「先輩とボク」気が付けば60話さえ越してしまって自分でも吃驚。 63. いつもは不敵な雪乃先輩も、たまにはヘコんでしまうこともあるみたいです・・・。 その日もボクたちは、普段通りに学校に行って、勉強して、お昼休みにはみんなでおしゃべりして、それで一日を終えたんだけど。 なぜか、先輩は少しだけずっと切なそうな目をしていて、それが気になった。 けれどボクはそれをずっと切りだせず、とうとう一日が終わってしまいました。 今日はインターネットもしないで、ちょっと早めに就寝。 先輩の様子が、気になって仕方ないのですが・・・。 すると突然、ケータイがなりました。 慌てて取ると、それは先輩からの電話。 「もしもしハルカ?・・・ひょっとして、寝てた?」 半分寝てたので、あやふやな受け方をしたみたいでした。 「・・・ふぁい、ねみゅい・・・」 「・・・ゴメンねー、じゃあお邪魔かしら・・・・・・」 すこしさみしそうな先輩の声に、ボクはハッと目が醒めて。 「そ、そんなことないです!で、でも・・・こんな時間に、どうしたんですか?」 先輩はちょっと悲しそうな声で、言いました。 「今日ね・・・学校でちょっと、やなことがあったのよ・・・・・・。」 なんででしょう、ものすごい切なげにその言葉が響いて。 ボクも少し、落ちこんだ気分になっちゃいます。 「それでね?今日ちょっと眠れそうになくて・・・今からハルカのとこ行っても、いい?」 突然、ビックリ。 でも先輩、前ボクのウチにひょっこりやってきたこともありましたけど・・・・・・。 ボクは少しうれしくて、 「はい、良いですよ。でも雪乃先輩、お父さんもお母さんも心配しないんですか?」 先輩の唐突な行動には、正直ボクも少し心配なんです・・・・・・。 そうしたら、意外な答えが。 「実はもう来ちゃった・・・」 と言います。 ボクはふとベランダの窓を見ると、パジャマ姿の先輩が小さくなってドアをコンコンと叩いていました。 うわ、ビックリ・・・。 「先輩・・・こんばんは。また、ですか?」 ボクは小声で言います。 すると雪乃先輩は少しすまなさそうに。 「いつも突然でゴメンね?」 と、可愛く言います。でも、少し目が赤いです・・・。 ボクはいつも突然来ることより、先輩が落ちこんでる方が気になって。 「・・・・・・何があったんですか?目が・・・」 と、問いかけると。 いつもの様に先輩はボクに抱きついて。 悲しそうに、そして悔しそうに言いました。 「今日クラスのヤツにね・・・『ヘンタイ』っていわれたのよぉ・・・」 でもそんなことぐらいで雪乃先輩が落ちこむなんて、ちょっとヘン。 ボクはいつものように、下に降りてこっそりジュースとコップをもって来ました。 先輩はその間、珍しく部屋漁りもせずに、じっと座っていました。 ボクはそんな先輩の様子が、気になります。 「めずらしいですね?なにも物色しないなんて・・・」 ジュースを入れながら、つぶやきます。でも先輩は、じっと黙って。 気になっちゃいます。 「先輩こういうの好きですか?」 と、オレンジジュースを入れたコップを手渡します。 「ありがと・・・」 とだけ先輩は言うと、黙ってジュースを飲み始めます。 ずっと無言で、見ているボクも押し黙ってしまって・・・・・・。 ジュースを飲み終わっても先輩はぼんやり空いたグラスを見つめたまま、じっとしているので。 ボクは見るのも辛くなってきて、思いきって先輩に抱きつきながら聞きました。 「先輩、いったい何があったんですか?黙ってちゃわかりませんよ・・・・・・」 ちょっと、恥ずかしかったけど。 すると先輩はちょっと照れながら。やっと口を開いてくれました。 「・・・ハルカ、あのね?」 2時間目が終わった後のことだそうです。 雪乃先輩はいつものように、如月先輩と雑談してたそうです。といっても、雑談と言うよりは雪乃先輩の講義みたいな感じになっちゃうみたい。 「でね、わたし思うのよね・・・あれよ、恋にルールなんてないって言ったよね?それで悟ったわ、『恋はマキャベリズム』だと」 「ハハハ、雪乃なにそれ〜」 「目的を成就するためには手段を選ばない、いかなる手段も崇高な目的の前には正当化される、って言う。元々はマキャベリが国家統治論を説く時に言った言葉の曲解なんだけどね・・・」 「むずかしいこと言うのねー・・・」 なんて、先輩の一方的なご高説と相成ったわけだそうです。ボクにもわかりません。 「あぁアレか、バーリ・トゥードみたいな?」 「・・・?」 「ルール無用!」 「そうそう、そんな感じかな・・・でもハルカを前には、そんなことどうでも良くって・・・」 なんて楽しく(?)会話(??)していると。 突然、並んで会話していた、雪乃先輩たちとは特に親しくもない、六条先輩のグループでもない女の子たちの一群が向かってくるなり、先輩に言うでもなく、けれどはっきり聞こえるように、こう言ったんだそうです。 「彼氏に女装させるなんて、相当のヘンタイよねー」 雪乃先輩は相当カチンと来たらしいのですが、面と向かって言われたわけでもないから論破するなんてことも出来ず(普通はそんなことしないと思うのですが・・・)、なにも言い返せないままで、一人悶々としていたんだそうです。 如月先輩は、 「雪乃、あんなヤツらの言うことなんて気にすることないって」 と言ってくれたそうなんですが、雪乃先輩は 「だって、アイツらハルカのことまでバカにしてたから・・・」 と、しょげてたんだそうです。 「ボクのこと、なんて言ってたんですか?その人たち」 ボクは自分のことでもあるし、ちょっと気になって聞きました。 すると雪乃先輩は、本当にいまいましそうに、悔しそうに、顔を歪めて言いました。 本当に、そんな雪乃先輩の様子は見たことがなくて、ちょっと怖かった。 「アイツら、『女々しいよね、アイツオカマみたい』だの、『本当にアレついてんの?』とか、『もうね、理解できないよねー』だの言いたい放題・・・いい加減あったま来ちゃって、それで・・・」 後半は、涙声でした。 ボクは言われなれてるから、気にも留めない台詞なんですが。 「だって大好きなハルカのことそこまで言われてさ、もう我慢できないじゃない・・・・・・」 というなり、先輩はボクを強く抱きしめて、そのまま黙ってしまいました。 ボクは、よしよし、と小さな子供にするように雪乃先輩の背中をやさしく叩きました。 先輩は黙っていたようだけど、少し泣いていたようで。 ボクは、先輩のその様子が、悔しかった。 「ねぇ、ハルカ、今夜泊まっても、いいかな?」 先輩は突然、切ない声で言いました。 ・・・うれしかったけど、明日も学校だし、それに・・・ボクのウチに泊まるのはさすがに、いろいろマズイ気がしたから。 「先輩・・・ダメですよ?明日学校じゃないですか・・・・・・」 すると、先輩は悲しそうな声で。 「そっか・・・そうだよね、迷惑、だよね・・・」 といって、顔を伏せてしまって。 「・・・・・・いつも迷惑ばっかかけて、ゴメンね?」 ・・・・・・迷惑とか、そういうつもりじゃ、ないんです。 だから、先輩には元気出して欲しくて・・・どうすればいいか、わからないんですけど。 だから、ボクの方からぎゅっとして。 「そうじゃないですよ・・・でも、やっぱウチに泊まるのはダメです・・・・・・どうしたら、いいですか?どうしたら、さみしくないですか?」 ボクも困っちゃって。だって先輩、今のままウチに帰ってもどうしようもなさそうだったから。 先輩は悲しそうな目でボクを見つめるんです。 それで、こう言いました。 「じゃあ3時まで、このままで・・・」 先輩は黙って、うなずきました。 本当は、ボクもずっとこうしていたかったんですけど。 でも、そんなことしたら、ボクの方がどうにかなってしまいそうで・・・・・・。 結局、3時までずっとこのまんま。 先輩はやっぱり少し悲しそうだったけど、でも穏やかな表情でした。 それで、ずっと黙っていて。 ときどき、ボクの方が、泣いちゃいました・・・・・・。 こんなボクで、ごめんね。 「ん、時間だ」 突然、先輩は普段の口調で言いました。 少しだけ、調子が戻ったのかな? 「ゴメンね、付き合わせちゃって・・・・・・。そうだ、ハルカの毛布、借りていい?」 先輩はヘンなことを言います。 「いいですけど・・・どうしてですか?」 先輩はまた少しだけ気弱になって、言います。 「だって・・・コレなら、ハルカと一緒にいられる気がするじゃない。ダメ?」 また潤んだような瞳でじっと見つめられちゃうから。 ボクは、うなずくしかなかった。 そして先輩はボクの毛布に包まると、ベランダに出て、 「バイバイ♪」 と、小さく手を振りながら明るく去っていきました。 残されたボクは、少しさみしくて。 泊まっちゃダメって言ったこと、少しだけ後悔しちゃいました。 翌朝。 少しだけ、雪乃先輩のことが心配だったのですが、いつも通りに挨拶してくれて、ちょっとだけ安心して。 「ハルカ、昨日はありがと。今日はもう、大丈夫だから」 と、小さくガッツポーズ。 けれど、その大胆不敵な笑顔は、何か企んでるようでもあって、逆にちょっとだけ心配でした・・・・・・。 お昼休みの屋上。 ボクは仁科君とお昼ご飯。 「お前、食べる量すくねーな・・・おっきくなれないぜ?」 「いいの!後はお菓子で補うもん・・・」 「お前なー・・・」 なんて話してると、先輩たちが来ました。 「あ、ハルカー」 と、ボクを見かけるなり雪乃先輩は、仁科君をすっ飛ばすようにしてボクの隣に付きました。 「ウフフ♪」 と、妙にうれしそう。 逆に如月先輩は、少し顔が赤いです。 「・・・・・・何があったんですか?」 ボクは二人のヘンな様子に、思わず聞きました。 仁科君は憮然としています。 「まぁ、取りあえずカタつけてきた」 「雪乃・・・怖いよ・・・・・・」 ・・・・・・いったい何をしたのか、ものすごく気になります。 如月先輩が、一切を説明してくれました。 「あ、ヘンタイ」 と、あの昨日の人たちが言ったそうです。 けれど先輩はニヤニヤしながら、その様子を見ていたそうです。 相手は少し、ビビっていたそうなんですが・・・・・・。 授業が始まるなり、その人たちはうるさくおしゃべりしていたそうです。 なんでも、先生が注意しても全然聞かない、たちの悪い人たちなんだそうですが。 雪乃先輩はとっさに、こう言ったそうです。 「先生、後ろの人たちがうるさくて勉強に集中できません」 その時間の先生は、とっても厳しい熱血型の人だったそうで、その人たちに大声で怒鳴って注意したんだそうです。 でも雪乃先輩は、平然とノートをとっていたんだそうです。横目で笑いながら・・・・・・。 授業が終わると、案の定うるさかった人たちが絡んできたそうです。 ちょうどそのとき、雪乃先輩は六条先輩たちとおしゃべりしていたと言うことです。 「ちょっと堀江さん、さっきはよくも大恥かかせてくれたわね!?」 ものすごい剣幕だったそうですが、先輩は平然と切り返したそうです。 「あなた達、いつも凄い迷惑なんですけど♪」 なぜかものすごい嬉々とした表情で、 「まぁ少しくらい静かにしてくれたら、こっちとしても助かるんですけどねー」 と、相手の神経を逆撫でするように言ったそうです。 さすがに如月先輩は 「ちょっと雪乃、止めなよ・・・」 と、止めようとしたそうです。でも、相手の人たちは案の定頭に来てしまって、 「大体アンタ目ざわりなのよ!」 とまで、いいます。 すると雪乃先輩は、とっさに真顔になって言いました。 「あなた達がおもしろ半分で学校のパソコンにwinny仕込んだこと、先生に言って良い?」 ・・・・・・これには相手も如月先輩も、驚いたそうです。 ものすごい観察力・・・・・・。 「winnyなんて、犯罪だもんねー・・・ただじゃ済まないわよ?あぁそれとも、あなた達が普段お友達の悪口言いまくってることことごとくばらしちゃう方がマシ?」 するとなぜか六条先輩も一緒になって。 「まったく冗談じゃないですわ!?散々私のことなんてバカにし腐ってくださったそうじゃない?ふざけるのもいい加減にしたほうがよろしくてよ?」 ・・・こう言うときばかりは、とっても仲が良いんだそうです、雪乃先輩と六条先輩。 すると相手は攻撃材料がなくなったのか、今度は面と向かって、 「だ、だってアンタだってガキみたいな後輩と付きあってその彼氏に女装させてるヘンタイじゃない!!」 と、大声で言ったそうですが、今回は先輩は余裕で 「それの何が悪いの?」 と、今度はニヤニヤしながら言ったそうです。 「第一人の趣味にとやかく言われるすじあいはないわ?」 「そうですわ?それに引き換えあなた達の雑談にはワタクシも本当に辟易してましてよ?どうやったらそんなに面の皮分厚くなれるのかしら、今度ワタクシに教えてくださる?」 そのあとも、雪乃先輩と六条先輩の攻撃は際限なく続いて、それはもう恐ろしかったそうです。 「あら、時間だわ・・・」 と、六条先輩はチャイムがなるなり自分の席に戻ります。けれど相手連中は雪乃先輩の席でギャアギャア言ってたそうです。 雪乃先輩は黙っていて、今度は一方的に相手が言う格好になっていた、ということです。 すると先生が入ってきて、 「コラ!おまえら何やってんだ!休み時間はとっくに終わってるだろう!!」 と、怒鳴ったんだそうです。 すると今度は相手が良い子ちゃんぶって、 「だって堀江さんが私たちの悪口を・・・」 しかし雪乃先輩は押し黙っています。 すると今度は六条先輩がすっと立ちあがって、 「先生!さっきまでその人たちが一方的に堀江さんの悪口を言っていましたわ?」 六条先輩の友達も、当然休み時間中のことは言いません。 如月先輩は怖かったから黙ってたそうです。 当然、そのほか周りの人たちも口をつむいで。 実際は雪乃先輩が相当やり返したのですが、すっかり相手が悪者に。 「おまえらいつもいつも授業中減らず口ばかり・・・廊下に立ってろ!!」 もう、雪乃先輩に『ヘンタイ』と言った連中は立つ瀬がなかったらしいです・・・・・・。 「まぁ、日ごろの行いが悪かったのね・・・」 雪乃先輩はテトラパックの牛乳を飲みながら、平然と言いました。 「せ、先輩・・・・・・」 ボクはやっぱり先輩のことが心配で、でも先輩はボクの頭を撫でて。 「だってキミの悪口言われたんだもの・・・黙ってらんないじゃない」 「でも雪乃、アレはやりすぎ・・・」 すると雪乃先輩は、得意げになって言います。 「人の恋路を邪魔するヤツは、いかなる手段を持ってしても叩き潰す!!どうかなぁ・・・」 どうかなぁ、って、言われても・・・・・・。 ボクは、苦笑いしました。 傍らの仁科君、ポツリ。 「女って・・・・・・こええ・・・・・・」 「あ、そうだハルカぁ、今日は新作を持ってきたんだけど・・・・・・」 先輩は気にせず、ボクに言います。 「え・・・新作って、なんですか?」 ボクはちょっと、ビビリます。 雪乃先輩は嬉々として、 「ブリジットのコスチューム☆」 ・・・・・・あの、ヨーヨー持った、女の子にしか見えない(女性として育てられたんだそうです・・・・・・)男の子の、ですか!? 「雪乃、最近コスプレばっか・・・・・・」 如月先輩も、呆れ顔。 「だって、普通の格好飽きてきちゃったんだもん・・・」 先輩はかわいらしく、口をすぼめました。 仁科君は・・・・・・。 「まぁ、可愛ければ良いや・・・・・・」 に、仁科君!? 64. ・・・目覚めたのは、夢の中? ふと、目が醒めてしまいました。 薄明かりが、やさしくボクの瞳を照らします。 ぼんやりしながら時計を見ると、まだ午前4時。 たまには、と思ってベランダに出ます。 早朝特有の穏やかな空気と鳥のさえずり。 気持ち良いな・・・と、風に当たっていると、眼下の道路に人影が。 ベランダの柵に身を乗りだしてみると、雪乃先輩が。 「おーい、ハルカ〜」 なんて、手を振っています。 ボクはいても立ってもいられなくなって、パジャマのまま、サンダルを引っ掛けて下に降ります。 雪乃先輩も、パジャマでした。 「あらハルカ、珍しいわね・・・わたし時々、この時間にお散歩してるんだ♪」 先輩は意外なうれしさで、ボクを見ています。 ボクも、ぼんやりしながらだけど、すごくうれしくて。 すると突然、先輩はボクにキスを。 あんまり突然だったので、眠気もふっ飛んじゃって、変わりに顔が熱くなってきます。 「ぷはっ!せんぱぁい・・・」 ボクは、照れくさくって。 「お目覚めのキスでーす☆」 ホント、先輩ってマイペースなんですから・・・・・・。 先輩とボクは、早朝のもやのなかを並んで歩きます。 なんだか、少し夢の中のよう。 「・・・ねぇ、ハルカはよくこの時間にも起きるの?」 先輩は笑顔でたずねます。 ボクはなんだか気恥ずかしくって、 「えっと・・・この時間は、初めて・・・ですね」 なんて、うつむきながら言っちゃって。 すると先輩、ボクに抱きついて。 「・・・ハルカ、良い匂いするね・・・・・・」 ・・・・・・うわぁ、ものすごい照れる。 それに、ボクに抱きついた先輩、やっぱり良い匂いで・・・・・・。 また、ドキドキ。 ふと、ボクたちの目の前を一匹のねこが通りすぎました。 「あら、ねこ・・・」 そのコは、見覚えのある。前一人で土手に行った時の、つがいの一方の黒いねこ。 「あ、キミ・・・」 と、思わず声をかけると。 「にゃぁ〜ん♪」 と、返してくれます。 ボクのこと、覚えてたのかな? そしてねこは、先輩とボクの前に来て、まるで先導するようにしっぽをピン、と立てながら歩きます。 「へぇ〜・・・遙クン、あのコとお知り合い?」 先輩は無邪気な笑顔で聞きます。 ボクは、 「うん・・・ちょっと、ね」 とだけ、言いました。 「・・・・・・あのコ、わたしたちを案内してるのかしら?」 先輩はわくわくした口調で。 好奇心まるだしの、無邪気な視線。 「・・・多分、そうかな?」 ボクたちは顔を向き合わせると、そのコに付いていくことにしました。 ねこの行く道は、住宅街を通りぬけ、ちょっとした林のようなところへ。 「へぇ・・・近くにこんなところがあったのねぇ?意外・・・」 先輩は目を閉じて、林の綺麗な空気を吸って、言います。 ボクも同じように、深呼吸。 いつもと違う雰囲気。 林の中は静かで、ボクたちの歩くがさがさという足音だけが響きます。 草で足をくすぐられるのもおかまい無しに。 先導する黒ねこも得意げで。 やがて林を抜けると、あの川の流れの土手に出ました。 果たして、そこには恋人の白いねこが。 「あら、つがいなのね?」 目を輝かせる先輩。 「ちがいますよ、恋人同士・・・ボクたちと、おんなじ」 あんまりに人間くさい仕草を見せたので、ちょっと訂正。 「恋人同士」という言葉に、雪乃先輩はちょっと照れて。 「・・・そっか」 と、うなずきます。 恋人同士のねこたちは、ボクたちに挨拶するように一鳴き。 「にゃぁ〜ん♪」 「にゃん♪にゃぁ〜ん☆」 すると、先輩はお辞儀をして、自己紹介。 「おはよう、わたしは遙クンの恋人の堀江雪乃。あなた達は?」 ねこたちは、まるで自己紹介を返すように、鳴きました。 「うふふ、よろしくね?」 ボクたちは、近づくでなく、けれど離れてしまうでもなく、微妙な距離でねこたちを見ています。 すると、ねこたちは仲むつまじくじゃれ始めました。 「アハハ、かわいい〜」 先輩は目をきらきらさせて、言います。 そんな雪乃先輩を見て、ボクもわくわくして。 あんまりそのじゃれてる様子が可愛かったから、ボクは真似するように先輩にそっと寄って。 「あ、ハルカねこの真似?」 と言うなり、雪乃先輩はボクに飛びついて! それからボクたちは、ねこたちのように追いかけっこしたり、くっつきあったり、じゃれるようにして遊んでました。 すると突然、鳥たちが林からざわざわっ、と飛び立ちます。 「うわぁ・・・すごぉい・・・」 雪乃先輩はまるで子供に戻ったように、じっと鳥の群れを見ています。 ボクも、寄り添って。 すると、ねこたちの方からか細い鳴き声が。 「あ、ハルカ、こねこだ!」 ボクも振りかえると。 それは、あの恋人たちの、愛の結晶らしかった。 「あら・・・かわいいね・・・」 先輩は少し感激したように。 ボクはといえば、こねこをぎゅっと抱きしめたいような気持ちになって。 「うわ、ハルカ!?」 先輩に、ぎゅっ!! やがて恋人同士のねこたちは、子供を連れて朝ご飯を探しに出るようでした。 その後ろ姿に、ボクたちも手を振ると。 ねこたちも、答えるようにしっぽを振って、悠然と歩いていきました。 「・・・面白かったね、ハルカ」 先輩は子供のように、ボクに抱きつきながら言います。 ボクは少し照れながら、うなずいて。 なんだか幸せな、朝の風景。 「・・・・・・あれ?」 先輩が不意に、すっとんきょうな声を出しました。 「どうしたんですか、先輩?」 ボクは気になって聞いてみると。 「あ・・・・・・帰り道、わかんなくなっちゃったね・・・・・・」 少し心配そうな先輩。 でもボクは、にっこりと笑顔で、 「折角だから、ゆっくり帰りましょう?今日もお休みですし、それに・・・・・・」 ・・・・・・先輩と、もっとゆっくり、していたいから。 65. テストも終わって、うれしい人も悲しい人もいたりして。 それでも、結局みんな待ちわびてる夏休み! 今日は夏休み前日。 終業式を終えて、みんな屋上へ。 空は梅雨のことなんか忘れたように青くって。 けれど、暑いです・・・・・・。 「うへぇ〜、あちい・・・」 仁科君が、だれきった声で言いました。 「おい仁科ぁ・・・気合が足りねえ」 という秋山君も、すっかりへろへろ。 ただ雪乃先輩一人だけ、元気いっぱいです。 「こらこらキミたち〜!だらしないなぁ・・・もっとシャキっと!」 ・・・この暑さで参っていたのは、多分ボクです。 顔は真っ赤で、絶え間なく汗も流れて。 「せんぱぁい、ゴメンなさい・・・」 「い〜のよハルカは♪」 わ、雪乃先輩はボクに抱きついて。 うわ、熱いよぅ・・・先輩の体温も、熱くって、ボクの心臓は一層ドキドキして、クラクラ来ちゃう・・・・・・。 「あら・・・この暑いのにまた見せつけてくれるわねぇ・・・熱い熱い」 と、ちょっと呆れがおで如月先輩は言います。 確かにこれは・・・ちょっと。 ・・・雪乃先輩、ちょっと驚いて。 「うわ?ハルカ、冷たい・・・大丈夫?」 と、ボクのおでこに手を当てます。 先輩の手、やっぱり熱くって・・・。 「ん〜?わかんないなぁ・・・」 と、今度はおでこを。 ・・・せ、せんぱぁい、コレじゃ余計・・・。 「ハハハ、本当に堀江さんと井上君は仲の良いカップルだね・・・」 と、大鳥先輩はさわやかに笑います。 すると如月先輩、反応して。 「大鳥君、ちょっと聞いてよ・・・このまえ、この二人ったら・・・・・・」 !? うわ、ちょっと言われると恥ずかしいこと、いっぱいあって・・・!? 「如月先輩、やめてくださぁい・・・」 ボクは顔を真っ赤にしてうつむきながら、言いました。 でも、雪乃先輩は不敵な笑いで。 「いいのよ、どうせなら私とハルカの仲見せつけちゃえば良いの!」 ・・・・・・先輩ってば、いつもこうなんだから。ハァ・・・。 「アレ、お嬢様とぬいぐるみのコは?」 仁科君が思いだしたように言います。 それに、如月先輩が答えて曰く。 「・・・六条さんと三国ちゃん、嬉々として一緒に帰って行ったわよ?どうかしたの?」 すると仁科君は顔を赤くして・・・・・・。 「いやさぁ、あの二人が遙の服作るって聞いたもんだからさぁ・・・・・・どうなるんかなぁと思って。ちょっと、楽しみなんだよね・・・・・・」 え、仁科君・・・・・・。 「・・・・・・え、仁科君も女装したいの?」 と、如月先輩はいぶかしげに聞きます。 「ち、違いますよ!」 と、仁科君は慌てて否定。 ・・・と、言うことは? 「だって仁科、ハードげ・・・」 「先輩、それはちがいますよぉ・・・・・・」 ボクはちょっと呆れて、仁科君をフォロー。 ・・・・・・違うよねぇ? 放課後は別れて、先輩とボクはクレープ販売に入ります。 といっても、今日は3時まで。 「3時半から、例の予定立てなきゃだからな?」 と、マスターも嬉々として言いました。 なんでも、マスターの古くからの知りあいで、料理がとっても上手い人の経営するホテルなんだそうです。 「アイツの作るビーフシチューは絶品なんだよなぁ・・・・・・」 保護者としてマスターも同行。でも、一番楽しみにしているのはお友達のマスターかもしれません。 そしてなんだか仕事も手に付かないまま、お客さんも来ないうちに3時を回り、撤収。 「あ〜ぁ、残念・・・折角ハルカ、新しい制服だったのにねぇ・・・?」 「こんどの服装は、スカートしかないんですか!?」 「だって夏服だし・・・・・・それに、わざわざズボン作る必要ないじゃない?わたしとハルカだけだし」 「先輩!ボクは男の子ですよ!?」 「うん」 ・・・・・・せんぱぁい、コレはちょっと・・・・・・。 スカートの丈も、短すぎるし・・・・・・。せめて、半ズボンくらいで・・・。 少し片付けに手間取って4時過ぎにマスターの喫茶店に到着。 「ごめーん、待った?」 雪乃先輩の明るい挨拶に、 「堀江さぁん、遅いッスよ・・・オレなんてもうクレープ2枚食っちゃった」 と、仁科君が軽く悪態を。 「・・・ハルカだったら、きっと10枚は食べてるわね・・・・・・」 「え、10枚!?」 驚愕の表情の仁科君・・・。 ・・・・・・食べすぎでしょうか・・・・・・。 そしてボクたちも席に付いて、みんなでプランを練ります。 でもなかなか都合もあったりして。 「それにワタクシたち、遙さんの服も作らなきゃじゃないですの・・・」 「うん・・・まだ、デザインがね?出来たばっかりなの・・・でも遙ちゃん、きっと、似合うから・・・・・・」 ・・・・・・六条先輩と三国さんのコンビ、やっぱり怖い・・・・・・。 「なに作ってんの?」 仁科君が目を輝かせながら聞きます・・・。 「えっとねぇ・・・」 「ゴシックロリータを基調としたエレガント且つ大胆なデザインですわ?」 「アクセントは・・・うさぎちゃん・・・です」 ・・・・・・。男の着る服という意識はまったくないし・・・・・・。 すると雪乃先輩まで目を輝かせちゃって・・・・・・。 「あら・・・期待してるわ?」 しかし、不敵な笑み・・・先輩も何か、作ってるのかなぁ・・・・・・作ってるんだろうなぁ・・・・・・ボクに内緒で。 「雪乃さん!?今度は負けなくってよ!?」 「あらあら?そもそもハルカのかわいさに目を付けたのはこのわたしよ?勝てると思ってるのかしら・・・」 六条先輩と雪乃先輩の間に激しい火花が・・・・・・。 それを目を輝かせながら見守る、仁科君と三国さん、それに如月先輩まで!? 大鳥先輩をチラッと見ると・・・・・・。 「俺も、期待してるから」 その様子を冷ややかに見ていた秋山君も、ぽつり。 「こういうの、悪くねえなぁ・・・・・・」 ・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!? ボクの気持ちなんて、みんなおかまいなしなんですねぇ!!? 「おう、遙チャン!俺も期待してッからな!!頑張れよ!!」 ・・・・・・うわ、マスターも。表情が生き生きしてます・・・・・・。 ボクの周り、(ある意味)敵ばっか・・・です。はぅっ。 「ボ、ボクは皆さんの、着せ替え人形じゃないんですからねッ!!?うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」 66. あの・・・ボクってそんなに、女の子に見えるのでしょうか? うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん、困りますよぉ・・・・・・。 今日は先輩の家で、前に作ったブリジットと言う女の子・・・にしか見えない男の子の服装を着させられて。 「先輩・・・これはやっぱり、恥ずかしいですよぅ・・・・・・」 「そんなことないってば、とっても可愛いよ?」 雪乃先輩は満面の笑みで言うと、またボクに抱きついて。 「うわ・・・この格好だと、一層華奢だぁ・・・・・・かわいい♪」 なんて、頬ずりまでしちゃって!! ボクもう、クラクラです・・・・・・。 たまにはこう言うのも、いいんですけど・・・・・・やっぱ、ヘンですよね? 「そういえば、先輩はこういう格好しないんですか?」 つねづね、気になってました。 だって先輩ってば、いつもボクにばっかりこんな格好させて!! ・・・ボクだって、先輩のいろんな格好が、見てみたいのですが・・・・・・。 後ろから抱き付かれたまま、ボクは聞いてみました。 「雪乃先輩?どうしてボクばっかり、こういう格好なんですか?」 すると、先輩は真っ赤な顔をして、言いました。 「だって・・・・・・ハルカ、かわいいんだもん・・・」 と言って、ほっぺにちゅっ。 その様子があんまり可愛くて、ボクは・・・・・・。 「だ、だって先輩だって、か、可愛いし、綺麗だし、それに・・・それにぃ・・・・・・」 すっかり照れて真っ赤な顔しながら、やっとこさ。 すると先輩は、なぜかボクの足を撫でながら、言うんです・・・・・・。 うあ、それはぁ・・・さすがに恥ずかし過ぎますよぉ? 「だってハルカこんなに足も綺麗だしさぁ・・・・・・もっといろんな格好させたくなっちゃうのよぉ・・・」 なんて、デレデレしながら。 でも、答えになってませんよね? 「先輩、だからぁ・・・・・・」 「だって、わたしじゃ似合わないんだもーん☆」 ちっちゃなコみたいな顔しながら、言うんです・・・・・・。 それで、もっとボクのこと、ぎゅっとして。 「ハルカを可愛いカッコさせるので、精一杯。わたしのことまで、気が回んないよ・・・・・・?」 なんて、少し悩ましげに言うもんだから。 ボクは、少し言葉に詰まっちゃったんだけど・・・・・・。 「じゃあ先輩!ボクのために、もっと可愛いカッコしてください!!そうしたら、ボク・・・・・・」 翌日。 また、先輩からのお呼び出しの電話で、目が醒めました。 急いで女子の制服に着替えて(決まり事なんです・・・はぅっ)先輩の家に掛けつけると、玄関でにこにこしながら待っていました。 ボクは、わくわくして。 「先輩!どんなカッコするんですか?」 真っ赤な顔で、大声で聞いちゃいました。 すると先輩はボクを抱きしめながら頭を撫でて、 「まぁ、見てのお楽しみ☆」 ・・・・・・抱きしめられたのと、先輩の格好への期待で、胸がドキドキ、痛いくらい。 「ちょっとまってー」 雪乃先輩の無邪気な声。 ボクは、部屋の前でドキドキしながら待ちます。 ・・・・・・今、この部屋の中で、雪乃先輩着替えてるんですよね・・・・・・?うわ、ドキドキする・・・・・・ダメだダメだ、こんなこと考えてちゃ!! ・・・先輩、ゴメンなさい・・・・・・。 すると、先輩がからかい半分な明るい声で、 「ハルカー、今おねーさんが着替えてるからドキドキしてるでしょー」 ・・・・・・雪乃先輩の、イジワル!! 「ちょっとま・・・うあ、結構着付けムズカシイなぁ・・・・・・」 ・・・・・・和服? 「おまたせぇ〜」 というノンキな声と共に、ドアがガチャリ。 期待に胸膨らませると・・・・・・。 ドアの向こうから出てきたのは、黄色いモコモコ頭。 そして、男物の和服・・・・・・。 こ、コレは!? 「しょ、正山先生!!?」 ・・・今各方面で話題の料理評論家、金原正山先生その人でした・・・・・・。 「どぉ?ハルカ、このモコモコ可愛いでしょー?ほれほれ」 ・・・・・・正直、がっくし・・・。正山先生、ゴメンなさい。でもボク、先輩には違う感じのを期待してたんです!! 「・・・せ、せんぱぁい!なんで男の人の格好なんですか!?」 「あら・・・モコモコ、お気に召さなかった?」 「違いますよぉ!だって、ボクがツィーラン君だったら先輩はチャンポねーさんとか、他にもいろいろあったじゃないですか!!」 すると先輩は少し不機嫌な顔で。 「え〜、だってわたしにはチャンポの格好はにあわなさそうだし・・・・・・」 でもそんな顔しても、ボクは負けませんからね!今回は・・・・・・。 「そういう意味じゃなくって、なんで可愛い女の子の格好とか考えなかったんですか!?」 もう、顔を真っ赤にしながらムキになって言います。 けれど、先輩は・・・・・・。 「あ、ムキになっちゃって・・・ハルカってば可愛い〜♪」 ・・・・・・聞く耳を持ってくれません。 そして、先輩は、 「あぁもうハルカってば、機嫌直して・・・・・・」 といって部屋を出るなり、 「あっ!?」 裾をふんずけちゃって・・・・・・。 あのモコモコが、宙に飛んでいきます。 それで、ちょうど胸元がはだけて・・・って、先輩下着付けてなかったんですか!? で、倒れこんできて、ちょうどボクの顔にせ、先輩の胸がぁぁぁぁぁぁぁ。 ・・・・・・はぅっ、やわらかい、ですぅぅ・・・・・・。クラクラぁ。 「あ、ハルカ・・・大丈夫?」 ちょうど押し倒されちゃった格好で、ものすごくマズイ気がするんですけど・・・・・・。 先輩は、まずボクのことを気遣ってくれて。 ボクは、もうクラクラしちゃって、やっと一言。 「む・・・胸・・・・・・」 すると先輩は赤い顔してさっと隠しながら、 「・・・ど、どうだった?」 なんて聞くものだから、ボクはもう、答えられなくって、それで、それで・・・・・・。 「はぅぅぅぅぅぅぅ」 と、鼻血を出してぐったり。 その様子を見るなり、先輩は自分のカッコも気にせず、 「あぁ、ハルカ・・・ハルカ大丈夫!?ねぇ・・・」 なんて、抱き寄せちゃって・・・・・・。 あ、また胸がぁ。 もう、限界でした・・・・・・。 ・・・・・・うぁ。 気が付くと、ボクは雪乃先輩のベッドの上で、横になってました。 おでこの上には、濡れたタオル。 そして隣には、ちょこんと正座した先輩が。 とっても済まなさそうに・・・・・・。 「ハルカぁ・・・・・・ゴメンね・・・?」 ボクは一瞬、なんのことかわからなかったけど。 「、大丈夫ですよもう・・・。ボク、いきなりの事で気が動転しちゃって・・・・・・」 だって、せ、先輩の・・・・・・見ちゃったんだもん。 ゴメンなさい、正山先生感謝してます・・・こんなボクでゴメンなさい、先輩・・・・・・。 でも先輩は、一層心配そうな表情で。 「ホントに、ほんっとうに大丈夫?」 あんまり心配そうな表情だったから。 ボクはベッドから勢い良く立ちあがって、 「もう大丈夫ですよ☆」 なんて言っちゃって、それで雪乃先輩の事、ぎゅっとして。 「んもう・・・ハルカってば・・・」 と、先輩は目を閉じてボクの事ぎゅっとしました。 あぁもう、先輩を心配させちゃって、自分の事イヤになっちゃう・・・いつもの事なんだけど。 すると先輩、耳元で。 「ねえハルカ・・・・・・わたしのおっぱい、どうだったかなぁ?」 ・・・・・・!!? 「大きさは、その・・・ちっちゃいと思うんだけど、でも形には割と自信があったんだけど・・・・・・」 うわぁぁ!!そんな事、言えるわけないじゃないですか!! ボクはもう、押し黙っちゃって、またぱたりと。 「あぁ!ハルカ、大丈夫?しっかり!!」 なんかまた慌ただしくって、それでお互い少し落ちついてから・・・・・・。 何故か二人とも、まっ正面に向きあいながら正座して。 「・・・・・・、やり過ぎました」 「ボクも、さっきは言いすぎちゃいました・・・・・・ゴメンなさい」 二人して、頭を下げて。 ちょっとヘンテコで、照れくさかった。 「・・・今度は、ハルカにはジェロニモ・ジャコモッティの服、作るから・・・・・・」 と、先輩は何故か申し訳なさそうに言います。 「え?」 「だってハルカ、たまにはカッコイイのが良いって言ってたじゃない・・・・・・」 確かに、イタリア料理の若き昇り龍、とっても格好良いですけど・・・・・・。 「まぁ、今度のお泊りのときまでには間に合わせるつもりだから!期待してね♪」 と、雪乃先輩はお茶目にウインクして言いました。 なんだか少し調子が戻ったみたいで、ボクもうれしかったです。 そして、先輩は。 「・・・・・・でも、やっぱハルカには可愛いのが・・・・・・」 なんて、つぶやいて。 「あ、先輩!先輩はどうするんですか?」 「なに?どうするって・・・」 「今度こそ可愛い格好、先輩にもしてもらいますからね?」 たまには、こういうふうに言っておかなきゃ・・・ね? 「じゃあマリーゴールドちゃんかしら・・・似合うかなぁ・・・」 ちょっと意外な、先輩の困り顔。 でもボクは、にっこり笑って。 「大丈夫ですよ、先輩かわいいのきっと似合いますよ☆」 そしたら雪乃先輩、ものすごく顔を赤くして、照れちゃって・・・!! 「そうかな・・・?じゃあ、あんまり期待しないで、待ってて?」 ・・・・・・もう、期待しすぎて死んじゃいそう!!あ、あんまりこういう事、言うものじゃないのかな? 「・・・・・・でもねぇ?やっぱ遙クンには可愛い格好が似合うので、マリーゴールドの服はハルカの分も、っと・・・・・・」 67. 夏休みも、テストも前の、屋上での一コマです。 「なぁ、遙・・・」 仁科君が、ふと聞きます。 「ん?なぁに?」 ボクは何気なく、聞き返します。 しかし、仁科君の表情は深刻です。 「遙・・・あのさぁ、それは・・・・・・」 ボクの膝に広げたお昼ご飯をさして。 「いっくらなんでも、そりゃ太るだろ・・・・・・」 「え?そんな事ないよ?いっぱい食べて、おっきくならなきゃね!」 「いや・・・お前の場合、大きくなる必要はない気がする・・・・・・」 仁科君、不思議なこと言うなぁ・・・・・・。 「えぇ!?じゃあ、ボクに成長するなって!?」 ボクはちょっと怒って、言います。 でも仁科君は平然と。 「いやさぁ?だって堀江先輩、今のままのお前が気に入ってるみたいだし・・・無理に背伸びしようとする事ねんじゃね?」 あ・・・そっか。 妙に、納得しました。 そして、ボクは二つ目の小倉アンパンを開け、かぶりつきます。 それにしても仁科君のお弁当、大きい・・・・・・。 「仁科君、良くそんなに食べられるねぇ・・・・・・?」 「ん・・・そっかぁ?こんくらい、普通だって」 仁科君は、ボクの言葉に不思議そうに答えます。 「オレはお前のそれのが気になるよ・・・・・・」 ・・・なにが気になるんだろ? ボクは気にせずアンパンを平らげ、二つ目のパック牛乳と、3個目になるイチゴシューロールを開けます。 「・・・お前さぁ、マジで・・・」 「ん?」 「太るぞ」 マジな顔で、脅す仁科君。 でも、ボク太りもしなくって、おっきくもならないんですけどねぇ? 「そんな事ないってばぁ」 というと、ボクは今度は4つ目のコッペパンを開けて。 「・・・・・・イチゴ、好きなんだな」 コッペパンには、イチゴジャムが挟んであるから。 「うん、甘酸っぱくて大好きだよ?」 ボクは、仁科君のお弁当箱を、ちらり。 なんと、三段がさね。 「仁科君、本当に良く食べるねぇ・・・・・・」 仁科君のお弁当箱は、一段目がおかず、それも肉ばっかり。そして二段目、三段目はのり弁。 もう、二段目のご飯は平らげて、三段目のご飯も半分食べて。当然、一段目のおかずはもうありません。 「・・・肉ばっかりで胃、もたれない?」 ボクは少し心配になって、聞きました。 「・・・オレはお前のが心配だよ・・・だって、今いくつ目?」 「え?6個目」 ミルクレープを、くわえて言いました。 「・・・お前さぁ、そのちっちゃい身体のどこにそんな入るの?」 あぁ!?ちっちゃいって言われた・・・・・・。 「仁科君、あんまり人の気にしてる事言うもんじゃないよぉ?」 「・・・あ、わりい」 といって、仁科君はまたのり弁にがっつきます。 ホンット、仁科君は大食い!! 「・・・・・・結局甘い菓子パンばっか8個も・・・・・・ホント、遙大丈夫かなぁ・・・?」 68. いつも雪乃先輩にやられっぱなしなボクも、ときどきは仕掛けてみようと思ったり・・・・・・。 「ねぇ雪乃先輩・・・」 ボクは真剣な顔をして、聞きます。 「なに?ハルカ・・・」 ボクの深刻そうな表情のせいか、雪乃先輩は意外そうな表情で聞き返します。 ボクは、先輩の目を覗きこむようにしながら、聞きました。 「先輩・・・・・・もしもボクが雪乃先輩を好きじゃなくなっちゃったら、どうしますか?」 先輩は、一瞬驚いた表情で目を見開くと、すぐにその目が悲しそうに潤んでしまって・・・・・・。 「・・・・・・イヤだよっ」 と、とっさにボクをぎゅっと抱きしめるんです。 「絶対にイヤ・・・どんな事しても離さない。わたし多分なんだってすると思うよ?だって、イヤだもん、そんなの・・・」 ボクは、先輩の見た事ないような慌てた表情に、ビックリしてしまいました。 「・・・ねぇ、どうしたらわたしの事キライにならない?そんなの、怖い・・・・・・」 そして、先輩は泣きだしそうになってしまって・・・・・・。 雪乃先輩、ごめんなさい。 ボクの事、どのくらい好きなのか、ちょっと知りたかったんです。 そんなくだらない好奇心で、先輩をこんなに悲しませちゃったなんて・・・・・・。 「・・・イヤだなぁ、例えですよ例え!」 ボクは、ごまかすように明るく言ったけれど。 先輩は、とうとう泣きだしてしまって。 「・・・ねぇハルカ・・・・・・絶対に、わたしのことキライになんてならないよね?」 見ているボクが胸が張り裂けそうで。 だからボクは、なだめるように・・・。 「・・・大丈夫ですよぅ・・・ボ、ボク、先輩の事しか、見えないんだもん・・・・・・」 気が付くと、ボクまで泣きだしてしまって・・・・・・。 ボクの言葉を聞いて安心したのか、落ちついた様子の先輩は、ボクの頭をやさしく撫でて。 「・・・うん、うん・・・・・・わかったよ・・・わかったから、ね?」 ・・・いつの間にか、立場が逆転してしまって。 だって、涙が止まらなくなっちゃって・・・・・・。 「ボ、ボクも、先輩に嫌われちゃったら、イヤです・・・・・・」 先輩は、ひときわやさしい声で。 「大丈夫・・・・・・そんな事ない、絶対」 とだけ言って、やさしく、ぎゅっと、抱きしめてくれました。 ホントに、ちょっと出し抜こうとしただけなんですが。 やっぱりボク、先輩には勝てそうにありません・・・・・・。 69. ツンデレって、どういう意味なんでしょうか?よくわかりません・・・・・・。 明日香と雪乃は、めずらしくスターバックスで一休みしていた。 ふと、明日香が雪乃を見て。 「・・・最近さー、雪乃って丸くなったよねー・・・・・・」 その言葉に雪乃はドキッとした表情で、 「えぇ!?わたし太った!?」 と、飛びあがったように言う。 「違うわよ・・・性格」 と、明日香はめずらしい雪乃の動転した様子にニヤニヤしながら、つぶやく。 「え?わたし、性格変わった?」 「変わったって言うか・・・・・・その、角が取れたって言うか」 と、雪乃を覗きこむように。 「ほら、前は結構近寄りがたくって、いつもツンツンしてたしさ・・・でも最近、なんかうれしそうな事が多いし」 明日香は、思い起こすように言う。 「ホント、最初声をかけたときなんてちょっと怖かったしさ」 「わたしが怖いって?」 と、雪乃は明日香にくすぐりをかける。 「うわ、ちょっと・・・」 「そんな事言うからよ♪」 と、雪乃は無邪気に笑った。 その笑顔に、明日香はハッとした。 「そうそう、その笑顔」 「へ?」 雪乃は、自覚がない様子で呆然とした。 「前、そういう風に笑わなかった。笑うことあったけど、なんか挑発的というか・・・」 「そうかな」 と、考え込むように雪乃はキャラメルマキアートに口を付けた。 「アレかな、遙君と付きあい始めてからなのかな・・・・・・」 考え事をするときの顔を上げる仕草で、明日香が言う。 「ほら、前はクラスにも友達いなくって、いつも遙君と話してたじゃない?」 「まぁ、ね・・・」 「遙君ていつもにこにこしてるじゃない・・・だから、少し影響受けたんじゃないの?」 と、明日香はやさしい笑顔で雪乃に言う。 「そうかな・・・」 「絶対そうだよ、遙君と付き合ってから結構上手くいってんじゃん?」 「・・・うん、そうかも」 少し顔を赤らめて、雪乃はつぶやいた。 「うんうん、いいこった!」 明日香はかわいらしい仕草で、大きくうなずいた。 「まぁ実際、ハルカには感謝してるかな・・・いろいろ」 雪乃は、回想するように。 穏やかな表情。 「遙君の事話すとき、すごく楽しそうだもんね〜」 と、ニヤニヤ。 「え?そうかな・・・」 と、雪乃の顔が一層赤くなる。 「赤くなっちゃって・・・雪乃さんかわいい〜」 「えっえっ?」 ここまで動揺する雪乃の様子を、楽しそうに眺める明日香。 「まぁそれはともかく。友達の私としても、よかったよ・・・やっとクラスにもなじめた」 「・・・ヘンタイ呼ばわりしたアイツらだけは許さないけどね」 雪乃は、無邪気に笑って。 「でももう少し、周りに素直になっても良いかも・・・・・・」 すると遙が、目の前を通りかかる。 明日香を忘れたように、雪乃は遙の元へ一直線。 「ハルカぁ〜☆」 取り残された明日香は、呆れたようにつぶやく。 「まったく・・・まさにツンデレねぇ。遙君の事となると、すぐコレなんだからぁ・・・・・・」 小さく溜息を付くと、明日香はまた一人、コーヒーに口を付けた。 70. 時々、ネットサーフィンしたりすると良くわからない言葉が出てきて困っちゃいます。 それが行きつけのサイトだったりすると、もう・・・・・・。 「ねぇ?せんぱ〜い・・・」 放課後、たまたま解放日だったコンピュータ実習室で、先輩とボクはネットサーフィンをしていました。 「・・・やっぱブロックされるのねぇ・・・2ちゃん」 「え?」 「いやね?2ちゃんねるはやっぱはじかれるみたい・・・う〜ん、ちょっと気になるスレがあったんだけどなぁ・・・」 と、先輩は少しイライラ。 ・・・2ちゃんねるって、ボクあまり見た事ないんですけど、面白いのかなぁ・・・・・・? 「なんとかフィルタリング解除できないのかしら・・・」 先輩は一人でぶつぶつ。 ボクはヤフーのニュースに一通り目を通すと、行きつけの創作サイトにアクセスしました。 見てみると、新しくスレッドフロート型、と呼ばれるタイプの掲示板が追加されていました。 管理人の「ぽえっと☆」さん曰く、「クオリティタカスwwwwwっうぇうぇwwwww」 ・・・・・・時々、ぽえっと☆さんの言う事がわかりません。 すると、雪乃先輩がボクのモニターを覗きこみます。 「へぇ〜・・・いつの間に、2ch型BBS出来てたのねぇ・・・」 と、ボクからマウスを奪って、新しい掲示板にアクセス。 あ、ボク、昨日投稿した詩についたレスポンス確認したかったのにィ・・・・・・。 先輩、ちょっと自分勝手です。よね? 「ふぅ〜ん・・・あ!ねぇねぇハルカ、キタコレ!『Hal.たんについて語ろう』だって!」 見ると、ボクの詩に関するトピックで一つ、小さな掲示板みたいなのが立っています。 その書き込みを見ると・・・・・・。 スレッドというんですか?コレを作ったのは、管理人の「ぽえっと☆」さんでした。 「女装美少年Hal.たんの、感受性豊かでテラモエスな作品について語りましょう。」 次についたレスは、 「>>1 ちょwwwwおまwwwwHal.たんおにゃのこwwwwwwてかぽえテラキモスwwwwwっうぇうぇwwwww」 ・・・・・・なんか、もう、ワケがわかりません。 しかも、何故かヘンなレスがいっぱい・・・・・・。 「SFだったはずなのにいつの間にかメルヘン、それがHal.クオリティ」 「てかHalもっと自画像うp汁!」 ・・・・・・もう、本当に・・・・・・。 「ねぇ、先輩・・・なんて言ってるんですか?意味わかんない・・・」 ボクは少し怖くなって、聞きました。 すると先輩は、ヘンな表情で、 「・・・とりあえず、2ちゃんねるの『ニュー速VIP』に行けばわかるんだけどねー・・・ハルカにはお勧めできない」 と答えました。 ・・・VIP?何が超重要人物か、よくわかりません・・・。 「てか、VIPPER多すぎ・・・」 ・・・なんでERが付くのかも、よくわかりません。 なんだか良くわからないまま、ボクたちは学校を後にしました。 うちに帰って、まずあの新しい掲示板を見ます。 ボクのスレッドは、異様な伸びを見せています・・・。 「てかここ、Hal萌えが多すぎる件www」 「つーかVIPPER多すぎんだよwwww俺もだがwwwww」 ・・・誰も、ボクの書いた詩とかは見てくれないのかなぁ・・・。 ・・・そして、今度は雪乃先輩の言っていた「ニュー速VIP」を、見てみたのですが・・・・・・。 ・・・・・・なにコレ!? スレッド一覧を見ただけでワケがわからなくなって、ブラウザを閉じてしまいました・・・・・・。 ・・・ぽえっと☆さんは、本当にいつもこう言うところにいるのでしょうか・・・よくわかりません。 71. 雪乃先輩、何故か少し憂鬱そうで。 「ねぇハルカ・・・最近探偵かなにかにつけられてるんだけど、わたしなにかしたかなぁ・・・?」 時々先輩は、とっても不思議。 「探偵って・・・・・・」 ボクには思い当たらないけれど・・・。 遙と別れた後、道を一人歩く雪乃は、背後の気配を察していた。 「・・・またぁ?」 相手に聞こえるように言うが、背後の気配は一向に消える様子がない。 雪乃は仕方なく、気にしないふりをして家路を急いだ。 翌日。 土曜日で学校が休みのため、雪乃は普段の少ない睡眠時間を補うように惰眠をむさぼっていた。 遙の家へ早朝訪問などする事もあるが、実は雪乃は朝が非常に弱い。 ベッドの中で夢と現実の境界にいた雪乃は、玄関のベルがなったのに気が付いた。 誰か出るだろう、と思いそのままにしたが、誰も玄関に出る様子がない。 あんまりに来訪者がペルをしつこくならすので、雪乃は仕方なく、玄関へ降りた。 「・・・ハルカぁ?」 完全に寝ぼけたパジャマ姿の雪乃の目の前には、黒ずくめの大きな男が立っていた。 見たところ、明らかに探偵風。 男は雪乃をじっ、と見つめると、流暢なフランス語で聞いた。 (おはようマドモワゼル、キミが堀江雪乃さんかね?) 雪乃はしばらくぼんやりしていたが、ハッと目が醒めたように一瞬表情を変えると、男にラテン語で受け応えする。 (『お嬢さん』だなんてずいぶん失礼な言い方ですね? わたしが堀江雪乃ですが・・・どうかなさいました?) 男は少しじっと考え込んでいたが、少しイらだった雪乃に気付いて。 (あぁ、俺はちょっと人探しをしていてね・・・どうやらキミが知り合いみたいだったから、情報提供をお願いしたくてね) と、今度は古英語で言った。 雪乃はやれやれ、という仕草を見せると、仕方なく家の中に招き入れた。 「・・・あなたは、探偵ですか?」 雪乃が、つぶやくように、黒い男に聞いた。 「・・・あぁ・・・」 とだけ、男はつぶやく。 堀江家は非常に奇妙な作りになっている。 玄関から家に上がると、すぐ右手には書斎のような小さな部屋がある。 普段は鍵がかかっていて、おそらく最も来る頻度が高いであろう遙は特に気にも留めていないのだが。 その小さな部屋には、インターネット回線が引きこんであり、更に大型のエアコンが備えられ、その使用頻度には到底合わない充実したものになっている。 雪乃はその小さな書斎・・・応接間と言う事にしているらしい・・・の鍵を開け、黒い男を招き入れた。 男は軽く会釈するなり、だまってソファにドカッと座り込んだ。 雪乃は困惑していた。 少なくとも、相手は自分についてなにか知っている様子・・・であるとすると、だんまりを決め込むわけにもいかない。 とはいえ、いくら変わった趣味を持った天才的な彼女ではあるが、それ以外は普通の女子高生である。少なくとも、雪乃はそう自負している。 理由が、思いつかない。 ・・・・・・相手は、断り無く煙草に火を付けた。 もっともこの応接間、堀江家の人間が煙草を吸わないので客人が一服できるように、という意図もあって作ったものではあるが。 黒い来訪者の傍若無人さに堪えかねているのを隠すように、 「コーヒーでも、入れてきましょうか?」 と、雪乃が聞く。 男は首を振ったが、雪乃はかまわず、 「外、暑いですから・・・アイスコーヒー用意しておきますね」 と笑顔で言うなり、駆け出すように応接間を出る。 「・・・・・一体、なんだっていうのかしらね・・・」 雪乃はつぶやきながらキッチンへと向かう。 途中、居間を覗いたが、誰もいない。ちょうど、この家には雪乃しかいなかったようだ。 冷蔵庫を開け、ペットボトルのコーヒーを探しながら、考える。 黒い男は、最小限のことしか、聞いていない。 なんにしろ、彼の意図がいま一つ、つかめないのだ。 とりあえず、それとなく聞きだす事にした。 しかし、いつもの雪乃の口調ではいろいろ誤解されかねない・・・ここは一つ、かわいこぶって難しい話をシカトしておこうか? ・・・・・・ラテン語を話し、フランス語を解することが相手にばれている以上、どこまで通用するかはわからないが。 アイスコーヒーを持って戻るなり、男は口を開いた。 「・・・キミ、さっき俺がフランス語で挨拶したとき、わざわざラテン語で返したね・・・?」 雪乃はにっこりと笑って、答えた。 「わたし、中学校までキリスト教系の学校に通ってまして・・・そこで、ラテン語は。フランス語は、フランスに知りあいがいて・・・時々遊びに行っていたんですね?家族で」 男はニヤリと笑った、気がした。 「ふぅん・・・で、キミは確かに一流どころの学校に通っていたようだが・・・なんでまた、今の中堅校に通っているのかな?キミの成績ならもっとレベルの高い・・・」 雪乃にとっては、うんざりする言葉。 苛立ちを隠さず、言った。 「人の決めた事にとやかく言う資格はありません」 ・・・すると男は、 「・・・すまなかった、その通りだ」 と、意外にも素直に謝罪した。 ・・・雪乃は、どうやらいろいろな手段で男が自分の身辺調査を行っているらしい、という事実に軽い衝撃を受けていた。 (・・・これじゃ、迂闊にあれこれ出来ないわねぇ・・・?) 男は雪乃にかまわず、つぶやく。 「・・・俺も、同感だよ・・・自己決定に介入するもんではない。しかし探偵ってヤツはそれが仕事なもんでね・・・」 と、煙草をもみけしながら。 そして、ようやく本題に切りだす。 「・・・今日はアンタ自身に用事があるわけじゃない・・・人を探してるんだ、こいつを」 と、一枚の写真を見せた。 少し白人の血が入ったような、顔立ちの整った若い男。 雪乃に、似ている・・・。 「コイツが、俺たちの縄張りで一悶着起こしたらしい・・・出来れば堅気にはかかわりたくないんだが、」 と、男が言うが。 雪乃は不思議そうな表情を浮かべた。 「・・・この人知りません・・・どうかしたんですか?」 「・・・コイツはキミのいとこにあたる、『堀江牧人』という男だ・・・まぁ知らないならアレだが・・・。コイツ、ドイツで・・・」 と、黒ずくめの男が言いかけると、突然玄関のベルが鳴った。 「せんぱ〜い、おはようございます・・・」 と、澄んだ声。 「ごめんなさい、ちょっと・・・知り合いが、」 と、雪乃は席を立つ。 男は、興味深げに空いたドアから、雪乃と新たな客人の様子を見ていた。 「・・・今日はなんなんですか?まさかツィーラン君の、レオタードの方とか・・・」 「うんっとねぇ、それもなんだけど・・・ごめん、今野暮用があって・・・ちょっと、待ってね?」 「はぁい・・・」 そして、客人が空いたドアの前を通りかかる。 かなり華奢で小柄な、愛らしい印象の少女。 男は思わず、自分の娘の姿を連想した。 「・・・あの子は、友人かね?」 男がふと気になり、たずねる。 ・・・雪乃の答えは、男には衝撃的であった。 「いいえ?彼氏ですけど・・・」 ・・・・・・男には、理解しがたかった。 「・・・女の子だよね?」 「いいえ?男の子ですけど」 ・・・・・・押し黙ってしまう。 めずらしく、玄関のすぐそばのドアが空いていたんです。 雪乃先輩が戻ってくると、ヘンな表情で。 「・・・まぁた探偵。今日は堂々と来たけどねー・・・」 と、ぼやきます。 「探偵ですか・・・?」 ボクは正直、探偵なんてフィクションの世界でしかないと思ってましたから、意外で。 「なんか、わたしのいとこがマズイ事やらかしたんだって・・・っていっても、顔も知らない遠い親戚なんだけどね。ドイツに留学してたの」 ・・・雪乃先輩のうちって、なんか凄い。 「で、事もあろうにわたしの個人情報調べ上げてたのよね・・・まったく、参っちゃう」 と、少し青い顔で。 最近、怖いですからね。 「でねでね、ハルカ見て凄いヘンな顔してたよ、探偵」 今度は、先輩がニヤニヤしながら言います。 「へ?何が・・・?」 「ハルカの事わたしの彼氏って言ったら、もう・・・」 ・・・先輩、最近ボクの事紹介しては反応楽しんでるみたい。ちょっとフクザツです。 先輩が楽しければ、それでいいんですけど・・・・・・。 「それにしても、ねぇ・・・まぁ変な事って、あるものね・・・」 ・・・・・・ボクは、先輩と一緒にいてヘンなことばっかりですけどね。 たのしいから、いいんですけど。 72. 終業式が終わって、うちに帰ったあと。 両親に成績の報告を済ませて、ベランダで夕涼み。 ・・・すると突然、雪乃先輩から電話がかかって来ました。 「ねぇハルカ・・・突然なんだけど、ちょっと学校に忘れ物してきちゃった・・・だから、一緒に取りに行って欲しいのね?」 先輩が忘れ物なんてめずらしいな、と思いました。 「それで、ちょっとHG仁科と相方秋山、それにまいなちゃんを誘って欲しいのね?」 ・・・ヘン、ですよね?だって、忘れ物取りに行くのに、どうしてみんな呼ぶんだろ・・・。 「わたしも明日香と薫子ちゃんと大鳥君呼ぶから。6時集合、制服でね☆」 ・・・・・・なんでしょう、夏休みの学校できもだめしでもやるのかなぁ? ・・・・・・・・・やっぱりボク、女子の制服・・・なんでしょうね。 夕方6時。 まだ空は明るくて、校門の前にはみんな集合していました。 「ハルカ、おそぉい」 と、口をすぼめて雪乃先輩。 「だって、制服段ボールにしまいっぱなしで・・・・・・」 と、少しもじもじしながら言うと。 「・・・ハルカってば♪」 なんて、ボクに抱きついて。 「あ〜あ、バカップル・・・私たちこんなのに付きあわされるの?」 と、明日香先輩呆れがおです。 ・・・そうですよねぇ。 すると先輩は、 「まぁまぁ・・・今日はちょっと、夏休み直前と言う事で」 と、ニヤニヤしてます。 ・・・・・・なにか、企んでる。 「ちょっと、一体なんですの!?」 と、六条先輩がイライラして聞きます。 雪乃先輩は余裕の笑顔で、 「まぁ、日が落ちればわかるわ?ちょっとまだ早いから、ファミレスかどこかでご飯にしない?」 との提案。 仁科君と秋山君は当然賛成で、まずみんなで夕ご飯、となりました。 「肉〜肉〜」 「ビア!ビア!」 まったくもう。仁科君と秋山君、子供みたいにはしゃいでます。 「ビールは18になってからでしょ、もぅ・・・」 雪乃先輩、呆れがお。 如月先輩も、雪乃先輩の発言に呆れて。 「違うでしょ・・・お酒はハタチからじゃない・・・」 「あれ?そうだっけ・・・」 ・・・時々、雪乃先輩は常識が欠けてます。それが、結構かわいかったりするんですけど・・・。 「まぁまぁ、いいじゃないか・・・無礼講ってヤツ?」 と、大鳥先輩は笑顔で言います・・・この人も、結構常識無いです。 「あら・・・ここには大したもの無いのねぇ?シェフもいないし・・・」 六条先輩、流石お嬢様です。 「・・・ここ・・・ファミレス、ですから・・・」 と、三国さんぽつり。 「まったく、お嬢様ってば常識ってもんが・・・」 「雪乃先輩、先輩も結構常識無いですよ?」 ボクは笑顔で、グサリ。 一通り料理が来ます。 テーブルの上、いろんな料理でいっぱい。 「・・・遙、お前デザート頼みすぎだろ・・・」 仁科君は怪訝な表情です。 ボクはいつも、フォカッチャとか軽めに食べたら、デザートを5個とか6個とか頼んでるんですけど・・・。 「太るぞ?」 「ハルカは太んないもん、ねー♪」 雪乃先輩が、とっさに。 ボクも一緒に、 「ねー☆」 「あ、バカップル」 なんて、如月先輩に笑われちゃいました。 すると、ようやくドリンクが来ました。 「おまたせいたしました〜」 ・・・ボクの目の前に、クリームソーダが! 「・・・遙、お前おこちゃまだなぁ・・・」 また仁科君、呆れがお。 「もう!いいじゃないかぁ・・・」 と、ボクは少しむくれます。 まったく、仁科君ったら・・・・・・イジワル。 そんなボクを尻目に、みんな食べ始めます。 もぅ、やっぱり食べ物の事となると、みんな目が無い・・・六条先輩以外は。 「もう、ここはコースディナーはやってませんの?まったく・・・クオリティ低いですわ・・・」 黙々とみんな食事に集中してます。 ボクはと言えば、ゆっくりデザートのイチゴパフェ。3つ目。 「・・・遙・・・見てるだけで気持ちわりぃ」 ・・・なにがでしょう? 「仁科君こそ・・・これでステーキいくつ目?」 「んーと・・・3枚目」 仁科君こそ、ありえないですよね・・・ステーキ、それも分厚いのを3枚も。 「仁科君こそ、太っちゃうよ?」 「オレは運動してるから良いんだよ!」 なんて、ちょっとお互いムキになっていると。 「・・・・・・さて、本題」 と、雪乃先輩が手を叩きます。 みんな手を休めて、注目。 「今日呼んだのは他でもない、肝だめしがてらちょっとお守りのお札を貼って貰おうと思って・・・」 と、唐突に陰陽道のものらしいお札を取りだします。 ・・・異様な雰囲気に、一同唖然。 「え?雪乃・・・なにそれ」 如月先輩が、気になって聞きます。 「だから、お札。アレよ、お払い」 すると、如月先輩は顔を青くして。 「ちょ、ちょっとまってよ!コレから肝だめし?え、それは・・・」 「大丈夫、学校にはもう許可取ったから」 雪乃先輩は平然と。 ・・・突然そんなの、ビックリですよねぇ・・・? 三国さんなんて、顔を真っ青にして・・・、え?アレ? 「・・・はぁーなぁーこさぁーん・・・・・・」 ・・・・・・楽しそう。 周りのみんな、引いてますけど。 「・・・・・・実はね?ちょっと、妖怪退治の真似事する事になっちゃった」 さっきのお呼び出しの続きです。 唐突に、雪乃先輩は電話の向こうで言いました。 「え?妖怪?」 ボクは不思議に思って。 すると、 「ほら、最近いろいろ噂が絶えないじゃない?だから、お札貼って除霊したって言わないと、みんな安心しないでしょ?それで、ね」 と、雪乃先輩はうれしそうに話すんです。 「え、でもボク、怖いのはちょっと・・・・・・イヤだなぁ・・・」 怖いの、キライです。 でも先輩は電話の向こうで胸を張るように、 「大丈夫!ハルカは、わたしが守るから・・・絶対」 と、自信満々に言いました。 雪乃先輩が言うと、なんだか説得力があるのですが・・・・・・。 ・・・でも、そんなオカルト、ボクはあまり信じられないんですよね・・・・・・。 「と、いうわけでジャーン!くじ引きぃ〜」 と、雪乃先輩は突然お手製のくじを出します。 みんなヘンな表情をしながら、それを引くと・・・・・・。 「あ、オレ1だ」 「俺は・・・俺もだ、1」 「ワタクシは?・・・3、ねぇ・・・」 「私、4番だって」 「俺も、4番だね」 「あ、私・・・3番、六条さんと、おんなじ・・・・・・」 そして、最後に残った2番は、雪乃先輩と、ボク。 「・・・先輩、これってなんなんですか?」 すると、雪乃先輩は笑って。 「フフフ、良くぞ聞いてくれました遙クン!コレはお札貼りのペアです。番号はそれぞれ貼る場所で、1は音楽室、2は体育館。3は理科室で4が校長室ね」 「ちょっと待って、雪乃・・・私たち、理科室なの!?」 如月先輩、怖がりながら言います。 「だって、骨格標本が動くって言うじゃない・・・ハァ、怖いよ・・・」 ・・・・・・学校の怪談です。 怖い・・・。 「大丈夫、骨格標本クンにはわたしが昨日話つけたから」 ・・・・・・雪乃先輩、やっぱヘンです。 「大丈夫、俺も一緒だから」 と、大鳥先輩が如月先輩の肩を叩きます。 「・・・・・・お願いします」 如月先輩は、やっぱりおびえた様子で。 「じゃあ俺たち音楽室か!」 「よっしゃあ!ベートーベンどもかかって来い!!」 仁科君と秋山君は、妙に張り切ります。 「・・・ホントに音楽家のポスターと格闘しちゃダメよー?ハードゲイコンビ♪」 雪乃先輩はニヤニヤしながら。 HGコンビにされてしまった二人は怒って、 「違うッすよ・・・」 「ねーーーーよ!!!11」 と、ムキになって否定。でも雪乃先輩、一層ニヤニヤ・・・・・・。 いつも、違うって言ってるんですけどねぇ・・・・・・。 そして校長室の二人は。 「歴代校長の大合唱、期待してますわ?」 「・・・たのしみ、です・・・・・・。」 結構、オカルト好きみたいですね、三国さんと六条先輩。 そして、先輩とボクはと言うと・・・・・・。 「じゃあハルカ、行くよッ!!」 と、お札を3枚放りだして、ボクの手を引っ張っていきます。 「ちょ、せ、先輩待ってくださいよ!ボク、まだ心の準備がぁ〜〜〜!!」 「ちょ、ちょっと雪乃ぉ!?私たち置いてく気ぃ!?」 先輩は校門でようやく足を止めました。 「・・・みんな、来たわね?」 と、不敵な笑みを浮かべて言います。 後から、息を切らしたみんながやってきて、文句を。 「雪乃、置いてくなんて酷いじゃない!」 「そうですわ!?コレから大事な事をやろうってのに説明もなしですの?冗談じゃ・・・」 ・・・そうですよね、先輩ちょっと自分勝手。 その空気を察してか、雪乃先輩はちょっと決まりが悪そうに。 「ハハ、ゴメン・・・じゃあ、聞いて?お札は、みんな貼る位置が決まってるの」 「ちゃんと教えてくれないと困るじゃん・・・」 仁科君も、むくれてます。 「だから今から説明するってばぁ・・・」 雪乃先輩、ちょっと機嫌が悪い・・・逆切れですよ、ねぇ。 「まず、音楽室チームはベートーベンの額。ケンカしたいくらいのこと言ってたし、ちょうど良いよね♪」 と、ニヤニヤ。もう、先輩ったら・・・。 「あぁ、上等だよ!」 と息巻く仁科君に対し、秋山君は。 「・・・いざとなると、ちょっとこえーな・・・」 「なに怖じ気ついてんだよ?ブッ飛ばしてやれば良いじゃんか!」 と、仁科君はいきがります。 ・・・・・・でも、足元震えてる。 「次に、校長室組はぁ・・・」 このチームの六条先輩と三国さんは、楽しそう。 「現校長の写真の裏!」 「わかりましてよ?」 「・・・校長、先生の後ろ・・・お札・・・」 にこにこしてる、二人とも。 「・・・遠足とかじゃないのよ?最後に、理科室コンビは・・・」 理科室の如月先輩と大鳥先輩は、真剣な表情。 「・・・どうするの?雪乃」 「・・・・・・ちょっと難易度高いかも・・・でも、大鳥君がいれば大丈夫かなぁ・・・?」 その言葉に、如月先輩の顔がこわばります。 「ちょっと、雪乃!?」 「大丈夫、俺がついてるから」 大鳥先輩のやさしい笑顔。なんだかボクまで、少し安心した。 「そうね・・・人体模型、あの解剖人形の方ね?その心臓に、お札を貼るの・・・」 ・・・いつの間にか、雪乃先輩の表情が真剣に。 「もしも動いたりしたら、必ずわたしに電話してね・・・絶対」 ・・・ここだけ、ものすごい真剣な雰囲気。 「わかった、絶対出てね?雪乃、けっこうケータイに出てくれないから・・・」 そう、雪乃先輩はケータイがキライみたいで・・・・・・。 この前なんて、10分ならしても出なかったんだから! 「・・・今日は、大丈夫♪」 と、雪乃先輩は不敵に笑います。 「もしも動いたら、俺が蹴りいれるから大丈夫だよ」 と、大鳥先輩も如月先輩の肩を叩きます。 如月先輩は震えながら、 「わかった・・・じゃあ雪乃、絶対だよ!?」 と、かすれた声で言います。 「おけー、まかせて☆」 雪乃先輩は、大胆不敵で自信満々の顔で言いました。 如月先輩と、仁科君たちは微妙に不安そうですが・・・・・・。 雪乃先輩、元気いっぱいに。 「じゃあみんな!行くよッ!!」 そして、ボクたちはそれぞれの目的地へと分かれていきます。 ・・・・・・怖いなぁ・・・・・・。 守ってくださいね、雪乃先輩? ・・・ダメだダメだ、ここは男であるボクがしっかりしなきゃ!・・・でも、怖いです・・・・・・はぅっ。 ・・・音楽室。 暗闇と静寂のなか、月の光が怪しく照らす。 その外では、仁科と秋山がもめていた。 「・・・俺、札貼るのヤだかんな・・・」 「おい秋山!お前散々張り切ってたじゃねーかよ!?」 「だってよぉ・・・ぴ、ピアノ・・・・・・」 ・・・・・・今宵の月は大きく輝き、それに合わせるかのようにベートーベンの「月光」が幽かに響く。 「・・・・・・オレだってこえーよ!!!」 「お前ベートーベンブッ飛ばすんだろぉ!?じゃあお前が行けよ!!」 いざとなると、案外情けない二人。 二人はしばらく、膠着状態だったが・・・。 沈黙を破ったのは、仁科だった。 「・・・・・・じゃ、二人で突撃な・・・」 「でも、どうやって・・・?」 真剣な顔で、秋山が聞き返す。 仁科は青い顔を無理やり笑わせながら、 「二人同時に『フォーーーーー』、名づけてレイザーラモン作戦!!」 秋山も、ハッとして。 「・・・それ名案かも」 「よし、決まりだ!」 覚悟完了!! 「「フォォォォーーーーーーーーーーーーーーー!!」」 甲高い奇声と共に、勢い良くドアを開け突撃する二人。 ・・・・・・しかし、沈黙。 ただ、ピアノの音が、静かに鳴り響く。 「・・・・・・マジかよ・・・」 仁科が、つぶやく。 秋山も、青い顔で。 「・・・・・・コレはヤバイかもわからんね・・・・・・」 恐怖で、辺りを見まわす事も出来ない。 ピアノの方など、とてもとても・・・・・・。 今、間違い無く、二人の心を満たしていたのは恐怖。 「・・・・・・おい、どうする!?」 「このままじゃヤバイだろ・・・・・・」 向きあいながら、今にも逃げ出さんとの恐怖いっぱいの二人。 「・・・恐怖を振り払うには、」 「明かりかな・・・どうか、大音楽家集団が、出て来ませんように・・・・・・」 そして仁科はお札を握りしめ、照明のスイッチに手を掛ける。 秋山は、仁科の手を握りしめ。 「おい・・・これじゃホモみてーじゃねーかよ・・・」 「そ、そんな事言ってる場合じゃねーよ!行けよ・・・」 「よし、行くぞ・・・!!」 恐る恐る、電気のスイッチを入れる。 一瞬のラグのあと、ぼわっと蛍光灯が灯る。 ・・・しかし、蛍光灯は長い間替えていないらしく、不安定に瞬いている。 その不気味な瞬きが、一層二人の恐怖をあおる。 「・・・・・・」 「おい、余計怖いじゃねーかよ!!」 しかし、そんな事も言ってはいられない。 二人は恐る恐る、ピアノの方向へと歩き始めると・・・・・・。 「こらキミたち!今何時だと思ってるの!?」 突然の、甲高い声。 「ウワァァァァァァぁぁぁぁぁ!!?」 「出たぁァァァァァァあぁぁあっぁぁ!!!?」 二人は恐怖で、思わず抱き合った。 「勘弁して勘弁して勘弁して勘弁して」 「うわぁぁぁぁぁぁベートーベン大先生ごめんなさいゴメンなさい!!」 恐怖でパニック状態の二人に、黒い人影が迫る。 「・・・・・・もう、なにやってんのか・・・」 と、溜息をついた。 「・・・・・・?青葉先生!?」 その人影は、音楽教諭の青葉であった。 若い女性で、男子になかなか人気のある教師。 彼女目当てに来る声楽部員も、少なくない。 「もう、いたずら?夏休みなんだし、さぁ帰った帰った!」 と、青葉はさばさばとした口調で言う。 「なんだぁ、青葉先生かぁ・・・・・・マジビビったッすよ・・・」 仁科は、安堵して。 一方、秋山は。 「あ、青葉先生!俺たち、2年の堀江先輩の頼みでお札貼りに来たんスよ!」 と、調子良く言う。 「・・・お札?・・・あぁ、そういえば教頭先生そんな事言ってたわね・・・」 雪乃が許可を取ったと言う話は、本当のようだ。 「はいはい、じゃあコレは私が貼っておきますから。あなた達は早く帰りなさい?まったく・・・折角月が綺麗だったのに、台無し・・・」 そう溜息をつくと、青葉は仁科から札を掠め取ってピアノへと戻った。 その様子を、秋山はぼんやりと見ていた。 「・・・おい、なにやってんだよ・・・」 「青葉せんせぇ・・・・・・」 ・・・青葉に見とれる秋山に、仁科は呆れて一人音楽室を後に。 「・・・あ、仁科待て!ちょっと俺を置いてくんじゃねー!!」 秋山は慌ててドアまで駆け寄ると、ピアノを弾く青葉に一礼して、仁科の後を追った。 残された青葉は溜息をついて。 「・・・なつかしーわねぇ、肝だめしなんて・・・でも学校公認って堀江さんなに考えてるのかしら・・・。あ、もう時間・・・じゃ、お札をここに貼って、と」 ベートーベンの肖像画のおでこに、ぺたり。 こちらは、夜の理科室。 ここ数ヶ月・・・遙たちが入学した辺りから、「踊る骸骨」・・・ひとりでに動く骨格標本の目撃証言が絶えない。 大鳥は、電気をつけ、中に入る。 「・・・こ、怖いなぁ・・・」 恐怖で足がすくむ明日香を、なだめるように。 「大丈夫、如月さん・・・ほら、俺についてきて」 やさしい笑顔で手をさし出す。 「・・・・・・ありがとう・・・」 明日香は大鳥の手を握ると、恐る恐る理科室に足を踏み入れた。 理科室は、意外と清潔で、恐怖心をあおるようなものはあらかた片付けられている。 後ろの棚の実験道具も、前衛的なオブジェを髣髴とさせるように、整然と片付けられていた。 「・・・ほら、怖くないだろ?」 「・・・うん」 大鳥のやさしい問いかけに、やっとの思いで明日香はうなずき、安堵した。 「じゃあ俺準備室に入るから、如月さんはここでまってて?それとも、一緒の方が良いかな・・・」 あくまでも、大鳥は明日香の事を第一に考える。 ふと明日香は、大鳥が女子に人気のある理由ってコレなのかな、と思った。 「・・・私も行く」 明日香は、勇気を振り絞って言った。 「そっか・・・じゃあ、ついてきて。無理はしなくて良いから」 大鳥はにこりと明日香に呼びかけると、表情を引き締めて準備室のドアに手を掛けた。 ギィィ・・・・・・。 油の切れたドアが、嫌な軋みをあげる。 「ひゃ・・・ッ」 思わず耳をふさぐ明日香。 「大丈夫?」 「・・・平気、行こう?」 大鳥がいれば大丈夫。なぜか、明日香はそう思えた。 だが大鳥が準備室の明かりをつけると、その思いも一気にふっ飛んだ。 「ウワッ!!?」 と、明日香は準備室から飛びだした。 「大丈夫か!?」 とっさに呼びかける大鳥。 明日香は尻もちをついた格好で、 「大鳥君、ゴメン・・・やっぱ私、怖い・・・」 と、元気無く言った。 「大丈夫、じゃあちょっとまってて」 大鳥はまた笑顔で、答える。 そして、ゆっくりと、理科準備室の中へと進む。 準備室の中は、グロテスクな解剖標本、毒々しい試薬の水溶液、それに人体模型などが所狭しと並んでいる。 クールな大鳥も、心の奥底ではヒヤヒヤしていた。 「・・・堀江さん、人体模型が危険だって言ってたな・・・」 と、さまざまな資料がうずたかく積みあがる山に足を進める。 スペースが狭いので、どうしても資料が散乱気味になるらしい。この散らかり具合が恐怖をあおるのだな、と大鳥は冷静に分析した。 「たしか、この辺に・・・」 と、資料の山に手を突っ込んだ・・・そのとき。 「・・・・・・!!」 精巧な人体の解剖模型が、大鳥の腕をつかんだ。 そして、ゆっくりとたちあがる。 「・・・・・・マジかよ・・・」 流石に、いくら冷静な大鳥と言えど、このときは動揺を隠せなかった。 ・・・しかし大鳥は、動揺の中にあってもあくまでもクールさを保った。 「如月!!逃げろ!!今人形が動いた!!!」 大鳥が珍しく、叫んだ。 大鳥の叫びに、明日香はビクッとした。 「ねぇ・・・大丈夫?」 かすれて、声にならない。 そして少しでも遠ざかろうと思ったが、足が思うように動かない。 「ねぇ大鳥君・・・だ、大丈夫!!?」 ・・・なぜだろうか、明日香はとっさに叫んでいた。 その頃、大鳥は動く人体模型と格闘していた。 「クソ・・・ッ、なんなんだコイツは!?」 ようやく模型の腕を振り払うと、すぐさま離れようとしたが、資料の山に足をすくわれて転ぶ。 それをチャンスと見るかのように、模型は大鳥に迫る。 「・・・・・・クソッ、」 大鳥は周りを見まわす。 模型に攻撃できるようなものは無いか・・・しかし間の悪い事に、攻撃できそうなものは無い。 仕方なく、足もとの辞典や雑誌を模型にぶつけるが、模型はひるむことなく大鳥につかみかかった。 「クソ・・・このままじゃ!?」 人体模型は、大鳥の首をつかんだ。 腕力は、かなりのものだ。下手すれば、窒息しかねない。 やっとの事で蹴り飛ばすが、サッカー部のエースの脚力をもってしても模型をひるませる事が出来ない。 それに・・・・・・解剖模型にかかわらず、妙な力により分解する事も無いようであった。 「クソ・・・どうなっているんだ!?」 雪乃の話では、人体模型は心臓に札を貼る事でその動きを封じられる、との事であったが・・・。 「・・・腹の蓋、閉まってやがる・・・」 どうやら何とかして、破壊するしか方法はなさそうだ。 「大鳥君!!」 明日香が、理科室の椅子を手に準備室に飛びこんだ。 「如月!来るな!!」 大声で怒鳴る大鳥を無視するように、人体模型に椅子を投げつける明日香。 「・・・如月・・・」 椅子は命中し、模型の首がぽろりと外れる。 「大鳥君、大丈夫!?」 明日香は大鳥の元へ駆け寄る。 少し大鳥はせきこんだが、 「大丈夫・・・それより如月さん、逃げよう」 と、冷静な口調で呼びかけた。 ふと二人が振り返ると、人体模型は取れた首を探してうろうろとしている。 「逃げるなら、今のうちだな」 明日香は大鳥の手をとって起きあがるのを助ける。 「・・・そうね、コレどうしよう・・・雪乃、知ってるのかなぁ・・・」 「多分、知ってると思う・・・まずは堀江さんのところに行かないとな」 そして大鳥は急いで準備室に鍵をかけると、明日香の手をとって廊下へと飛びだした。 ・・・廊下を必死で駆ける二人の背後から、ガンガンとドアを叩く音が不気味に木霊する。 大鳥と明日香が人体模型と格闘している頃。 六条と三国は、校長室の前で、二人してニヤニヤしていた。 「さて、ここがハゲ校長の玉座ですのね?」 「レックス・・・、トレメンデ・・・・・・」 そして二人はまったく臆する事も無く、校長室へ堂々と入る。 ・・・校長の椅子には、妙な影。 「なにかしら?死体?」 「多分・・・お人形・・・・・・」 と、三国はひょっこり歩み寄り、手を掛ける。 椅子をぐるり、とこちらに向けると、案の定人形であった。 「ウワ、なんですのこの下品な人形?」 それはビニール製で、口が阿呆のようにぽっかりと空いている。 「ゴム人形ですわね・・・」 六条は、まじまじと珍しそうに見つめる。 三国はつぶやく。 「南極・・・いちごう・・・キャッ」 そして、顔を赤らめる。 「なんですの?それは・・・」 聞きなれない言葉に不思議がる六条。だが、三国は首を振るばかり。 「・・・まぁ良いですわ、とっとと済ませてしまいましょう☆」 六条は興味をすぐ現校長の写真へと向ける。 「・・・間抜けですわねぇ・・・」 確かに、お世辞にもりりしいとか威厳のあるとはいえない、ファニーフェイス。 そのファニーフェイスを手前に持ち上げ、その間裏に陰陽道の札を貼りつける。 「コレで、完了ですわね?」 「ちょっと・・・まって、ください・・・」 「なんですの?」 六条が振り返ると、三国は自分のつけていたうさみみのカチューシャを人形に無理やりかぶせていた。 「・・・可愛くない・・・」 「まったくですわね。さ、行きましょ?」 「・・・はい」 二人は急速に興味を無くし、校長室を後にした。 その刹那、背後からときの声が、大きく木霊した・・・・・・。 「え・・・どうしたの、明日香!?」 体育館で『待っていた』ボクたちに、突然の電話。 「なに・・・え、人体模型に襲われてる!?ちょっと待って、今行く・・・」 先輩は、深刻な表情で。 「クソぉ・・・まさか、もうそんなに・・・・・・」 と、先輩はいまいましそうにつぶやくと、ボクを置いて駆けだしていきました。 ・・・・・・どーしよ。 あの電話、怖いよ・・・・・・。 そしてボクは震えながら、体育館の床に口紅で書かれた奇妙な魔法陣を、ぼんやりと見つめてポカンとしていたのですが・・・・・・。 「しくしく・・・しくしく・・・・・・」 どこかから、小さな女の子の泣き声が響きます。 ボクは恐る恐る、その声の方向へと、そろそろと進みます。 「ねぇ・・・・・・キミ、どうして泣いているの・・・・・・?」 怖くて、声が震えます。 でも、それどころじゃないから・・・だれかが泣いている。例えそれが幽霊や妖怪であったとしても、それは悲しい事だと思うから。 壇上に上がり、舞台の袖の幕をみました。 すると、小さな女の子がひとり、ぽつんと、しくしくと泣いています。 こんな夜中にどうしたんだろう、幽霊かな・・・と、一瞬思ったけれど、関係無いと振り払い。 「どうしたの?そんなに泣いて・・・」 ボクは、笑顔で言いました。 不安がらせないように、安心させたくて、にっこり。 「お兄ちゃんが来たから、もう大丈夫」 すると、しくしく泣いていた女の子はぼんやりと、泣き腫らした目でボクを見つめていましたが・・・口を開いて。 「おねえちゃんでしょう?・・・ひっく・・・」 ・・・・・・すっかり忘れてたけど、女子の制服着てた。 まったくもう、なんでだれも突っ込んでくれなかったのかな!! けれど今は、そんな事はどうでもよくて。 「行こう・・・ここにいたら、危ないかもしれないから」 ボクは小さな女の子の手を引いて、先輩の後をついていきました。 ・・・えっと、どこに行けば、いいんでしょう? 「うっぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」 「うええええええええええええええええええええええええええええ!!!??」 鉢合わせになった、音楽室チームの仁科と秋山、そして校長室チームの六条と三国。 そして、背後から木霊する怒号のような雄叫び。 恐怖に震える、一同・・・。 そして、仁科が大声で。 「なんかヤベエ・・・おい、全員逃げるぞ!!?」 一同うなずくと、いっせいに駆けだす。 そして、それを追う一つの影。 ・・・間の抜けた、カランカランという足音。 「雪乃さん、骨格標本とは話をつけたのではありませんでしたの!?」 恐怖に震えた声で、六条が叫んだ。 彼らは精一杯駆けていたが、やがて疲れ始め、まず三国がへたばる。 「もう・・・ダメ、です・・・」 「おい三国!大丈夫かよ・・・」 -------------------------------------作者コメントwwww--------------------------------- 63. のっけから、いろいろと。 少し雪乃さんが調子を取り戻した回であります。時系列?気にすんなよ! あぁ、そろそろ夏休みスペシャル書きたいな。俺には関係ねえけどなwwwっうぇうぇwwwwwwwww しっかし、女の子のケンカって良くわかりません。てか鰤wwwwwwwwwww ・・・人気キャラ投票かぁ・・・・・・。ノミネートくらいはされてえな、と弱小作者のつぶやきwwwwwっうぇうぇwwwwwwスルー汁wwww てか俺必死すぎwwwww60話以上書いてるしなwwwwっうぇうぇうぇっwwwwwwwwwwwwwwwww ・・・・・・漫画カケナスorz 64. 少し不思議な朝の風景。 なんか、こういうなんでもないようなちょっと不思議なような話を書くのが結構好きです。 ちなみに今、朝方5時前wwwっうぇうぇwwwwHTML書けよorz 65. 本当は続きがあるんですが、今回は2部構成にしようかな。アレです、初期(2.とか参照・・・っていってもテラ見ヅラスwwww)の「退魔の任務」・・・ってネタバレ気味じゃんwwwwいや、夏休みスペシャルへの布石ですよ? いつもどおりみんなにいじられてしまう遙なのでした・・・・・・って、毎回このパターンだけどな、先ボクってwwwwwでもそもそも遙をいかに女装させるかで話を考えてる俺としては当然の流れなんですが。 時に、遙にさせたい格好なんて募集してみようかしら?基本は新都社キャラで。それ意外は・・・まぁいいか。今までやったのは、まだツィーラン(旋光の輪舞)とブリジット(ギルティギアシリーズ)くらいなんだよね。あと、不思議の国のアリスかぁ。意外と少なかった。 ちなみに一位になったキャラのコスプレした遙の絵でも描いてみたいと。むしろそれをネタに漫画をwwwwww描けるかなぁ。 あぁ、俺以外が描いちゃっても良いですよ?当然。ってか大絶賛募集中。俺の中で。 66. えっと、樹系図とってもうれしかったです。この場を借りて、感謝。というわけで、ちょっと反逆派な遙でしたぁ。 あと、金原正山先生、今回はいろいろとゴメンなさいwwwww雪乃さんがコスプレしてしまったりもう、食楽園大好きなんでぇぇ。 なわけで、夏休みスペシャルを外堀からも攻めてみたり、いろいろやってたら俺も良くわかんなくなってきたwwwっうぇうぇwwww 結局いつも通りなんですけどね。なんだか。 それから、廊下の角では雪乃じゃなくって遙とぶつかってしまいそうな気がします・・・雪乃先輩は絶対ひらりとかわしてしまう。 67. 意外と珍しいツーショットですよ? まぁ仁科が大食いなのは良いとして、遙も遙で甘いもんばっか食いまくり。やせの大食いとは言いますが・・・・・・。 68. あいかわらず頑張って下克上狙ってみるもダメダメなハルカらしいというかなんというか。 69. HTML化がてら最初の頃の話に目を通してみた・・・うはwwww雪乃相当ツンツンしておるwwwっうぇうぇwwww てか今でも遙や明日香以外には相当なツンッぷりではあるのかもね。仁科なんてハードゲイ呼ばわりだし。 ・・・・・・でも絶対ショタコン(ryいやそもそもコレ「女装ショタ小説」を標榜してるしwwwwwwwwwwwwwwwwwwww 70. 消化不良気味ながら。 遙がVIPにアクセスしてみたよっと。VIPの小説なのにVIP理解できない主人公wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwそもそも2ch自体あまりwwwwwwwww てかこの小説ってVIPPERあんまいないな。雪乃さんはVIP見るみたいだけど。 ・・・遙が新都社を見たらどう思うかねぇ。 しかし、小説を書くって面白いなぁ。なにしろキャラクターの考えてる事が作者の考えと全然違うんだもの。 71. なぜかハードボイルド風を書こうとして破綻してみた。それだけ。