだけ、言います。でも大丈夫そうには見えないよ?遙くん・・・。 すると見かねた雪乃ちゃん、 「じゃあまずは氷まくら変えないとね!あ、明日香りんご剥ける?それに着替えも用意しなきゃ・・・それから・・・」 と言うなり、てきぱき動き出します。 「え、良いですよぉ・・・」 と、弱々しく言う遙くん。でも、人の好意には甘えるものだぞ?遙くん。 雪乃ちゃんは気にせず氷まくらの交換。明日香ちゃんは器用にりんごの皮を剥き始めました。 「どう?遙くん・・・おねーさん、りんごの皮むき上手でしょう!」 にっこり笑いながら、途中で切れないで一枚になったりんごの皮を見せる明日香ちゃん。 「ほえー・・・凄い・・・」 遙くん、返事もぼーっとしてる。 「・・・ホント、大丈夫?」 心配そうな明日香ちゃん・・・ぼくも、心配だよ。 すると雪乃ちゃんが、氷枕を持ってやってきました。 「おまたせー・・・ハルカ、どう?」 ちょっとぐったりしてる遙くんを見て、雪乃ちゃんも心配がお。 氷枕を替えてあげます。 「ひゃぁ〜・・・気持ち良いです・・・」 遙くん、気持ち良さそうだけど・・・大丈夫? 「ねぇハルカ?」 突然、雪乃ちゃんが遙くんにたずねました。 「なぁに?せんぱい・・・」 もうろうとしちゃってる。 「身体、拭いてあげよっか?」 「え?」 遙くん、パジャマが汗でびっちょりだからなぁ・・・。 明日香ちゃんも、 「そうね・・・拭いてもらったら?」 と、笑顔で言います。 遙くんは、 「でも、ボク・・・」 と、ちょっと顔を赤くして言いますけど。でも、そのまんまじゃね・・・。 「コレじゃ寝るにも気持ち悪いでしょ?それに一人じゃ無理っぽいし・・・ね♪」 雪乃ちゃんの説得に、遙くんは顔を赤くしながら、うなずきました。 「じゃ、私はお邪魔かしら?」 明日香ちゃん、ぴょんとお部屋から出ます。 「あら明日香、悪いわね・・・」 雪乃ちゃん、にっこり。 そしてお部屋には遙くんと雪乃ちゃんの二人きり。そして、それを見守るぼくです。 「せ、せんぱぁい・・・一人で、大丈夫です・・・」 ちょっとはずかしそうに、遙くんは言うんですけど・・・とても自分では拭けそうにありません。 「まぁまぁ、おねーさんに任せて」 頭をぽんぽんと叩きながら、なだめるような雪乃ちゃん。 ちょっと、きょうだいみたいで、微笑ましい。 ・・・この二人、恋人どうしには、見えないよねぇ? 「じゃあハルカ、脱いで?」 ちょっと遙くんは困った顔をしましたが、しぶしぶ上着を脱ぎました。 華奢で色白な、少年特有の愛らしさ・・・う〜ん、まさに美少年、というか。 ・・・ちょっと言い方、エッチっぽい? 「うわ・・・ハルカ、華奢だね〜・・・」 雪乃ちゃんも、ちょっとドキドキ・・・って感じ。 「先輩・・・あんまり見ないでくださいよぅ・・・貧弱で、恥ずかしいんですから・・・」 遙くんは本当に恥ずかしそうに言いました。 でも、雪乃ちゃんはうれしそうに、 「そんなこと無いわよ・・・」 と、そぉっと、遙くんを抱きしめます。 「ちょっと・・・先輩!今は、やめてぇ・・・」 困ったように、遙くんは大声を出しちゃいます。ビックリ、したのかな? でも雪乃ちゃんはなだめるように、 「ごめんね・・・」 と言いながら、離しません。 ・・・・・・遙くんも、まんざらでもないみたい。 遙くんの身体を拭きながら、雪乃ちゃんはとってもうれしそう。 「・・・先輩、なにそんなにニヤニヤしてるんですかぁ?」 と、ボーッとした顔でたずねる遙くん。 「えぇ?ハルカに早く元気になってもらいたくて・・・」 雪乃ちゃんは、そう答えました。 ・・・ホントにそれだけ? 「ねぇ〜・・・まだなの?」 外から、明日香ちゃんがたずねますが、雪乃ちゃんは気にしてません・・・。 一通り身体を拭き終えると、雪乃ちゃんは遙くんに聞きました。 「どう?さっぱりした?」 遙くんは恥ずかしそうに、こくり、とうなずきました。 そしてちょっともじもじしながら、パジャマを着替えます。 雪乃ちゃん、ちょっと困った顔してる。 「・・・う〜ん、ダメだったかしら?」 その言葉を聞いて、遙くんはちょっとムキになって、言いました。 「そ、そんなこと無いです!うれしかった・・・でも、」 じぃ、っと見つめあう二人。 「でも・・・なに?」 「ちょっと、恥ずかしかった・・・かな」 パジャマを羽織り、ボタンを掛ける途中の遙くん。 胸元がはだけてる・・・。 「・・・遙クン、」 雪乃ちゃん、うれしさに顔を真っ赤にして言います。 「なんですか?」 ぽや〜んとした顔の、遙くん。 そんな様子が一層うれしかったみたい。 「ハルカ、色っぽいよぅ・・・」 珍しい、雪乃ちゃんのデレデレした顔! 遙くん、困惑してます。 「先輩・・・今はそういうの、余計熱出ちゃうからぁ・・・」 でも雪乃ちゃん、おかまい無しなんですよねー・・・。 「大丈夫よ!おね〜さんが一緒に寝てあげよっか?」 「いいですよッ!?」 あーまったく、バカップルって言うんですよね?こーゆうの。 外の明日香ちゃんも、呆れてる・・・・・・。 「まったくもう、見せつけちゃって・・・」 「ねぇハルカ・・・キスだけなら、いいかな?」 雪乃ちゃん、とっても色っぽい顔して、言います。 遙くんは困りながらも、うれしそう。 「じゃあ、ほっぺだけですよ?風邪がうつっちゃったら、イヤだもん・・・」 ・・・あー、遙くん耳まで真っ赤。 「じゃあ、ほっぺね?」 雪乃ちゃんは、にっこりと笑うと、そのやわらかいくちびるを、遙くんのマシュマロみたいなほっぺたに・・・・・・。 ・・・あれ? 遙くんがキスすると、雪乃ちゃんにもぼくの姿、見えちゃうな? 「・・・」 雪乃ちゃんは目を閉じて、長い事、遙くんにキスしてました。 遙くんも目を閉じて、じーっと・・・・・・。 遙くんはちょっと照れ臭そうだったけど、でも二人とぉっても、幸せそう・・・・・・。 そして長いキスを終えて、雪乃ちゃんが目を開けました。 ・・・すると、ちょうどぼくと、目があっちゃった・・・。 「あ、シロ・・・」 ・・・見る見るうちに、雪乃ちゃんの顔が、怒りで歪みます・・・。 「こぉの出歯亀犬ッ!!出てけぇ〜!!」 あわれぼくは、ぽーんとつまみ出されちゃいました。 「え?雪乃・・・どうしたの?」 ぽかーんとする明日香ちゃん。 まったく・・・結局こうなっちゃうんだから・・・やんなっちゃうよね? 「最近の、悩み事」 「う〜ん・・・」 雪乃先輩、自分のほっぺたつねりながら、アンニュイな顔してる。 「どうしたんですか?」 ボクがたずねても、先輩は相手にしてくれないんです・・・。 「えいッ!」 思いきって、ボクも先輩のほっぺ、指でプニっとしちゃった。 すると先輩は驚いて、 「ひゃっ!?な、なにすんのハルカぁ!?」 と、大声上げた。 その顔が面白くって、ボクは思わず笑っちゃいました。 先輩は不機嫌そうに、 「あ〜・・・ハルカ何がおかしいのよぅ・・・人が真剣に悩んでると言うのに」 と、つぶやきます。 その後も、ず〜っと自分のほっぺ、ぷにぷに。 ヘンな雪乃先輩・・・。 次の日。 ボクは雪乃先輩と明日香先輩と、一緒に下校。 「遙くん、今度からは私の事も『明日香お姉さん』、って呼んでね♪」 ・・・なんかボクって、弟みたいな感じなんだって。 同級生のはずの隼人君にもそう言われて、結構ショックだったりするんですよ? まぁ確かに、明日香さんってばお姉さんって感じ、しますけど・・・。 「ところでさー、雪乃って最近丸くなったよねー」 明日香先輩、少しニヤニヤしながら言います。 すると、雪乃先輩はとっさに反応して、 「え!?丸くなったって!?人が気にしてるのに・・・」 と、悔しそうに言います。 そういえば、ず〜っと自分のほっぺた、今日もぷにぷにしてる。 「え?丸くなったって・・・アハハ、顔のこと言ったんじゃなかったんだけど・・・」 と、明日香先輩は大笑いして言います。 「あー!明日香ってば・・・何がおかしいのよ」 「雪乃のその過剰反応、一昔前じゃ考えられなかったわ?」 憮然とする雪乃先輩に、明日香先輩は笑顔で。 「・・・そうかな」 先輩、ちょっと考えてる。 「・・・わたし、そんなに丸くなった?」 「なったなった。性格も・・・顔もね☆」 ・・・あーあ、大丈夫なのかなぁ・・・。 「えー!?人が気にしてること言わないでよ!!」 雪乃先輩、やっぱり怒りだしちゃった! 今日もマスターの喫茶店へ。 「よぉ雪乃チャン・・・どうした、浮かない顔しちゃって?」 普段は自信に満ち溢れてる先輩だから、やっぱマスターも気にかかるみたい。 「マスター・・・ちょっと聞いてよ」 雪乃先輩は浮かない顔のまま、カウンター席に付きました。 ボクも明日香先輩も、両隣へ。 マスターは雪乃先輩にコーヒーを差し出しながら、たずねます。 「なんだい?珍しいじゃねーか・・・」 「最近、わたし太った?」 先輩は小首をかしげながら、けだるげな表情で返しました。 マスターは怪訝そうな顔で、 「え?そうかい?変わったようには見えないなぁ・・・」 と、答えました。 先輩は一層不機嫌になって、ぼそっとつぶやきました。 「マスターといいハルカと言い・・・デリカシーってのが無いんだからぁ・・・」 足早にマスターの店を後にします。 明日香先輩とは、お店の前でお別れ。ボクは雪乃先輩と、二人っきり・・・。 でも先輩、不機嫌そうな顔・・・ちょっと、気まずいなぁ? ムスーッとした顔で、すてすて歩く先輩。それにちょっとおどおどしながら付いて行くボク。 ずーっとそんな調子だったんですが、公園の前で雪乃先輩は足をぴたっと止めました。 「・・・どうしたんですか?」 ボクはボーゼンと、たずねます。 すると雪乃先輩は真剣な顔して、 「ねぇハルカ!?わたし太ったかな!?」 と、大マジメに聞くんです! ・・・確かに先輩、ちょっと顔が丸くなった感じ。 でも、可愛くなったと、思うんだけどなぁ・・・・・・。 「ちょっと、まぁるくなったかも・・・しれませんね!」 すると先輩は不安そうな顔して、 「あーもう・・・ピザになってしまう・・・」 ・・・ピザ? でもあんまりに不安そうな様子で、ちょっとイヤだったしフォローというか、思ったこと素直に。 「でも、前より可愛くなった気がしますよ?前はちょっとツーンとしてたし・・・今の方が、やさしい感じ」 ボクはにっこりと、答えました。 「・・・そうかな?」 先輩は自分のほっぺたをぷにぷにしながら、不思議そうな顔して言います。 「だって、ぷにぷにしてたほうがかわいいじゃないですか・・・」 「う〜ん・・・ハルカに可愛いと言われてしまうとは・・・」 先輩は、フクザツな顔して言いました。その顔が、またかわいいんです・・・・・・。 思わず、やわらかなほっぺにチュ、ってしちゃったり! 「・・・ハルカぁ・・・」 ボクにキスされて、先輩はふにゃーっと、幸せそうな笑顔になりました。 ボクはその顔を見て、ドキドキしてきちゃった。 結局、ボクは雪乃先輩のウチで、紅茶をごちそうになる事に。 「アフタヌーンティー・・・には遅すぎるかな?夕焼け小焼け・・・まぁそれもいっか」 沈み行く夕日を二人で眺めながら、ティーカップを口に運びます。 「先輩、やっぱ紅茶いれるの上手ですよね・・・」 ボクは美味しい紅茶を飲んで思わず。 すると先輩はうれしそうに、 「だって、美味しいお菓子を作ってくれるヒトがいるじゃなぁい?」 と、甘い声で言いながら、ボクにくっつきました。 ・・・紅茶のお友は、ボクの作った特製マフィン。 「それにしても、よくそんなにお菓子作れるよね?ハルカって」 「だってボク、甘いもの大好きですから!」 ボクは得意げに言いました。 「・・・雪乃先輩も、あまぁい感じ?」 「・・・そういえば」 先輩は突然、真剣な表情で語りだしました。 「ほっぺたのみならず、足にも腕にも、お肉が付き始めちゃったのよぅ・・・」 ボクはちょっとおかしく思えて、笑っちゃいました。 「あー・・・また笑った」 「だって太ってはいないですよ?ちょっとぷにぷにしてたほうが可愛いです!」 ちょっと不機嫌そうな雪乃先輩に、ボクはほっぺたぷにっとしながら、答えました。 「かわいいって・・・キミに言われると、ヘンな感じ」 先輩はちょっとヘンな顔して。 「かわいいものはかわいいの!」 ボクはちょっと、ムキになっちゃった。 ・・・雪乃先輩、ハッとした顔で。 「あ、副作用」 ・・・? ボーゼンとするボクに、雪乃先輩はちょっとニヤニヤしながら、 「最近、ブラジャーがきつくなったのよ、実は」 と、得意げに言いました。 あんまり突然にそんなこと言うから、ボクはドキッとして、顔が赤くなって、黙っちゃう・・・・・・。 そんな、ちょっと恥ずかしくなっちゃったボクに、先輩はぎゅうぎゅうと胸を押しつけて・・・ッ! 「ほら、ちょっとおっきくなったでしょ?」 わわ、せんぱぁい・・・いきなりそんな事、しないでよ! また、ドキドキしてきちゃうじゃないかぁ・・・!! 「初期設定」 今日も今日とて、学校の前の公園でクレープ屋のアルバイトです。 ・・・すっかりボクも制服がスカートになってしまいました・・・学校の目の前なのにィ・・・。 ・・・でも、誰もツッコミを入れないんですよね・・・それもすっごく、困る話なんですけど。 「はぁ・・・」 雪乃先輩が、一つ溜息。 別に誰も来ないわけじゃありません。かといって、死ぬほど忙しいわけでもないし。 ・・・マスター、またボクたち二人に、任せっきり。 「・・・今日もマスター、アルファロメオかぁ・・・」 ボクも一つ、溜息。 それを見て先輩が、 「ちょうどお邪魔虫がいなくなって、いいんじゃない?」 そっか、先輩とボク、二人っきり・・・。 仕事を切り上げて一息付くと。 先輩はまぁた、大きな溜息・・・。 「どうしたんですか?先輩、さっきから溜息ばかりですよ?」 小首をかしげるボクの頭を、雪乃先輩は黙って撫でました。 そしてまた、だんまり・・・。 「・・・そういえば」 先輩がようやく、なにかを思いだしたように一言。 「?どうしたの?」 ボクは先輩の顔を覗きこむように、たずねます。 雪乃先輩は妙な顔をして、 「・・・忘れ物。」 と、着替えもしないで学校に一人、駆けていっちゃいました。 残されたボク、ボーゼン。 仕方ないから、一人でお片付けでもしてよっと。 ようやく戻ってきた先輩は、 「あら?片付けちゃった・・・ゴメンねぇ」 と、またボクの頭を撫でます。 でも流石に、外ではちょっと、恥ずかしいかな・・・。 「ちょっとぉ・・・はずかしいじゃないかぁ」 ちょっとだけ不満そうに言いました。 ・・・でも、うれしいんですけどね。 ・・・一つ、ふと気になったことが。 雪乃先輩って、実はお金持ちのウチに、住んでるんです。 なんでもお父さんが、大企業の偉いヒトなんだって。 普段はあまりださないけど、バッグの中にしのばせた虎の子の財布、ものすごい量の札束がぎっしり詰まってるんですよ? 「雪乃先輩?」 ボクはなんと無しに、たずねます。 「なぁに?」 首をかしげる先輩。その仕草が、かわいいなぁ・・・なぁんて思っちゃったりして。 それよりも! 「先輩って結構お金もってますよねぇ・・・なんで、アルバイトしてるんですか?」 社会勉強かなぁ・・・と思って聞いてみると。 「う〜ん・・・趣味?」 ・・・予想外の、答え。 雪乃先輩が、話してくれました。 なんでもココは、最初マスターが一人でやってたんだって。 でもあんまりに人が来なくって、困ってたみたい・・・そこに、気まぐれでクレープを食べた、雪乃先輩。 「おいしいですね、コレ・・・でもなんで、人が来ないのかしら?」 マスターは苦笑いで、こう答えたんだそうです。 「そりゃあ・・・俺の顔が怖いからさ・・・多分」 そしてとっても切なそうに、こうつぶやいたんだそうです。 「あ〜・・・ウチもなぁ、オマエさんみたいに可愛い看板娘でもいりゃあ、客も入るんだろうになぁ・・・」 ・・・その言葉に、乗ったんだそうです。 「結果としては、まぁ正解だったわけね・・・」 確かに、お客さんは結構来ます。先輩も結構人気あるみたいだし・・・。 ・・・時々軽い感じの男の人にナンパされたりして、結構くやしいんですけどね・・・。 「じゃあなんで先輩は、ボクをココに誘ったんですか?」 話を聞いていると、人手不足じゃないみたいだし・・・。 すると先輩、ニヤニヤしながら言いました。 「決まってるじゃない!かわいい看板娘よ!」 ・・・ボクは男なのにィィィィィィィィィィ!!! 「初期設定 その2」 どうも。大鳥義久です。 ・・・俺は、フルネームで登場するのは初めてですね・・・かなり最初の方から出てきている割りに名前が付くのも遅かったし。 ・・・・・・俺、扱いがひどすぎるな・・・。 普段はサッカー部で練習に明け暮れる日々の俺ですが、最近妙な事にハマってしまった・・・。 それもこれも、年子の妹と、アレのせいかもな・・・・・・。 「おーい兄貴ー、今日は練習ないのかぁ?」 日曜だと言うのにやかましい、妹の涼。 とにかく男勝りで、身長も183センチの俺と大差無い・・・。 一見すると美少年という感じで、同級生からよくラブレターをもらう。当然本人、そんな気はちっともないんだが。 「涼、うるさいなぁ・・・今日は練習は無い。だから寝かせてくれよ・・・」 「あー、じゃあ兄貴、オレの服テキトーに置いとくから勝手に着てって良いぜ☆」 到底女とは思えない調子で、涼は俺に声をかけ、そして出ていった。 ・・・兄の俺が言うのもなんだが、アイツは本当に女に見えない。 の割には親が少女趣味な服ばかりアイツに押しつけるんで・・・。 俺が時々、ネタで着てるってワケだ。 女装って言っても、井上君みたいなガチ女装じゃあない。第一、こんなにでかくてごつい俺に女の格好なんて似合わないだろう。 アレだ、変身願望・・・それにネタがごっちゃになった、アホ連中の集まりってのが、世の中にあるんだ。 俺はぶっきらぼうに涼の服・・・といっても、俺が冗談で着る以外にはちっとも使わないが・・・を、バッグに押しこんだ。 「ちょwwwwwwおまwwwwwwwそれはいくらなんでもヤバ過ぎじゃね?」 いかんせん、俺にはサイズが小さすぎたらしい。肩がぴっちりとして、ごつい足がむきだしの、しょうもない格好。 「・・・ダメ、だったかな?俺には」 「そいつはいけないだろ!?だから俺みたいにメイド服とかさぁ・・・」 白い、むちむちした仲間が、でかい声で唾を飛ばしながら言う・・・その様子を見て、おもわず俺はつぶやいた。 「ピザでも食ってろデブ!!ってなぁ!?まぁいいじゃんかよwwwwwwwwwwwwww」 ・・・自分で言うか? まぁ、それが面白いんだけどね・・・。 こんな極秘の会合のはず、だったのだが、何故か俺の秘密の趣味は同級生の堀江雪乃さんにバレてしまった。 「え?まぁ、大鳥君・・・珍しい」 なんでだったか、俺は綺麗にメイクして、ゴスロリの格好をしていたと思う。 普通だったらヤバくて近寄れないだろうと思うんだが、堀江さんはおかまい無しに俺に話し掛けた。 「・・・堀江さん・・・頼む、誰にも言わないでもらえないかな・・・」 「え?そうねぇ・・・」 俺が女装してる事自体には疑問に思わないらしい。 首をかしげながら、考え込む堀江さんを目の前に、俺は内心ビクビクしていた。 ・・・学校に、いられなくなるんじゃないか、ってね。 「じゃ、遙クンに会ってもらえないかしら?わたしのお友達なんだけど・・・とってもかわいいのよ」 聞くと、その少年・・・一個下の井上遙君は、とっても女装が似合うらしい・・・。 俺はネタでこんな格好しただけなんだけどね・・・。 なぜか堀江さんの家に向かうと、そこには一人の少女が・・・ちょっと伏し目がちの、小柄な女の子が、ちょこんと正座して、待っていた。 俺に気が付くと、ちょっとビクッとしたような表情で、 「あ・・・大鳥先輩、ですか!?」 と、俺に声をかける。 「・・・堀江さん、もしかして、このコ・・・」 ・・・・・・まさか、そんなハズが。 しかし堀江さんは、妙に得意げな顔をして、答えた。 「そっ。井上遙クンです!」 ・・・・・・ちょっとまて。 俺が生きてきた中でも、かなりの上位に位置する可愛さなんだが・・・コレで、男だとぉ!? しかも、話を聞くと「スポーツ万能で、人気者」の俺が、うらやましいらしい・・・なんだかなぁ。 「大鳥先輩って、カッコイイですよね!!」 おいおい井上君・・・なんでキミはそんなに顔を真っ赤にして、そんなこと言うんだ!? そして、いつもの屋上。 ・・・井上君は、果たして女子の制服で、やってきた。 「大鳥先輩、こんにちは!・・・雪乃先輩は?」 辺りをきょろきょろ。 「あー、堀江さんなら今日は・・・」 ・・・今、なぜか必死こいて俺の衣装を作ってるだなんて、言えない・・・。 しかし堀江さんもヘンな趣味だ・・・男が女装するのがスキなんて、なぁ。 時々ちょっと、井上君が気の毒になる事がある・・・俺みたいに趣味でやってれば、良いんだけど。 「大鳥先輩!聞いてくださいよ、この前デートに行ったら先輩ってばボクに何をプレゼントしたと思います!?スクール水着ですよ・・・まったく、コレじゃヘンタイだよぅ・・・」 ・・・・・・堀江さん・・・キミは一体、このコに何がしたいんだい!? 「ライバル・・・」 「ねぇ遙さん?コレからちょっと、一緒にお食事でもどうかしら・・・」 突然声をかけたのは、雪乃先輩のライバル・・・っていうか、先輩を一方的にライバル視してるお嬢様、六条薫子先輩。 ・・・雪乃先輩も、結構お嬢様なんですけどね、実は。 なんでかは良く分からないんですけど、雪乃先輩のやる事成す事すべてに対して対抗意識を燃やし、勝負を挑んでくるんです。勉強・スポーツに始まり、資格や特技、趣味に至るまで・・・いつも勝負を挑んでは、雪乃先輩に一蹴されちゃうんですけどね・・・。 でも、六条先輩はものすごい努力家で、一生懸命で、見習わなきゃいけないなぁ、とも思います。 ・・・特に、なんでも片手間で余裕でこなしてしまう雪乃先輩は、もっと真剣な姿勢を見習っても良いんじゃないかな・・・なぁんて思ったり。 そんな人に声をかけられて、 「え?いいですけど・・・」 ボクはちょっとおどおど。 「遙さん?あなた男でしょう・・・失礼、男も女も関係無いですけど、そんなにおどおどする事はありませんわ?もっとシャキっと、胸をお張りなさい!」 ちっちゃくて可愛い見た目なんですけど、意外にもしっかりした口調で、ボクに言います。 ・・・ボクの方が、六条先輩より弱々しい感じ。 「じゃあ行きつけのお店に行きましょう!遙さん、タキシードかなにかはお持ちかしら?」 六条先輩はボクの手を引きながら、言いました。 でもボク、そんな服、持ってないですし・・・。 そんな感じでうつむいていると、 「じゃあ私のドレス、お貸しいたしますわ?」 ・・・結局こうなっちゃうんですね。 でも、正装しなきゃ入れないようなお店って・・・さすがお嬢様だなぁ・・・ビックリ。 ・・・・・・生まれて初めてそんなところに行くのに、ボクってば女装ですかそうですか。orz 「遙さん、以外と情熱的なスタイルも似合いますのね・・・」 雪乃先輩の趣味と違って、まさに情熱のスカーレット、って感じのドレスをまとったボクを、六条先輩はまじまじ見つめます。 「まぁ雪乃さんは少女趣味ですしね・・・たまには少し大人びたスタイルも、よろしくてよ?」 それにしても、ココってば・・・なんか、凄い。 大理石の床に高そうなテーブルや椅子、エレガントな雰囲気が、漂ってます。 ・・・場違い? そんなことをぽやーんと考えていると、前菜がやってきました。 「えっと、ナイフがこうで、フォークが・・・?」 テーブルマナーって、分かりません。 まごまごしているボクに、六条先輩はちょっと笑いながら、 「そんなに気にしなくて良いんですのよ?」 と、やさしく言ってくれました。 ・・・ホントは、良い人なんですけどね・・・。 慣れない高級料理に悪戦苦闘しながらも、なんとか料理を口に運ぶボクに、六条先輩が突然切りだしました 「・・・遙さん!?」 あんまりに突然で、ものすごい剣幕だから、ちょっとビクッとしちゃいました。 思わず手からナイフとフォークがおっこって、ガチャンと音を立てます。 「・・・あら、ごめんなさい・・・ビックリしましたかしら?」 ボクは、ちょっとビクビクしながらうなずきます。 「それは申し訳ありませんでしたわ・・・実は、折り入ってのお願い事がありますの・・・」 六条先輩、真剣な顔つきで。 「・・・雪乃さんの弱点を、知りたいのですわ・・・」 ・・・そう、六条先輩は、雪乃先輩をライバル視しているんです。 でも、雪乃先輩ってなんでも出来ちゃう人だから・・・いつも挑んでも、負けちゃってばかり。 「お願い!このままでは私引き下がれませんわ!?」 ちょっと、涙目・・・なにもそこまで、とちょっとだけ思っちゃいましたけど・・・。 でもたまには、雪乃先輩のしょげた顔なんて見てみたいなー・・・なんて思っちゃう、いけないボク。 「・・・弱点、ですか?う〜ん・・・」 ボクは、雪乃先輩のことを考えてみます・・・でも、なかなか不得意な分野って、ないんです。 「勉強も運動も料理もゲームも負けっぱなしなんですの・・・」 ・・・天才的な頭脳に凄まじい身体能力、ゲームの駆け引きも圧倒的。料理は・・・六条先輩が苦手、なのかも。 それにしても、よく雪乃先輩相手にココまでやるなぁ、って思います。六条先輩はものすごい努力家なんですよ!? だから、たまには六条先輩の肩を持ってあげたくなっちゃう・・・。 「遙さん?なにか思いつきまして?」 ちょっと困ったように、六条先輩はたずねます。 散々考えた挙句に、 「う〜ん・・・ボク?」 「遙さんって、意外と自信過剰なんですのね・・・」 ・・・雪乃先輩、ボクの事になるとものすごく無茶しちゃうから。 でも、自信過剰・・・なのかなぁ・・・? 「・・・それにしても、なんで六条先輩はそんなに雪乃先輩をライバル視するんですか?」 いつもちょっと、気になって。 だって、そりゃあ雪乃先輩はちょっと凄すぎるけど・・・六条先輩も運動もスポーツも出来て、ボクから見れば憧れちゃうくらい・・・。 でも、そんなこと、きっと六条先輩には関係無くて・・・因縁とか、あるのかなぁ・・・。 ちょっとビクビクしていると、意外にも六条先輩はさわやかな表情で、 「目標・・・なのかしら?」 とだけ、言いました。 それ以上は、なにも言わなくて。 ・・・そっか。 あの雪乃先輩への態度なんかも、六条先輩なりの、尊敬の念なんだなぁ・・・。 ・・・ふと、思いだした。 「あ!六条先輩、なにもそんなに悩まなくたって、雪乃先輩に勝ってるトコ、あるじゃないですか!」 ハッとして、大声で言っちゃった・・・六条先輩、ちょっときょとん、としてる。 「・・・ワタクシ、に?」 「うん!だって六条先輩、お友達いっぱいいるじゃないですか!」 そう、六条先輩には友達がたくさん。 ちょっと傲慢な態度に見えるけど、姉御肌で、誠実で、ホントはやさしいんです。だから、みんなに好かれるみたい。 それから・・・。 「あと、コレはちょっと言いにくいんですけどぅ・・・」 ・・・コレはさすがに、女の子に言うのはマズイ気が、ちょっと・・・。 でも、六条先輩は。 「遙さん、もったいぶらずにおっしゃって!」 仕方なく、ボクはちょっと震える声で。 「・・・雪乃先輩より、その・・・胸が、大きいんです」 ・・・あー、言っちゃった。 もう、顔が真っ赤になってくるのと同時に、怒られたらどうしよう・・・とビクビクしていたんですが。 意外にも六条先輩は上機嫌で、 「え?本当ですの!?それはなかなかうれしいですわ・・・」 と、ちょっとへんな様子でニヤニヤ・・・。 そんなボクたちの元へ、一人のソムリエが。 「あら?ソムリエですの・・・でも私たち、未成年でしてよ?」 ・・・どっかで見た事ある、コイツ! 「おや、井上遙さんではありませんか・・・」 ・・・ずぅっと前に雪乃先輩を酔っ払わせた、極悪変態ソムリエです! 「オマエはー!!」 「久しぶりですね、遙クン・・・今日もやっぱりドレスですか、とっても良く似合ってる・・・」 なんかコイツ、薔薇の花束なんぞ取りだしてるし・・・。 「・・・遙さん、この方と知りあいですの?」 六条さんが怪訝そうな顔をして聞きます。 「えぇ、実は・・・」 ボクはそっぽを向きました・・・。 「まぁいいわ、私たち未成年ですからソムリエに用は無くてよ?」 六条先輩、恐ろしくとげとげしく。 ソムリエは、欧米の人がやるように片眉だけを大げさに上げながら、 「おやおや・・・では私は退散しますかな・・・」 と、すごすご立ち去りました。 今日は、珍しい・・・。 高級なお店を後にして。 六条先輩は、目をキラキラさせながらボクに言いました。 「遙さん、今日はとっても良いことを教えていただきましたわ?本当に感謝してます・・・」 「いいえ!ボクの方こそなんかごちそうになっちゃって・・・」 ・・・なんでだか、照れちゃう・・・。 それにしても、やたら高級なディナーだったんですけど・・・値段は・・・。 「・・・六条先輩?」 さすがに怖くなって、恐る恐る。 六条先輩はきょとんとしながら、 「なんですの?」 と、答えます。 「・・・さっき、いくらくらいかかったんですか・・・?」 ちょっと声が震えちゃう。 すると六条先輩はなんでも無い様子で答えます。 「え?たったの5万円くらいですわ?遙さんが気にする事で無くてよ?」 ・・・ご、5万円!? うわぁ、やっぱりけた違いの、お嬢様だぁ・・・・・・。 「女装ショタの僕が、人助けをしてみました」 ・・・なんでボクはこんなカッコで、駅前で一人ぽつんと、お留守番なんでしょう!? 今をさかのぼる事3時間前。 いつものようにお呼び出しを受けて、いつものように雪乃先輩のお部屋で着せ替え人形にされていたのですが・・・。 「じゃあハルカ、今日は東京にでもいきましょっか?」 雪乃先輩は突然、妙な事を言いだしました。 「え!?今からですかぁ!?」 だって、もうお昼の12時。東京までは2時間くらいかかるから、ちょっと遅い。 でも先輩はおかまい無しで、ボクの髪の毛にリボンを結ぶと、 「じゃ、行こう?」 と、ボクの手をとって、いつものように玄関へと駆けだします。 玄関わきの部屋で、いつものように不機嫌そうにパソコンをいじるマキトさんがボクたちに気が付いて、 「よぉ・・・今日はどこ行くんだ?」 と、ちょっとムカ付いた様子でたずねました。 「え?今日はとうきょ・・・モゴ」 「マキト兄さんには関係無いじゃない」 行き先を教えようとしたボクの口をふさいで、雪乃先輩は不機嫌そうに答えました。 マキトさんはいじけた様子で、 「たまにはオレだって一緒に連れてってくれよぉ・・・」 と言いますが、雪乃先輩冷たく。 「だって、シスコンでブラコンの上ショタコンな兄さんなんて外に出せるワケ無いじゃない・・・」 「ちょっとまて!いつからオレはショタコンになったんだ!?」 「・・・だって、ハルカを見る目が怪しい」 靴を・・・履き慣れない女物の靴なんて履くボクの隣で、怖い会話・・・。 ちょっといじけ気味なマキトさん、愛車ドゥカティをいつものようにいじくる雪乃先輩のお父さんを後目に、先輩はボクの手を引きながら歩き出しました。 「・・・こんな時間に突然。いったいどこ行くんですか?」 よりにもよって、こんな短いスカートで・・・。お影でスパッツもはけなかった・・・下ブリーフなのにィ!!女物の下着なんて怖くてはけないし!! すると雪乃先輩は笑顔で、 「ちょっと、ある人のところへね・・・ハルカにも、会って欲しくて」 と、言いました。 ・・・先輩の知りあい?一体どんな人なんだろう・・・。 そして駅に付いたとたん、 「あ、ゴメンハルカ電話!」 雪乃先輩のケータイが、鳴りました。 それは、件の知りあいの人らしかった。 「・・・え、まだ・・・そうですか」 少し落胆気味。 電話が終わると、先輩は残念そうな顔をして。 「ハルカ・・・ちょっと、まだみたいなの・・・わたし一回帰るね?」 「え・・・ちょっと、先輩!?」 雪乃先輩は引きとめるボクもおかまい無しで、トボトボと帰ってしまいました・・・。 置いてけぼりのボクはうちに帰るわけにもいかず、かといって先輩のうちに行くわけにも・・・てなことで、3時間もずーっと、このまんま。 コーヒーショップで買ってきたコーヒーを飲みながら、一人ぼけーっと。 あー・・・こんなカッコして一人で歩き回るわけにもいかないしなぁ・・・だってミニスカートなんだもん。雪乃先輩ってば、なに考えてるんだろ・・・・・・。 広い街中から、空を見上げてみた。でも、周りの建物が邪魔で、あまり見えなかった・・・。 あー、なんでボクってば、こんなとこでこんなカッコ・・・・・・。 「うわぁぁぁん、ママー・・・」 突然、小さな女の子の、泣き声。 泣き声のする方を見ると、女の子が一人、わんわん泣いています。 多分、親とはぐれて迷子になっちゃったのかな・・・。 それなのに、みんな見てみぬふり・・・。 見てるうちに、かわいそうになってきちゃって・・・でも、今ボク、こんなカッコだしなぁ・・・・・・。 女の子に声をかけようか躊躇していると、なぜかレイザーラモン住谷HGのことが、脳裏に浮かびます・・・。 そうだ、ハードゲイだってあんなカッコで人助けしたりしてるんだ!ボクだって・・・・・・。 ・・・・・・でも、男だって、バレませんように・・・・・・。 「ねぇキミ、どうしたの?」 うさみみつけた小さな女の子に、ボクは勇気を振り絞って話しかけます。 「うわぁぁぁぁぁん・・・ママ・・・」 けれど、女の子は泣きじゃくるばかり。 「ママがいなくなっちゃったの?」 女の子は、泣きながらうなずきます。 ここはまず、なんとかして泣きやませてあげないとなぁ・・・。 ボクは女の子の手を引きながら、近くの公園へ行く事にしました。 「おぅ遙チャン・・・どうしたんだい、そのコ」 珍しく、公園でクレープの移動販売をやっていたマスター。 「あ・・・駅を通りかかったら、迷子になっちゃってたみたいで・・・」 ボクはちょっと困りがおで、答えます。 「よしよしおチビチャン、今おじさんがクレープ焼いてやっかんなー」 マスター、精一杯優しい笑顔を浮かべるのですが・・・。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!このおじちゃんこわいよぉー・・・」 ・・・やっぱりごつくて、怖いよねぇ・・・。 「大丈夫、このおじさんはとっても良い人なんだよ?いま美味しいクレープ焼いてくれるってさ!」 ボクはにっこり、女の子に言いました。 女の子はきょとん、として、 「・・・ほんとぅ?」 と、言います。 「ホントだよ・・・おにぃ・・・あ、いや、おねえちゃんの言葉を信じてよ!」 あ、危ない・・・一応今はお姉さんってことで。 「ほら、クレープ出来たよ?」 マスターからクレープを受けとって、女の子に手渡します。 相変わらずきょとーんと、女の子はクレープを見つめています。 「ほら、ウマいゼ?」 マスター、迫力ある顔で豪快に笑いながら言います。 ちょっとボクが、背中で遮ってみたり。 「・・・な、なんだよ遙チャン」 「・・・マスターの顔は小さな女の子には怖すぎます・・・」 ・・・ボクが初めて見たときも、マスター怖かったもん。 そんなボク達をよそに、女の子は恐る恐る、クレープを口に運びます。 「・・・うわぁ、おねえちゃんおいしいねぇ!」 よかったぁ・・・女の子は満面の笑みで、気に入ってくれたみたい。 「でしょ?ここはおねーさんのイチオシだからね・・・♪」 「うんッ!」 クレープを食べて元気になった女の子を見て、ボクも少しうれしくなった。 「あ、マスター・・・お金は?」 「良いってことよ、そんな事より早くそのコの親を見つけてやんな!」 マスター、にっこり・・・マスターって子供大好きなんですよ?子供たちはマスターを怖がるけど・・・。 「ありがと!じゃあ行ってくるね!」 ボクは女の子の手を引いて、また駅の方へ向かいました。 「遙チャーン、スカートには気を付けろよぉ!!」 マスターってば・・・まぁたイジワルな事を言う・・・。 手を引きながら、ふと気が付いた。 「そういえば・・・キミ、なんていうの?」 そう、女の子の名前を聞いてなかった。 「・・・るな」 女の子は小さな声で、自分の名前を言いました。 「へぇ・・・るなちゃんっていうの。可愛い名前だね☆」 ボクはるなちゃんの頭を撫でながら言いました。 ・・・うさみみ・・・しかもるなちゃんって・・・なんか、ねぇ? そして、ボクも自己紹介。 「ボクはねー、遙っていうんだよ?よろしくねー」 「はるか、おねえちゃん?」 ぽけーっとした感じ。 「でも、なんでぼくってゆーの?おとこのこじゃないのぉ?」 ドキィッ!? 「えー、でも女の子でもボクって言ったっていいじゃあないかぁ・・・」 ボクは少し、弱っちゃった。 るなちゃんのお母さんを探して歩いてる際中もずっと、 「ねーねー、はるかさんはおにいちゃんなのー?」 なぁんて・・・。 うわ、ヤバイ・・・・・・。 ショッピングモールを探しても、駅のホームをぐるりと回っても、るなちゃんのお母さんは見つかりません。 警察に届けた方が良いのかなぁ・・・と思った、そのとき。 どこかで見たことある、うさみみがゆらゆら。 「あ、三国さん!?」 「遙、ちゃん・・・?」 案の定、三国さんでした。そして・・・ 「あ、まいなおねーちゃん!!」 やっぱり・・・お知り合いでしたか。 結局、るなちゃんのお母さんは三国さんと一緒でした。 「すみませんねぇ、遙さん・・・まいなちゃんのお友達でしたか・・・」 優しそうな、若いお母さん。 そしてるなちゃんは、お母さんにぎゅーっと、抱きしめてもらいました。 「うわぁぁーん・・・ママ、ママぁ・・・・・・」 安堵感で、ボクも胸いっぱい。 「よかった・・・・・・」 「遙ちゃん・・・ありがと・・・」 突然、三国さんがボクの手をぎゅーっと、取りました。 「うわ、どうしたの?」 「るなちゃん・・・見つけてくれた、から・・・・・・」 三国さんはちょっと顔を赤くしてうつむきながら、でもうれしそうに言ってくれました。 うさみみも、ゆらゆら・・・って、なんか心なしか三国さんの意思にしたがって動いてるように、見えるんですけど。 ボクもちょっと照れ臭いけど・・・お礼を言われて、うれしくって。 「だって、るなちゃん泣いてたからさ・・・ボク、そういうのイヤだもん・・・」 ボクまで顔を真っ赤にして、うつむいちゃって! すると、うさみみがボクの頭を撫でました。 ふっと三国さんの顔を見ると、とーっても可愛い、満面の笑みで・・・。 「本当にありがとう、遙君・・・」 だからボクは、一層照れちゃった・・・・・・。 「ねーねーお母さん?」 るなちゃんが、お母さんになにか言ってます。 「るな、どうしたの?」 「はるかさんねー、おとこのこなんだよー?」 ・・・・・・ま、マズイ。 「えぇ?まったくこの子はなに言いだすんでしょう・・・遙さん、ごめんなさいね?」 るなちゃんのお母さんは、ボクに謝りました。 まぁ普通は、そう言う事はちょっと失礼、かもしれなかったけど・・・・・・。 今のボクにはマズイ、ピンチ過ぎます。 「いえいえ、気にしてませんから・・・」 ボクは気まずい気持ちを隠して、答えました。 でも、三国さん・・・・・・。 「遙ちゃん・・・本当は、男の子・・・・・・」 ピローン。 スカートをめくっちゃいます・・・・・・。 「うわぁぁぁぁぁん!?三国さん何するんですかぁ!!?」 もう・・・男だって、ばれちゃった・・・・・・。 「まぁ・・・本当に!?でも、とっても見えないわ・・・」 ・・・るなちゃんのお母さんが、妙にうれしそうなんですが。 「ほらね!お母さん、いったとおりでしょ!?」 得意げなるなちゃん・・・うわぁ、勘弁してよぉ・・・・・・。 「遙ちゃん、ごめんなさい・・・今度、うさぎあげるから、許して・・・・・・」 張本人のまいなさん。まったく・・・・・・。 とりあえず、交通人にバレなかっただけ、マシかなぁ・・・・・・。 「そういえばるなちゃんのうさみみも、まいなちゃんが作ったんですか?」 「うん・・・・・・遙ちゃんにも、今度あげるね・・・・・・?」 なんとなく、ボクはまいなちゃんのうさみみをぐいっと、引っ張ると。 「い、痛いよぉ・・・・・・」 ビクぅッと、痛がりました!? 「あ、ゴメン・・・」 三国さんは耳をさすりながら、ちょっとボクのことをジーッと睨みます。 「・・・うさみみ付けたら、許してあげる・・・・・・」 ・・・・・・まいなちゃんって、ホンットに不思議少女!! 「禅問答」 この前のお詫びで、ボクはまいなちゃんのウチに行く事に。 そしたらマキトさんにばったり会って、 「じゃあオレがまいなっちのウチまで送ってってやるよ!あのうさみみっ娘だろ?かわいーよなぁ・・・」 なぁんて言いながら、ボクをカタナに乗せると調子こいてウィリーしながらニトロ吹かしたり!! まったく、マキトさんといると命がいくつ合っても足りないよぅ・・・・・・。 「オレはいつもギリギリのスリルってぇ奴を求める男だからな!!」 「よっしゃあ、ここかぁ!?」 マキトさんは凄まじい急ブレーキでバイクを止めます。 もう前のめりどころか、後のタイヤが宙に浮いてます!ちょ、ボクの身体までぇっ!? 「ジャックナイフってーんだぜ?すげえだろ」 ヘルメットを脱ぎながら、マキトさんは得意げに言いました。 「ちょっと・・・すっごい怖かったんですからね!?」 ボクは流石に、ブリブリ。 「ハハ、悪かったよ・・・今度はバーンナウト位にしといてやるよ・・・」 ・・・バーンナウトって、ドラッグレースで後輪を思いっきり空転させるヤツですよね・・・・・・。 「だからそういう問題じゃないですってば!怖いのは止めてくださいね!?」 ピンポーン。 ベルをならすと、早速まいなちゃんが来ました。 「こんにちは・・・遙ちゃん・・・に、マキト、さん?」 珍しい来客に、ボーゼン。 「よぉまいなっち!元気してっかァ?」 明るい挨拶のマキトさん。そして、いつもボクにやるように、まいなちゃんの頭をぐりぐり。 「うぅっ・・・・・・」 でも、頭を撫でられるのは、キライみたい・・・。 そっか、うさぎも耳を触られるの、イヤだもんねぇ? さっそくまいなちゃんのお部屋の中に。 かわいいウサギのティーポットで、紅茶を持ってきてくれたまいなちゃん。 ・・・ウサギ宮殿のうさぎ姫って感じィ。ピンク色に、白のフリルが可愛らしい。 「お、サンキュッ♪」 マキトさんは紅茶をもらうなり、お行儀悪く一気に口に流し込みます・・・・・・。 でも器用に、全部流し込んじゃいます・・・あんな熱い紅茶を・・・・・・。 「・・・マキトさん、すごい・・・・・・」 ボクも凄いと思う。でも、もっと凄いのはこの部屋と、まいなちゃんの格好・・・・・・。 「その服、自分で作ったの?」 「うん・・・遙ちゃんにも、お揃い・・・あるの・・・・・・」 ・・・早速、今来ている服と同じモノを、タンスから取りだしました。 「お、可愛いじゃんか・・・ハルカ、オマエも着てくれよ!」 マキトさん・・・まぁたそんなバカを言う・・・。 でもまいなちゃんのため、今日はおとなしく着る事にしました。 「うわ・・・・・・遙ちゃん、似合う・・・・・・」 まいなちゃん、うっとりしてます・・・・・・。 「おぉ、ハルカやっぱ可愛いな!・・・ま、雪乃には負けるけど・・・」 マキトさんも妙に喜んでる。確かに雪乃先輩には、勝てませんけどね・・・ってオイ!ボクはそういう趣味ないってーの!!? トローンとした目つきのまいなちゃん、今度はボクにうさみみを。 「コレで・・・完璧・・・ッ」 うさみみ付きのボクを見て、まいなちゃんは悦に入ります。 まいなちゃんのうさみみが、うれしさでピコピコ。 その様子を見て、マキトさんがたずねました。 「へぇ・・・この耳、動くの?」 そして手を伸ばすと。 「触っちゃ!・・・・・・ダメぇ・・・・・・」 と、うさみみを手で押さえながら、まいなちゃんはぷいっとしました。 「・・・・・・自前?」 「違うよ・・・?これ、つけみみなの・・・」 まいなちゃんは自分の頭からうさみみを取り外し、マキトさんに付けました。 「マキトちゃんにも・・・うさみみぃ」 「うはぁ!オレかよ・・・どう、似合うか?」 ・・・意外にも、得意げ。 そしてマキトさんはうさみみをピコピコと動かし・・・!? 「あれ、何だコレ?動くじゃん・・・」 不思議そうに外して調べるマキトさん・・・でも、仕掛けは無い。 「あっれー・・・ヘンなの!でもコレおもしれーじゃん!!」 また頭にうさみみを付けて、喜びながらうさみみでボクの頭をなでるマキトさん。 ヘンなのー・・・。 その様子を見ながら、まいなちゃん、ぼそり。 「・・・・・・選ばれし、モノ・・・・・・?」 ・・・・・・まいなちゃんって、一体何者なんだろう・・・・・・。 それに、マキトさんも・・・・・・。 以下、作者コメントwwwwwwwwwwwwwwwwww 「満月の下で会いましょう」 なんてーか、いつもと違う月スペシャルにするつもりがいつも通りの話になってしまったと言う。 コイツら二人きりになると、泣いてばっか、キスしてばっか。書いてる俺も呆れる・・・。 「月の災禍」 さて妙にファンタジーっぽくSF臭い話になったわけだが・・・。 実はこの話、ちょっとした裏設定めいたものがありまして。後で公開する、気が向いたら。 「おイヌさまごっこ」 雪乃のヘンタイッぷりが炸裂した回。 冷静に考えると拘束・監禁、後少しでテラヤバスなパーフェクトコンボになりそうだったけどその割にはマターリとしてませんか?してませんかそうですか。 「ピンクウサギの憂鬱」 とある方に「三国まいなに萌えた」と言われたのもあって書いてみた。不思議少女・・・。 ・・・しっかしセンコロ分からないと理解できないネタだよなぁwwwwwwww そしてギルティギア最新作「GGXX#RELOAD/(スラッシュ)」は9月28日稼働開始らしいですよ?でもブリジットよりもツィーランな雪乃先輩でしたとさwwww 「女装の教室」 ・・・俺女王の教室一度も見た事無いんですが。 クラス全員女装してると言うシュールさとか、ショタコン高校教師とかシュールさを狙ったつもりが大失敗wwww 「撲殺て(ry」 撲殺天使ドクロちゃんも俺一度も見た事無いんですがぁ・・・・・・。 いい加減マキトにだけは途方も無く厳しい雪乃・・・基本的に雪乃って男嫌いなんだろうなぁ。 ちなみに雪乃のキックのイメージは「リアルトライアド近接B」。怖いよwwwwww分かるヒトにしか分からないけどwwww 「バカばっか・・・」 本当にバカばっかとしか言い様の無い。 堀江家はヘンタイの集団だな!てかそもそも先ボクにマトモな人間がいないという話もあるけど。 「The way of the bloody」 なんかマキト主役にしたらハード目な話になった気がする。 ちなみにマキト視点になると堀江家の裏設定が丸見えになるんですよね・・・だからマキトは何話もかけて登場させた。 まぁ、単純に俺が変態キャラ大好きってのもあるんだけどなwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww ・・・たびたびネタになるマキトの愛車の名前・・・セガのセンコロページに元ネタの画像があります。なにしろ股間に乗りこむと言うアバンギャルドでアナーキーなデザインは・・・ワロスwwwwwwwwwww 「お見舞いに行こう!!」 えぇ、お見舞いです。 風邪引き男に目病み女とは色っぽい象徴らしいけどねー・・・あぁあんなショタっコが肌晒してたらお兄さん(ryな感じで書いてみた。 ・・・HG仁科やマキトが出てきたら一気にBL展開になりそうで怖いんですが。wwww 「最近の、悩み事」 ・・・俺の最近の悩み事だったのですよ。 だって、小説の中では雪乃って「スレンダーな美女」な設定のはずなのに、俺が絵を描くとなんかぷにぷにしちゃうんだもん!! そこでなんとかぷにぷにさせてみました。 ちなみにこの話で少しずつ雪乃のバストが大きくなって来た事が判明。それに伴い遙が「せんぱぁ〜い、ペク・チャンポのコスプレしてよ〜なんでボクだけツィーランのカッコしてるのさぁ」と圧力をかけること受けあい。 ・・・どうでもいいけど雪乃の髪型って少しチャンポに似てしまったのよね・・・意識したつもりは無かったのに。 「初期設定」 えぇ、遙と雪乃がクレープ屋でバイトしてるのって初期設定なんですよね。 ハナッからマスターは二人を看板娘として雇ってたらしい。 ちなみに雪乃、札束のみならずプラチナカードまで持ってます。詳細は、後ほどのエピソードで。 「初期設定 その2」 ・・・大鳥先輩が女装趣味を持っている事を、作者も半ば忘れかけていて。 お影で大いに消化不良なエピソードになってしまいました。しかし大鳥の場合、遙や後々登場する(一回だけ出たけど)水無月透と違ってネタ女装なんですよね。 ・・・サッカー部エースでモテるのにwwwwwコイツもバカだwwwwwwwwそして名前初公開。てか今考えたけどwwww 「ライバル・・・」 少女漫画的ライバルな六条薫子さんです。背が低くてプライドが高くていつも雪乃に負けてばかり。でも巨乳ロリ。 しかしなんか絡みづらいキャラだなぁ・・・お嬢様口調って難しいですね☆ それからやっぱり遙を女装させるのはもう先ボクのキャラ全員にとって常識のようなものになってしまってるなwwwwwwwwwwww 「女装ショタの僕が、人助けをしてみました」 ・・・なぜHGに勇気づけられる、遙wwwwwwwwwwwwwwwwwwww そして三国さんの謎がこの辺から。 「押し問答」 ・・・タイトルと中身が違っちまった。 そうです、謎の力でまいなちゃんのうさみみは動いています。そしてその謎の力をマキトも持っていると言うwwwwww 書き始めた退魔編とは関係無いですよ?