
お久しぶりの「先輩とボク」です><
○屋上編
1.
ボクが初めて雪乃先輩に出会ったのは、夕焼けの屋上でした。
さみしげな先輩の後ろ姿が、妙に印象に残って・・・少し、ドキッとしちゃった。
その後も何度か放課後の屋上へ足を運んだんだけど、いつも扉にはカギがかかってて。
最初のころは本当にクラスになじめなくて、休み時間も一人ぽつーん。だから、また雪乃先輩とお話したいなー…って、思ったんだけど。
そんなぼんやりした日々がすぎて、一週間くらい経ったころ。
(いないだろうなぁ…)
我ながらちょっとあきれちゃうけど、今日も放課後、ひとりでに屋上へ向く足。
ちょっとバカみたいかな・・・って思いながら屋上にたどり着くと、雪乃先輩が来てました!
「あ!雪乃先輩!!」
・・・思わず、大声出ちゃった。
先輩はちょっと呆れながら、
「遙クン・・・そんなに驚くこと、ないじゃない?」
と、笑いました。
よく見たら先輩、なんと屋上のカギを持ってます。
「ど、どうしたんですか?それ・・・」
「フフ、嘘も方便ってヤツよ♪」
先輩はカギを振り回しながら、ちょっと不敵に笑いました。
・・・ホントはこう言うの、良くないんじゃないかなぁ・・・?
「・・・でも先輩、なんで屋上に?」
ちょっと、気になりました。
本当は先輩、一人が好きな人なのかなぁ・・・って思って。
そしたらなんだか、この前のことがちょっと申し訳なく思えてきて。
でも、雪乃先輩は。
「だって・・・屋上に来れば、またキミに会える気がしたから☆」
って、ボクの頭をなでながら言いました。
「予想通り・・・うん、先輩思いのいい後輩ね〜」
・・・頭なでられて、ちょっと複雑。だって、一年しか変わらないのに!
そしてちょっと、むっとしちゃったけど。
「・・・あ、遙クンごめんね?ヤだったかな・・・」
先輩はちょっとすまなさそうに、笑って言いました。
「そ、そんなことないですっ!?」
だってボク、お母さん以外の女の人にこう言うことされたこと、なくって・・・・・・。
「まぁせっかくだし、ちょっと屋上でお話しましょ?」
と、先輩はボクの手をとって。
雪乃先輩の手はあったかくてやらかくて・・・握られた瞬間、ちょっとドキッとしちゃいました。
ボクはドキドキしっぱなし。雪乃先輩は妙に上機嫌。
そしてドアに手を掛けると・・・・・・。
「ザァァーッ・・・・・・」
雨。雨。雨・・・・・・。
ボクたち、ちょっと茫然。
「・・・帰ろっか」
雪乃先輩が、ぽつりと言いました。
「そうですね・・・・・・あ」
ふと、思い出しちゃった・・・。
「傘、持ってきてません!」
ちょっと、これじゃびしょぬれになっちゃう・・・どうしようって、悩んじゃいます。
でも雪乃先輩は、そんなボクをなだめるように言います。
「あら、遙クン?わたし、傘持ってるわよ・・・」
そして、にっこりと笑って。
ボクの方に、手を差し出して。
「一緒に、帰ろ?」
あんまりに突然で、ちょっとびっくりしたけれど。
その手をボクは、ゆっくり握って。
「は・・・ハイッ!!」
そして二人、帰り道。
ちょっぴり照れくさくって、でもすごくうれしい雨の道。
雨音に揺れる、相々傘!
2.
この前は雨で台無しだったけど・・・。
今日のお昼は、雪乃先輩と屋上で待ち合わせっ!
先に一人屋上で、すがすがしい風に当たっていると。
「遙クン、お待たせーッ♪」
雪乃先輩が、明るい声でかけてきました。
あ、顔真っ赤・・・そんなにムキになること、ないのにねぇ?
「あ、遙クゥン・・・何がおかしいのかな?」
思わず笑っちゃったら先輩、ボクのほっぺたつねるんですよ!?
「だって先輩、顔真っ赤にして・・・」
つねられても、笑顔は収まりません。だって、先輩ってば・・・・・・。
・・・それに、雪乃先輩が来てくれたことが、とってもうれしくて。
なんでだろ・・・先輩と一緒にいるだけで、すごいドキドキして、それでいて落ち着いたような、とっても不思議な気分になるんです。
それがたまらなく、うれしくて。
「遙クン、今日はサンドイッチ作ってきたのよ?」
先輩が手にしたバスケットを開くと、中にはかわいいサンドイッチが!
「うわぁ、おいしそう・・・」
「今日は遙クンと一緒だからね、気合入れちゃったわ?」
・・・なんか先輩の言葉を聞いたら、突然顔から火が出ちゃいそうなほど、ドキィッ!?
「・・・あら?遙クン、顔が真っ赤よ?どうしたの・・・」
・・・当の張本人は、不思議そうにボクをじぃっと見つめます。
もぅ・・・余計にドキドキしちゃう!!
3.
気がつけば、毎日先輩と屋上でおしゃべり。
勉強はどう?とか、学校慣れた?とか、とりとめない話ばかりだけど・・・でも、雪乃先輩と一緒にいるだけで楽しくて、うれしくて。
でも、雪乃先輩は、自分のクラスのことを話してくれません。
ボクはやっと、仁科君ってクラスの子と仲良くなれたんだけど・・・。
先輩、何かクラスでヤな事が、あったのかな・・・?
「あの・・・雪乃先輩?」
思い切って聞いてみようと、風に耳を澄ませる雪乃先輩に声を掛けたんだけど。
「・・・・・・なぁに?」
その表情が、なぜかとっても切なくて。
思わず、押し黙っちゃう・・・・・・。
それからボクは、先輩に何となく声がかけられなくて。
ちょっともじもじしながら、うつむいちゃうんです。
そしたら雪乃先輩、ふとボクの方をじっと見て。
「・・・遙クン、どうしたの?クラスでヤな事あった・・・?」
その心配そうな表情に、ドキッとしちゃって。
でも、そうじゃないんです・・・ボクは、先輩が。
「え?ボクは、大丈夫だけど・・・先輩が、」
あっ!
思わず、言っちゃった・・・悪かったかな。
触れちゃいけなかったかなぁ、と内心びくびくしてたけど、先輩はにっこりとボクの頭をなでて。
「そっか・・・よかった」
・・・ボクの猫っ毛をやさしくなでる雪乃先輩に、胸が痛いほど、ドキドキ。
そして先輩は、ふわっとフェンスに手を掛けて、言いました。
「遙クン・・・」
その目はやさしくて、けれどなんだかさみしげで。
「そういえば、先輩・・・先輩はまだ、なじめないんですか?」
勇気を出して素直に、聞いてみると。
「まぁ、ね・・・人付き合いとか、ちょっと苦手で」
先輩はちょっと、さみしそう。
「わたしね・・・小学校中学校って私立に通ってたのね?そこがまたお嬢さま学校で・・・だからなかなかなじめなくって、それがイヤで高校はここにしたんだけど・・・」
先輩の顔は、さみしそうにうつむいて。
「そしたら今度はみんなからお嬢さまって思われちゃって・・・とっつきにくいのかなぁ、わたしって」
そして、小さくため息一つ。
「そんな事ないですよ!」
ボクはちょっとムキになって、言いました。
だって先輩、こんなに優しくて、あったかい人なのに。
「だって・・・・・・雪乃先輩、ボクにすごくやさしくしてくれて・・・なのに、なのに・・・さみしいです」
・・・なんか、悲しくなってきちゃった。気を抜いたら、涙が出て・・・きちゃい、そう・・・・・・。
「遙クン・・・ごめんね」
雪乃先輩は、ボクのことふんわりと、抱きしめました。
「え・・・」
あまりに突然で、ボクはちょっとびっくりして、心臓が壊れそうなくらい。
でも、ボクの顔をじっと見つめた先輩は、とっても穏やかな表情で。
にっこり笑って、言いました。
「ありがと・・・わたし、頑張ってみるから!」
その顔はとっても明るくて。
ボクも、思いっきりうなずきました!
「ハイッ!雪乃先輩!!」
「遙クン・・・声、大きいわよ?」
「あ」
・・・・・・ボクたち、内緒で屋上に入ってるの、忘れてました。てへ。
でも先輩も、はやくクラスになじめると、いいなぁ・・・・・・。
「あ、雪乃先輩!?教室でネクロノミコンとか、やめた方がいいんですからね!?」
「ハイハイ・・・」
先輩、苦笑い。大丈夫かなぁ・・・。
「あ、そういえば遙クンは・・・友達、出来たの?」
「ハイッ!今度紹介しますね☆」
ボクはなんかうれしくて、また大きくうなずいちゃいました!
でも先輩・・・ちょっとヘンな顔で、気になる・・・・・・。
○休日編
1.
この間ボクは、雪乃先輩とダンスパーティーに行きました。
そのときのドレス姿が・・・先輩に、気に入られちゃいました!?
はぅっ、どうしよう・・・・・・。
あの時のキスがあんまりに脳裏に焼きついて、ボクは先輩の顔を思い出そうとすることさえ・・・・・・胸が痛くて、苦しくて。
まるで壊れたように、心臓が脈打ちます。
でも、月曜日に屋上で先輩と会ったら、なんだかものすごくほっとしました。
「あら・・・遙クン、日曜日はメーワクかけちゃったねぇ?」
本当に申し訳なさそうで、胸が痛かったけれど。
「いいえ!と、とっても、楽しかった・・・」
ドキドキはしてたけど、その脈に耳を澄ませられるくらい、ボクは落ち着いていました。それどころか、そのドキドキが心地よいくらいで・・・。
なんだろ、この気持ち?
そんなこと思いながら顔を真っ赤にしていると、雪乃先輩が心配そうに尋ねます。
「あれ?遙クン・・・大丈夫?」
って、おでこ!!!!!11
くぁwせdrftgyふじこlp
・・・雪乃先輩は日曜日のことを謝りました。
ボクは気にしてないけど・・・ちょっと、あの時のキスは覚えてないかなぁと、ちょっとドッキリして、口から心臓がとびでそうに。
でも先輩は、覚えてないみたいだった・・・なんかすごく複雑でちょっと頭がぐるぐるするけれど、ちょっと覚えてなくてよかったなぁって、安心しちゃった。
その週の、金曜日。
「遙クン・・・土曜日、暇?」
って聞かれたから、
「は、ハイッ」
って、ドキドキしながら答えると、先輩はにっこりと微笑んで。
「よかったぁ・・・家にお友達呼ぶなんて、あまりないから・・・ねぇ?」
先輩のうれしそうな顔に、ドッキリ!
そして先輩はボクの頭をなでるから・・・なんだかドキドキするような、でも心がほんわりと、落ち着くような。
その日は帰り道からうれしくて、ふわふわしたような気分です。結局夜も眠くなくて・・・寝られなかった。
そして土曜日。
笑顔で迎えてくれた先輩。
そして、ちょっと憂鬱なボク・・・・・・。
冷静に考えると、呼び出された理由が・・・女装が、見たいだなんてぇ。
でも先輩の笑顔が素敵で、すごく複雑・・・それに、眠いよぉ!
「えっと・・・わたしが中学時代に着てたの。キミにはちょうどいいかな?」
そういって差し出したのは、上下のひらひらなフリルいっぱいの服。
・・・ボクは、ちょっと前の先輩を想像して、この服装を着てるところを想像して・・・・・・ドキドキしてきちゃう。
それにしても・・・何といっても、昔先輩が着てた服を着るなんて!!
「お気に入りだったんだけど、もう着れなくなっちゃって・・・」
そう、顔をちょっと赤くして笑う、雪乃先輩。
なんだか頭がぐるぐるしちゃう・・・・・・。
「じゃあ遙クン、ちょっと外でまってるね?」
いやだ、って言いだせなくて・・・結局着ることになっちゃった。
しかも、憧れの先輩のお部屋で一人・・・・・・なんだかすごい罪悪感に苛まれながら、先輩のお気に入りだった服に袖を通します。
「遙クン・・・もういいかなぁ?」
「ちょ・・・ちょっと、待ってください!」
先輩の声にちょっとあわてちゃって。スカートに足を引っ掛けちゃった・・・・・・。
「わ、ワワッ!?」
「は、遙くぅん!?」
僕がけっつまずいた情けない大声に、雪乃先輩が飛び込んできちゃって・・・・・・。
べちゃっとうつぶせに倒れるボク。
せ、先輩に・・・・・・お尻見られちゃったぁ!? うわぁぁぁん、どうしよう・・・・・・。
「は、遙クン・・・ごめんね?」
先輩はすまなさそうにそうつぶやくと、そそくさと部屋の外に出て、ゆっくりとドアを閉めました。
そして、一言。
「・・・・・・遙クンってやっぱ、細くて色白・・・かわいいなぁ・・・・・・」
ゆ、雪乃せんぱぁい!?
ようやく着替え終わると、ふと鏡に自分の姿。
細い足。
白い腕。
そして、男らしくない顔・・・・・・全部、好きじゃないんだけど。
なんか悲しくなってきちゃって・・・そこに、先輩の明るい声。
「遙クン、終わった?」
そのきれいな声に、反射的に。
「は、ハイッ!?」
まるでからくり人形のような・・・そこで、何となく気がついちゃったんです。
ボク、雪乃先輩が好きなんだぁ!!!!!!!?????
・・・確かにきれいだし、やさしいし、初めて会ったときからドキドキしっぱなし。
でも・・・・・・ただ、きれいで憧れで・・・って、思ってたんだけど。
でも。
でも・・・。
でもぉ・・・・・・。
どうしよう。
どうしよう?
どうしよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?
先輩が入ってきたら、ボクは思わずしゃがみこんじゃって。
だって・・・今のボクの姿、なんだか雪乃先輩にはすっごく見られたくなかったから。
先輩のお気に入りの服を、男のくせに着ちゃうなんて・・・すごい、罪悪感。
「ご、ごめんなさぁい・・・・・・」
でも先輩は、ボクの頭をやさしく撫でて。
「遙クン・・・・・・わたしこそ、ごめんね?」
そして先輩もしゃがみこんで、にっこりとボクを見つめます。
その視線に、なんだか頭ぐちゃぐちゃになってきて・・・・・・でも、なんだかすごくほっとして。
でも、やっぱり恥ずかしくてドキドキしちゃって。
なんだかよくわかんなくなってきたら、突然、涙が・・・・・・。
「うわぁぁぁぁん・・・先輩、ごめんなさい・・・・・・」
・・・情けないなぁ、ボク。
こんな自分が、心底いやになる。
ましてや・・・・・・大好きな人の前で、我慢できなくって泣き出しちゃうんだもん。
でもそんな泣きじゃくる情けないボクを、雪乃先輩はやさしく抱きしめてくれました。
「遙クン・・・泣かないで、そしたらわたしまで・・・だからね?笑って・・・・・・」
先輩に抱きしめられた瞬間、さっきまでのやな気持ちがいっぺんに消え失せて。
すごく穏やかで・・・でも、ドキドキする。
涙はすぐに、止まらないけど。
「あ、遙クン・・・」
あのあと、二人ともちょっと押し黙っちゃった。
でも、先輩は相変わらずのやさしい声で、言ってくれました。
「さっきは、ごめんね?」
「いえ、先輩のせいじゃないよぅ・・・・・・」
こうして改めて向き合うと、やっぱりドキドキしてきちゃう。
「あのね、先輩・・・・・・ボク、なんだかヘンなんです・・・」
ホントに、ヘン。
でも先輩はやさしく頭を撫でて。
「そんなこと・・・だって、普通は」
そして、押し黙っちゃう。
黙って先輩に頭をなでられると・・・うれしいけど、こそばゆいです。
「あ、遙クン甘いもの好き? うぅん・・・男の子だから好きじゃないかなぁ・・・」
突然、先輩が言いました。
ボクはちょっとびっくりしながらも、甘いものが大好きだから首をぶんぶん振って。
「いえ、だ、大好きですッ!?」
「フフ・・・ヘンな遙クン♪」
あ、先輩にヘンって言われちゃったぁ・・・・・・はぅっ。
そして先輩は下に降りて、すぐに紅茶の入ったティーポットと、ケーキを持ってきてくれました。
とっても甘そうな、クリームたっぷりのケーキ。
ボクは思わず、歓声をあげちゃいます。
「わぁ・・・・・・おいしそぉう!」
「キミが来るって言うから作っておいたのよ? ささ、食べて☆」
でもボクがうれしかったのは・・・・・・雪乃先輩の、あまぁい声。
は、恥ずかしいっ!!
「それにしても・・・やっぱ遙クンってば女の子のカッコがすごく似合うのね?かわいいわ、ホントかわいいっ!!」
わわ、せんぱぁい・・・抱きつかないで!!
ボクの心臓が、破裂しちゃうから!!
○日常編
1.
・・・一つ、気になってたことがあるのよねぇ。
明日香と二人で話してて、ふと思い出したわ?
「あのさぁ、明日香・・・」
ふとしたわたしのつぶやきに、明日香は好奇心いっぱいの視線を向けた。
明日香ってホント、こういう反応が子犬みたい。
「あら、雪乃。どうしたの?」
「ちょっと、気になってね?」
放課後の教室で。
わたしはようやくできた友達の明日香と、なんとない話をしてた。
いつものように明日香は恋話。
わたしは・・・最近興味のある、陰謀論。
どこまでいってもかみ合わないのに、明日香といるとなんだか面白くて。
話の種は、つきないわ? かみ合いもしないけれど。
「そういえばなんで、男の子ってスカートはかないのかしら?」
あんまりに当たり前といえば当たり前なんだけど、でも遙クンを目の当たりにしたらそれが急に気になった。
だって、遙クン・・・・・・あんまりにかわいくて、抱きしめたい衝動にかられるの。
「え、雪乃さん・・・それって、当然じゃない」
・・・明日香は遙クンのスカート姿をみたことないから、こう言うことが言えるのね。
「当然じゃないわ!? だって、遙クンってば・・・・・・」
「え、雪乃・・・・・・」
・・・冷たい視線。
ちょっと痛い。
「え、でも・・・ヘンだと思わない? 世の中にはスカートとかリボンが似合う男の子もいるのに、どうして・・・そう、思わない?」
取り繕うように、わたしはちょっと慌て気味に言った。
すると明日香は考え込んで、
「うぅ〜ん、確かに」
やったわね!
「じゃあなんで男はスカートはかないのかしら?」
「ちょっとは私たちの苦労も知ってほしいね、確かに」
明日香、ちょっと憤ってる。
「まぁ・・・なんでだろ?」
「うぅ〜ん・・・」
「あ、足が毛むくじゃらだからかしら?」
明日香が思いついたように、つぶやく。でもそれは、理由にならないわね。
「すね毛のない子だっているじゃない。 特に子供のころは、みんな生えてないわよ? 女だって人によってはすごいじゃない・・・」
「そういえば・・・そうねぇ」
そして考え込む、二人。
「・・・明日香さん」
わたしはその瞬間、愕然とするような仮説に思い至った。
そう、これこそ・・・・・・。
「誰か、男がスカートをはくことによって不都合をこうむる巨大な集団があるのよ! そうだわ、そうに違いないわね・・・これは、陰謀よ!」
「な、なんだってー!?」
明日香も、驚きを隠せない・・・・・・。
「雪乃ぉ・・・なに、そのMMR」
「ごめんなさいね? 最近遙クンから借りたMMRに、ちょっとはまっちゃって・・・・・・」
2.
なかなか、友人ができなかった。
わたし一人教室の隅で、1年生の間を過ごしてしまった。
本当は、わたしもみんなと仲良くしたいんだけれど・・・なんだかね、ヘンな意地を張ってしまうの。
これは、明日香と仲良くなる、ちょっと前の話ね。
あのころは本当に、遙クンだけが友達で・・・え? 大鳥さん? 彼は、同志よ。
あのころは、教室にいるだけですごくみじめだった。
自分で言うのもなんだけど成績はよくて、ヘンなところで目立ってしまうのね・・・それに、ヘンな意地を張ってばかりだったからかしら、なんかものすごい距離感を感じた。
だから、学校で唯一の楽しみといえば、屋上で後輩の井上遙クンと会って、お話すること。
・・・恋、ではないと思う。
なんだか放っておけなくて・・・初めて出会ったのは、夕焼けの屋上で。
遙クンの、あんまりにさみしそうな表情が、夕焼けの光とともに心にトゲのように刺さって。
おかしいわよねぇ? 自分だってたいして立場も変わらないって言うのに・・・。
でも遙クンと話していると、とってもうれしくて・・・彼と一緒にいるだけで、心がほんわかするの。
ふんわりと、マシュマロのようにやわらかい、おとこのこ。
・・・その日は土曜日で、前日学校でいやな事があって・・・悲しいくらいに、むしゃくしゃしてた。
「・・・・・・」
ベッドで一人ごろごろしながら、ふと思ったのは遙クンのこと。
「どうせ親もいないし・・・呼んじゃおうかしら?」
呼んで何しようって言うわけでもないんだけど・・・ただ無性に、さみしくて。
そしてさっそく、電話をしてしまった。
「・・・もしもし、遙クン?」
「あ、雪乃先輩! おはようございます!」
「おはよ〜・・・ねぇ遙クン、今暇かしら?」
「え・・・あの、その」
・・・なんだろ、やな予感。
「ボク、今日は・・・仁科くんと遊びに行くんです、ごめんなさい・・・・・・」
・・・・・・どうしよ・・・・・・。
「そ、そっか・・・なら、仕方ないわね。いってらっしゃい・・・」
・・・そうよね、遙クンも友達ができて。そりゃあ、遊びにだって行くじゃない。
それにひきかえ、わたしは・・・後輩の、それも男の子と一緒で、しかも別に恋人でもなんでもないのに・・・・・・。
・・・迷惑、かな。
迷惑、なのかな。そりゃあそうでしょうね、休日のこんな時間から突然呼び出して。
キモイとか、ウザイとか・・・思われちゃったかな。
なんだかそんなことを考えてるうちに、涙が出てきて。
考えてみれば、いつもそうだった。
突然家に呼んだり、わたしの用事に引っ張り出したり・・・・・・。
・・・・・・女装、させてしまったり。
でも、遙クンが恥ずかしがりながらも女装して、子犬みたいな瞳で見つめる姿を思い出すと・・・・・・なんだか、とっても切なくなる。
まるで深夜一人で、月明かりを頼りに鏡の中を覗いているような、そんな何とも言えない気分になるの。
・・・ぐったりしてた。
この日は結局何もしないまま、ソファの上で一日中寝ていた。
着替えもせず、真っ白でふわふわのパジャマのままで・・・その肌の感触が、一層悲しいくらい。
そしてふと気がつくと、夕焼けが飛び込んできて、ねぇ? ・・・なんだか本当に、みじめに思えて。
・・・さみしい。
・・・・・・さみしいよ。
・・・・・・・なんだってこんなに切なくて、さみしい思いにかられるのでしょうね?
そんな、刹那。
「ゆぅ〜きーのせんぱぁい♪」
・・・聞きなれた、声。
わたしはその声を聞くなり、まるで犬のように走りながら、叫んでた。
「は、ハルカぁ!?」
息を切らしながら、ドアをあけると。
「・・・せんぱぁい」
さっきの声とは正反対に、本当に申し訳なさそうな、遙クン。
「ごめんなさい・・・」
・・・その顔を見た瞬間、わたしは自分が少しでも思ってしまったあれこれが、このうえなく恥ずかしく思えて。
本当に、バカ。
でも・・・・・・。
「あら遙クン、いらっしゃい♪ 今日はどうしたの? 仁科クンと遊ぶって、いってたよね・・・」
「えぇ、それで別れてから、先輩とお話したくなっちゃって・・・お邪魔でしたか?」
・・・遙クンってば。
「お邪魔なんて・・・そんなことないわよ? さ、入って・・・お茶くらいは入れたげるわよ?」
わたしがそう言うと、遙クンは素直に上がったのだけど・・・。
ふと彼が、わたしの顔をまじまじと、でもちょっと恥ずかしそうな表情で、見つめて言った。
「雪乃先輩・・・泣いてたんですか? それに、そのカッコ・・・・・・」
その言葉が、とってもあったかくって。
でも泣き出しそうで恥ずかしいから、ちょっとテレ隠しのように、遙クンの頭をなでて。
「わわ!?」
「花粉症よ♪ それと、このパジャマはお気に入りなのよ・・・あ、そうだ。もしよかったら、おそろいのあげましょっか?」
・・・あ、まただ。ちょっと、まずいかしら・・・・・・。
でも遙クンは、遙クンってば・・・・・・顔を、真っ赤にしちゃって。
「せ、先輩とおそろいですかぁっ!?」
その様子があまりにかわいくて・・・思わず、ぎゅっとしちゃったわ。
抱きしめた遙クンはとっても華奢で、でもあったかくて、やらかくて・・・・・・。
ちょっと、ドキドキしちゃったわ?
・・・恋人でもなくて、ちょっと迷惑かもしれないけれど。
でも、わたしはキミがいないと、ダメな気がするの。
ねぇ、遙クン? ・・・本当は、もっと仲良くなりたいの。
声をかけるたびにびくっとされてしまって・・・まだ慣れてないからかしら、そんなリアクションがちょっと切ない。
だから、きっと、仲良くなって・・・・・・もっと、なんでも笑いあえる友人になりたいわ?
・・・・・・恋するには、まだちょっと、早いんだけど。
ごめんね?
○将来のこと。
(※上記までのお話は遙と雪乃が付き合い始める前のお話。これは、ちょっと後のお話です。)
・・・ぼんやり、考えてた。
ペンをぐるぐる、白紙の原稿用紙の上で回して。
そして、ぼんやり窓の向こうの、白い雲を眺めながら・・・・・・。
今日の作文、テーマは「将来の夢」だったんだけど、結局書けませんでした。
放課後、ちょっと泣きそうになりながら廊下をしょんぼりと歩いていると、担任の先生に呼び止められました。
「なぁ、井上・・・今日の作文、できてないじゃないか」
先生はちょっと、心配そうな顔してました。その表情が、なんだか心に痛くって・・・・・・。
「先生、ごめんなさい・・・ボク、わかんないんです」
泣きそうなのをごまかすように作り笑いで答えると、思わず振り返って、走り出しちゃった・・・・・・。
「あ、井上!?」
先生は心配そうな声で呼び止めたけど、悲しくって足は止まらなくて。
思いっきり校庭まで飛び出すと、ばったり雪乃先輩と会いました。
そのときボクがどんな顔してたか、自分ではわかんないんだけど・・・先輩は心配そうな顔してたから、やっぱり悲しそうな顔だったんだと思う。
先輩はボクに、
「あら、ハルカ・・・どうしたの?」
と、やさしい笑顔で尋ねます。
ボクはやっぱりあいまいな作り笑いで、
「え・・・あ、なんでもないですよぉ!?」
って、答えて。
でも先輩はやっぱり心配そうに、
「・・・なんでもないふうじゃないじゃない、ちっとも」
って言ったけど、ボクはなんだかムッと来ちゃって。
「なんでもないったら!」
そして、また走って、家に帰っちゃった。
家に帰っても、「将来の夢」っていうのが引っ掛かって、ずっとぼんやりとベッドの上でごろごろ。
そしていろんなこと考えてるうちに、なんだか先生や雪乃先輩に申し訳ないことしちゃったなぁ・・・・・・って、思えてきて。
「・・・・・・ごめんなさい・・・・・・・・・」
ボクはただ一人ベッドの上で、泣きながら、謝ってた。
先生から、電話があったそうです。
でも、今は先生に合わせる顔がなくて・・・・・・ボクが、悪いんです。
将来なんて考えずぼんやり来ちゃった、ボクが。
その後もずっとベッドに臥せっていると、今度は雪乃先輩からボクのケータイに電話が。
でも、やっぱり出らんなくって放っておいたら・・・留守電になった。
先輩が何か言ってる・・・でも、まだ聞けないや。
その日は何もかもほっぽって、ただぼんやり寝るでなく、起きてるでもなく。
ただぼんやりしてたら、風邪を引いちゃった・・・。
朝起きて熱を計ったら、38度も出てました。
今日は学校をお休みです。お母さんが学校に電話をしたら、担任の先生が申し訳なさそうに謝ったそうです。
そんな・・・・・・ボクが、悪いのに。
だから余計に悲しくなって、ベッドの上でずぅっと泣いちゃいました・・・・・・。
そして、夕方。
ぐったりと寝ていると、下からお母さんの声が。
「遙〜? お客さん来たわよ、雪乃さんたち」
・・・!?
ベッドからガバッと上体を起こすと、雪乃先輩のやさしい笑顔。
「ハルカ・・・? 心配したじゃない、どうしちゃったの? 事情は、あらかた聞いたけど」
そして、いつものみんなが一緒でした。
事情をあらかた自分から話すと、みんなちょっと黙っちゃって。
・・・・・・うぅっ、気まずいなぁ・・・。
でもそんな状況で口を開いたのは、六条先輩でした。
「う〜ん・・・遙さん、私の場合はそんなこと考えてる余裕もありませんわ? だって、六条家の長女ですもの、何しろ1番にならなくては!!」
・・・みんな、唖然。
六条先輩のお家は古くからのちょっとした名家で、お父さんは社長さんなんだそうです。だから、頑張らなくっちゃいけないんだって。
「だから・・・雪乃さん?貴方なんかに負けているわけにはいかないのよっ!」
・・・でも負けず嫌いで、ちょっとわがままで。
すると雪乃先輩がちょっとムッとして。
「あなた『なんか』って言い方、ないじゃない・・・・・・」
ボクも、六条先輩はちょっと言いすぎだと思いました・・・。
すると何となく、将来の夢の話に。
まず話したのは、隼人くん。
「オレは・・・将来プロのレーサーになりたくてさ、バイクの」
隼人くんは家がバイク屋で、小さいころからちっちゃなポケバイで、レースをやったりしていたんだそうです。
・・・すごいなぁ。
「すごいね、隼人くん!」
すると、隼人くんはなんかちょっとテレたような顔で。
「す、すごくねーよ・・・オレみたいなヤツ、いっぱいいるしさ・・・」
すると、今度は明日香先輩が。雪乃先輩と大の仲良しです。
「私は・・・仁科君ほどじゃないけど、雑誌編集者になりたいわね」
なんでも、そのために大学受験を頑張るから、最近は夜遅くまで勉強してるそうです。
「だって・・・やっぱりそう言うところでやってみたいことがあるのよ」
それに反応するように、ウサギのぬいぐるみを抱いたまいなちゃんが、言います。
「わたし、も・・・将来は司書さんに、なりたくて・・・」
・・・まいなちゃん、ウサギとかわいいものと、それから読書が大好きなんです。
「好きなことだったら・・・なんか、頑張れる気が、するの」
「そうねぇ、私もそう思うわ?」
明日香先輩も、うなずきます。
でもそこで六条先輩と隼人くんが、一緒になって。
「でもやっぱり・・・夢のためには苦しいこともある」
・・・なんだか、フクザツ。
「俺はサッカーやりてーんだけどさ・・・でもその前に大学だな。ちょっと、憧れの人がいてさぁ・・・」
そうつぶやいたのは、和樹くん。
いつもはおちゃらけたり「マスターオブエロス」なんて言われてるけど、このときは真剣な顔して。
「何それ、東大で初恋の人と・・・みたいな?」
隼人くんが茶々を入れました。でも和樹くんはちょっと、ムキになって。
「そんなんじゃねー! 俺だって・・・その・・・・・・」
そして真っ赤になって、黙っちゃった。めっずらしい・・・。
「いいねぇ、青春してるじゃないか」
そう言ったのは、和樹くんと同じサッカー部のキャプテン、大鳥先輩。
成績優秀スポーツ万能の大鳥先輩の、夢は・・・・・・。
「いや、俺は普通の・・・いや、できれば出来るだけいい大学に入って、いい会社に入りたいな・・・」
「大鳥さん・・・意外と、野望とか持ってらっしゃらないんですの?」
大鳥先輩が大好きな六条先輩が、ちょっと恥ずかしそうに言いました。
すると大鳥先輩は、にっこり笑って。
「ちがうんだ・・・社会人サッカーで、頑張りたくってね」
・・・・・・みんなやっぱり、きちんと夢を持ってるんだなぁ・・・・・・。
その後は普段のように今日あった出来事を話して、楽しかった。
でも、ボクが今度はちょっとセキが出て来ちゃって。今日は雪乃先輩以外、帰ることになりました。
別れ際、隼人くんがボクにやさしく、言いました。
「じゃあな、遙・・・・・・あんまり根詰めて考えねーほうがいいぜ? また、学校で会おうぜ!」
そしてみんな帰って、雪乃先輩と、二人っきり。
そういえば。
雪乃先輩は、自分の夢を話しませんでした。
ちょっと気になって、聞いてみました。
「あの・・・・・・」
でも、先輩が笑顔で、
「なぁに?ハルカ・・・」
って答えると、ボクは何も言えなくなっちゃって。
大好きな雪乃先輩と二人っきりで、しかもこんなもやもやしちゃって・・・なんだか恥ずかしくって、何も言えなくなっちゃうと。
突然先輩が、ボクのことぎゅっとします。
「・・・せんぱい?」
「・・・ハルカ、ごめんね? 実はわたしも、将来の夢とか、ないんだぁ・・・・・・」
ちょっと、意外でした。
雪乃先輩は頭がよくてスポーツも万能で、物知りで・・・なんでも、全国模試で3位になったこともあるそうです。
だから何か、すごい夢を持ってるんだろうなぁ・・・って、思ってたけど。
「ハルカ、ああ言う質問って卑怯よね? だってなんにもやりたいっていうのがないのに、有無も言わさず書けだなんて・・・わたしの場合、生半可に成績が良いもんだから先生たちがうるさくってねぇ?」
雪乃先輩は、むっとしながら・・・でも、ボクの頭をやさしくなでながら、言いました。
ちょっと、複雑な気分の、ボク。
「だって・・・会社づとめとか、面白くなさそうじゃない・・・でも大人になるのって、そう言うことなのかなぁ・・・ちょっと、」
やさしく、でも悲しそうな声で、雪乃先輩は言いました。
そして、なぜか額にチュッとして、一言。
「難しいね?」
「うん・・・難しいです・・・」
ちょっと、困っちゃいます。
すると突然、帰ったはずの隼人くんから電話が。
ボクはぱっと、電話をとりました。
隼人くんは明るい声で、ボクに言いました・・・その言葉が、なんだかちょっと、うれしくて。
「あらハルカ、さっきの電話だぁれ?」
電話を切ったボクを覗きこんで、雪乃先輩が尋ねます。
ボクはなんだかうれしくって、
「隼人くんから!『お前お菓子作るの好きだし結構うまいからさ、パティシエとか結構いいんじゃない?』だって!」
なんて大声出しちゃって・・・ケホッ。
先輩はムキになってせきこんじゃったボクの背中をやさしく撫でながら、
「ハルカったら・・・でもそれ、良いかもしれないわね?」
って、やさしく言ってくれました。
もう気がつけば、10時。
「先輩、ごめんなさい・・・遅くなっちゃいましたね?」
・・・ボクのせいで、先輩の帰りが遅くなっちゃった。
でも雪乃先輩はやさしく髪の毛をなでて、言います。
「いいの・・・わたし、ハルカに早く元気になってもらいたかったから・・・・・・」
・・・雪乃先輩の言葉が、すっごくうれしくて!
「ハイッ!早く元気になりますね♪」
「そうそう、その意気ね・・・でも今日は、もう寝ましょうね?」
「ハイッ!」
そして雪乃先輩は最後にボクにキスをすると、ちょっと名残り惜しそうに、部屋を後にしました。
ドアの向こうから、小さく手を振って。
「ハルカ・・・今度は、学校でね♪」
・・・結局、将来のこと、まだわかんないけど。
やりたいこと見つかるといいなぁ・・・って、ちょっと思った。
そうだよね、みんな夢に向かって頑張ってるんだもん・・・ボクも、頑張らなきゃ。
でも、ボクの一番の夢は・・・・・・ゆ、雪乃先輩と、ずぅ〜っと一緒にいられること。
うわ・・・最後の最後で、恥ずかしいッ!!