今までなんとなくマターリと続けてきた先ボクですが、まったく主題めいたものが無いわけではありません。 今回はターニングポイントの意味も込めて、ちょっと特別な話を書こうと思いました。 「Lotus eater」「ヒ・ガ・ン・バ・ナ」続きモノと言うか、ちょっと先ボクとしては特殊かもしれないです。 「Lotus eater」 わたしがキミを傷つけてた。 透明なナイフで、ナイーブ過ぎたキミの心をズタズタに。 いつもとおんなじように眠るキミを見つめながら、わたしはそんなことを思ってた・・・。 ・・・ハルカ。 どうして、目を開けてくれないの? ・・・ねぇ、ハルカ。 どうしてキミは、ずぅっと眠りつづけているの・・・? 「・・・ごめんなさい」 自然と、言葉が洩れた。 せめて、キミが今どんな夢を見ているか、教えてください・・・・・・。 いつだったか、マキト兄さんがふと言った。 「・・・オマエはハルカに優しいけど、残酷すぎる」 真顔だった。 兄さんがそんな事言うなんてとっても珍しかったから、わたしは聞き返した。 「残酷?」 「あぁ、無邪気すぎるとも言う・・・」 世界で一番残酷な生きものは子供だと、兄さんはいつか言っていたっけ・・・・・・。 あんまりに純粋で、無邪気だからこそ、大人には想像も出来ないほどの純度の悪意をぶちまける、という話だった。 「そりゃあハルカは確かに可愛いけどよぉ・・・本人の意ってぇヤツもちっとは汲んでくれないと」 そう言いながら、マキト兄さんはタバコに火を付けようとした。 当然、タバコはわたしがすぐ奪い取って、放り投げた。 「本人の意・・・?」 ぼんやりと、わたしは答えた。 マキト兄さんは不機嫌を露わに、言った。 「あのなぁ・・・オマエは知らないかもしれないけど、あれでハルカ、結構コンプレックスなんだぜ?もっと男らしいのに憧れるんだとさ・・・オレみたいな?」 ・・・確かに、ハルカは常日頃、もっと男らしくなりたいって言っていた。 兄さんが憧れとは、さすがに苦笑してしまうけど。 「・・・雪乃、何がおかしいんだよ」 「だって、兄さんでしょう?」 「そうじゃなくて」 ・・・・・・怖いくらいに、真剣な眼差しだった。 「ハルカはもっと男らしくなって・・・そうだなぁ、頼られたいんだよ、オマエに・・・。普通、男だったらそういう関係に憧れるってか・・・『だまってオレについてこい』ってヤツ?そうまでは言わないけどよ、アレでハルカ、結構不安なんだぜ?色々・・・」 ・・・不安? まさかキミが、そんなこと考えてたなんて、思っても見なかった・・・・・・。 いつもの帰り道。 今日はバイトもなんにもないし、ハルカと二人、帰り道を歩いていた。 いつものように、他愛の無い話をしながら・・・。 でもふと、わたしの脳裏によぎった、マキト兄さんの言葉・・・・・・。 堪らなくなって、わたしはふと、呼び止めるように言った。 「ハルカ!?」 「・・・なんですか?」 ハルカは無邪気に振り向いた。 いつもとおんなじように、やわらかい笑顔で。 その笑顔が、たまらなくいとおしかった。 わたしは、ハルカがただ笑顔でいてくれるだけで、うれしかった・・・・・・。 「・・・雪乃先輩ッ?」 気が付けば、わたしはハルカを強く強く抱きしめていた。 華奢な身体を、いつくしむように。 「ちょ・・・せんぱぁい・・・」 いつものように、恥ずかしさで困惑するハルカ・・・そんな様子も、本当にいとおしくて。 ・・・キミは、何を思ってるのだろう? 「・・・ねぇ、ハルカ。今なにか、悩んでる事とか・・・ある?」 やんわりと、たずねてみたけれど。 「え?え?そんなこと、無いですよ・・・それよりぃ」 とっても愛らしい声で、返したけれど。 「・・・嘘」 兄さんの言葉を聞いてから、無性に不安にかられて・・・・・・。 「今のボクには・・・先輩がこうやってくっついてることが問題なんですよ・・・」 ・・・・・・嘘だ。 だってキミは、なんにもわたしに話してくれないじゃない・・・。 だから、離してあげない。 キミがどっかに行ってしまわないよう、ずぅっと捕まえておくんだから・・・。 「まったく、恥ずかしいじゃないですか・・・」 ふんわりとした頬を赤く染めて、ハルカはわたしの家の前で文句を言った。 その様子を見て、おもわず彼の頭に手を伸ばす。 「あぅ・・・まぁた子供扱い」 「そうでもないわよ?わたし、子供にこんなことした事ないから・・・」 ごまかすように、返した。 ふんわりとやわらかい、ハルカの髪・・・。 「・・・・・・大好き」 「と、突然!?また・・・そんなこと言われたら、さみしくなっちゃうじゃないですか・・・こんな、別れ際に・・・」 わたしと別れる時、ハルカは本当に寂しそう。 「・・・ゴメンね?タイミング悪くって」 「まったく・・・ウチに帰ったら先輩に電話しちゃうんだから!」 ちょっとすねたように、ハルカは言った。 「・・・うん、待ってるよ」 それだけ言って、わたしは家に帰った。 小さな背中、ひとりぼっち・・・・・・。 それからも、どうしようもない不安に駆られた。 ハルカがどこか遠いところに行ってしまうんじゃないか・・・・・・って。 そしてこれまでわたしがハルカにして来た事を思い返して・・・呆れた。 尋常じゃないわね、彼氏を女装させちゃったりなんてね。それに時間もおかまい無しに電話はするわ、2階のベランダから夜な夜なお邪魔するわ・・・。 普通だったら、嫌気もさすってモノなのに。 でもハルカやさしいから、なんにも言わず、ただ微笑んで。 「いいですよ?先輩がうれしかったら・・・ボクも、うれしいから」 そういって、なんでも抱え込んでしまうような。 そのくせ、悩み事なんてこれっぽっちも話してはくれない。 ・・・そう思ったとき、無性に寂しくなった・・・・・・。 ハルカからの電話は来ない。 思い返す、あの日。 それはあまりに突然だった。 いつものように屋上へ明日香と二人。 でも、待っていたのはハルカの友人二人と、大鳥くんだけ・・・。 「あれ?ハルカは・・・」 「あー雪乃さん、今日はアイツ休みッスよ?」 仁科君が、ちょっと寂しそうに言った。 「えー、ハルカ休みなの・・・じゃあお見舞いに行かなきゃねぇ?」 ・・・何事もなければ、良いんだけれど・・・。 「じゃ、じゃあオレも行きますよ!やっぱ心配だしさ・・・」 ちょっとムキになって、仁科君も言った。 いつもわたしは彼をからかってばかりだけど、こんないいヤツがハルカの友人だなんて、ちょっと感謝したいくらい。 「・・・明日香は?」 「ごめん、今日バイト入っちゃってて」 すまなさそうに、明日香は小さく手を合わせて言った。 「仕方ないわね・・・じゃあ仁科君、今日は二人で行きましょう?」 「え・・・仁科君って・・・」 そっか、いつもからかってばかりでマトモに彼を呼んだことも無かった・・・。