「先輩とボク」ついに40話に到達しちゃいました。 まだまだ、続きますよ?だってまだ、遙1年で今は6月中ごろなんですもの。 40. 透明な空を、眺めてた。 その日は、もう夏に片足を踏み入れていると言うのに、驚くほど寒い日で。 ボクは眠ることも出来ず、ベランダに出て、星空を眺めてた。 そして、夢想するんです。 「この世のすべてに色がなかったら、この空はどう見えるんだろう?」 その日は、空気が、真冬の寒い日のように、驚くほど澄んでいて。 ・・・星空に抱かれて、一人きりの、静寂。 そして、一人、夢を見る。 「あ、ハルカおはよ〜」 いつものように、先輩は明るくボクに挨拶をしてくれます。 ぼくも、元気よく、 「お、おはようございますッ!」 と、でもちょっと慌て気味に。 「遙クゥ〜ン?どうしてキミはいつもそんな肩肘張っちゃうかなぁ・・・・・・」 ハハ、先輩の前だとなんか力が入っちゃって。 「もっとリラックスしなさぁ〜い☆」 と、ボクのほっぺたをむにっ、と触りながら。 「ふぁ、ふぁあ〜い?」 ボクは先輩のヘンな行動に困惑しながら、でも少しだけうれしかったり。 ヘンなビジョンが、脳裏をよぎりっぱなし。 昨日見た夢の、フラッシュバック。 「おい遙〜、次お前だぞ?」 国語の授業中、仁科君につつかれて我に帰って、あわてて教科書開いたり。 先生にさされた数学の時間、全然後のほうでやる問題を間違って黒板に書いたり。 また引きずりっぱなしで、ぼんやり。 でも、先輩への気持ちとは、違う感じ・・・・・・。 「今日はコイツ、ヘンだったッすよ・・・」 仁科君は焼きそばパンをほおばりながら、雪乃先輩に報告。 ボクはまた、ぼんやりしていて。 「ハルカぁ?キミの話だよ?」 と、先輩はボクの頬をつついて。 仁科君と如月先輩は、「バカップル」と笑うんですけれど。 先輩は、心配そうな表情で。 「・・・本当に、どうしたの?」 下から、覗きこむんです。 あの、すこし悲しみを含んだような瞳が、ボクを射抜いて。 それでも、ボクは、言うべきかどうか、とまどって、躊躇して。 「本当に、下らないことですってば」 と、ごまかすように笑っていったのですが・・・。 先輩には、見透かされちゃいます。 「あ、作り笑い・・・・・・」 そんなときの先輩の表情の、さみしそうなことと言ったら・・・・・・。 だからボクは、今回も、白状せざるを得ませんでした・・・・・・。 「・・・夢を見たんです。天使になった、っていうのかなぁ・・・・・・とにかく、ボク、おっきい翼が生えちゃって」 夢の中で、ボクは大きな大きな翼を持つ天使みたいになってた。 けれど、その羽根はあまりにも大きくて、重たくて。 「ボク、夢の中で困っちゃったんですよ・・・。だって、あんまりに羽根が大きくて、このままじゃどこにも行けないし、かといって空を飛ぼうって、思えなくて・・・」 あの不安な感じが、フラッシュバックして。 「高い塔の上に一人きり、だったんです。風は強くて、さわやかで。でも、ボクは怖くて、小さくなってた・・・・・・」 あのときの感覚を思いだして、身体がこわばります。 悩んでしまったボクを、雪乃先輩はひときわ心配そうにじっ、と見ていたのですが・・・。 先輩は手をとって、言いました。 「ハルカ、空を飛ぼう?」 ボクは突然の台詞に、きょとん、としちゃって。 先輩はにっこり笑って、言います。 「遙クンはどうして、飛べなかったのかな・・・・・・?」 怖がるボクをなだめるように、ぎゅっとして。 「・・・夢の中に、わたしはいなかった・・・・・・?」 耳元で、切ない声。 雪乃先輩も、夢の中に、いました。 ボクとは違う塔の上。 なぜか先輩は、羽根が生えてなくて。 先輩は翼の生えたボクに、明るく手を振って。 いつのまにか、それが手招きに変わってた。 そして、飛ぼうと、塔の淵まで行くのですが、目線は下を向いてしまう。 ・・・驚くほど小さく、町並みが。 そして突風が吹いて、不意に恐ろしくなっちゃったんです・・・・・・。 先輩のところに、行きたいのに。 そんなこと、話して。 話しているうち、本当に悔しくなっちゃって・・・・・・。 しょぼんとしているボクに、雪乃先輩は明るく問いかけます。 「そっか・・・そうだよね、その夢ではまだ飛べなかったのかぁ・・・・・・」 ボクの頭を、やさしく撫でて。 「でも、大丈夫。きっと、飛べる日が、来るはずだから」 唐突に、キスしてきて。 「今のわたしたちみたいに。ね?そうでしょう?」 ・・・・・・。 「そ、そうですよね、先輩!」 ボクは顔を赤くして、うつむきながらも、笑ってて。 そうだった、あのときみたいに、飛んじゃえば良いのか・・・・・・。 「はぁ、結局おのろけに付き合わされちゃった」 如月先輩、呆れてます・・・そうですよねぇ、こんなの。 「ブーーーーーーーーーーーーーン」 仁科君は・・・顔を赤くして、手を水平に伸ばして飛行機のまね? 「ごめんねーいつもこんなんで!」 てへっと、雪乃先輩は笑います。かわいいです・・・・・・。 「まぁ、いいけどー?にしてもホンット井上君のこと好きなのねー、雪乃ってば・・・見てるこっちが恥ずかしいわよ」 ・・・如月先輩の言う通り、かも。 先輩、少し自粛しましょうよ!ボクも、我慢しますからぁ・・・・・・。 でもおかまいなしの先輩は、またボクを抱きしめちゃって。 「・・・空も、飛べるはず」 その日の夜も、昨日のような冷たい、澄んだ夜空。 少しベランダに出て。凍るような空気を胸いっぱいに吸いこみ、そしてちょっと溜息。 今夜も昨日と同じ夢を見る気がするよ。 けれど、今日は少しだけ違う。 ベッドに入って、雪乃先輩の台詞を思いだす。 ・・・・・・空もとべるはず。 ・・・・・・高い高い塔のてっぺんに、ぽつんと一人きり。 飛びっきり大きな翼を抱えて戸惑うボク。 ふと空を見上げると、たくさんの羽ある人たちが自由に大空を、透明な空を飛んでいて。 眺めていると、ふと耳に入る、やさしい声。 「ハルカぁ〜!こっち、こっち!」 声のする方向を見ると、もうひときわ高い塔から、雪乃先輩の声。 手を振る、雪乃先輩の背中には、なぜか翼がなくって。 ボクは、雪乃先輩に手を振ります。 そして、怖くて広げることすら出来なかった羽を、大きく広げました。 風を、つかまえるために。 ひときわの突風をとらえ、意外にもあっさりと、ボクの身体は浮きます。 「ハルカ、頑張って!でもでも、無理はしないでね!!」 先輩がエールを送ってくれます。 その声を原動力に、ボクは風を波にして、オールのように翼をはばたかせて。 ・・・・・・飛べた!! それからボクは、真っ先に先輩の元へ。 目の前の先輩は、不思議な民族衣装でした。 大きな翼のボクに、にっこりと笑って。 「・・・・・・飛べたね、ハルカ」 そして、雪乃先輩はボクを抱きしめて。 そのあたたかさは、夢のはずなのに、まるで現実と同じで。 ・・・そうか、先輩の「ぎゅっ」は、身体だけじゃなくて、心まで、ボクの心まで、抱きしめていたんだ・・・・・・。 そう思うなり、顔は赤くなるんだけれど。 ・・・ボクは、元気よく言います。 雪乃先輩の、手をとって。 「じゃあこれから・・・どこへ行きますか?」 41. 雪乃先輩は多芸多才ですが、趣味はそう多くはありません。 (この前の『旋光の輪舞』50連勝は、先輩曰く『乙女のたしなみ』・・・よくわかりません・・・) その少ない趣味の一つは、ボクを女装させること・・・・・・。 はぅ。今日もボクは先輩にオモチャにされてしまうのでした・・・・・・。 ボクは、男なんですよ!? 「う〜ん・・・飽きた」 『不思議の国のアリス』のアリスの格好をしたボクに、雪乃先輩がぽつりとつぶやきます。 「え?じゃあもう女装しなくて良いんですか?」 ボクは即答します。 すると先輩はひらめいたように、 「そうか!男の子!!」 というなり、アリスの格好のボクを引っ張って、さっそくゲームセンターに飛びだすんです!! ゲームの国のアリスは男の子・・・あんまりにシュールな絵ヅラです・・・・・・はぅ。 またなにか、先輩はたくらんでいます。ニヤニヤしてるんだもん・・・。 まず先輩は、この前驚異の50連勝を達成した『旋光の輪舞』の前に立ちます、が・・・・・・。 「ツィーラン君は・・・・・・この前アレだから、いっか・・・」 ねこみみのツィーラン少年で50連勝したから、飽きたんでしょうか? そして先輩は『湾岸ミッドナイト』にコインを投入、しばらく勝ちつづけていたのですが突然わざとスピードを落として負けてしまいます。 「・・・どうしたんですか?」 「飽きた。それに、オヤジしかいないんだもん」 ・・・先輩の基準がよくわかりません。 すると、今度は格闘ゲームのコーナーに行って、『ギルティギアXX #リロード』にコインをいれます。 「ロボカイかなぁ・・・う〜ん・・・」 先輩は、キャラ選択で少し悩んでいたのですが、結局選んだのはヨーヨーを持った女の子でした。 「やっぱブリジットかな・・・・・・」 というなり、あっという間に一人目をブッ倒し、乱入する幾多のツワモノを先輩操る女の子はばったばったとなぎ倒し結局18連勝。 ・・・先輩、なんでも出来ちゃう人なんだなぁ・・・・・・。 そして、19人目。今度は、相手もブリジットという女の子。 結局、それで連勝はストップしたのですが・・・・・・。 先輩、思いっきり手を抜いてましたよね!? 最後に先輩は『怒首領蜂大往生』なんて恐ろしげなタイトルのシューティングゲームを始めました。このゲームでは、戦闘機に女の子の形をした人形みたいな、「エレメントドール」を載せて強化するらしいです。 ピンク色のひらひらなショーティアと赤い戦闘機の組み合わせで、恐ろしい弾幕をすり抜けていきます。 「極殺兵器」なんていう恐ろしい名前の、それこそ殺す気満々のメカの弾幕を抜け、なんと炎のオーラをまとった蜂型のメカまでたどり着きます。 辺りは黒山の人だかり。 その蜂はやたらめったら速い弾を、それこそ画面を覆い尽くさんばかりに撃って来るのですが、先輩はそれをかわしつづけ、ついに勝ってしまいました!! 周りも、驚いています。 ・・・ボク、思うんですよね・・・・・・先輩、超人!? ゲームセンターを後にして、先輩がふとつぶやきます。 「男の子、決まり〜」 ボクの方を向いてにっこり。そういえば、ボクはまだ不思議の国のアリスの格好です・・・・・・。 先輩といるとなんだか毎日が、不思議の国。 どぎまぎしていると先輩は、 「よし、今度ハルカにはブリジットの格好をしてもらおー!!」 えぇぇぇぇえ!?あの、ヨーヨーの、女の子ですか!? 「せ、先輩?ブリジットってあの女の子ですよね!?」 と驚いて聞くと、先輩は驚くべき事を。 「え?ブリジット男の子だよ?」 ・・・・・・うっそぉ。 アレは、どうみても女の子にしか見えないんですが・・・・・・。 「じゃあ帰ったら早速衣装作り始めなきゃね〜♪ハルカも手伝ってね☆」 ・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!? 42. かわいいものテロリズムは取り締まることは出来ないのでしょうかぁ・・・・・・。 ただでさえ、先輩にオモチャのごとくいろんな女の子の格好させられてるのに!! 道でばったり、三国さんと。 「あれ?三国さん、どこか行くの?」 「・・・えっと、『材料』を、買いに・・・」 いつものように可愛い顔をうつむき加減に、答えます。 そして三国さんは持っているテディベアの手を小さく振って、ボクたちはわかれます。 ・・・・・・あの視線が、ちょっと怖かったんですが・・・・・・。 翌日、図書館で。 珍しく雪乃先輩が一緒に行くと言うので、ボクたちは二人で入ります。 すると、今日の図書当番は三国さんでした。 「あ・・・・・・こんにちは・・・・・・」 と、顔を赤らめながら会釈する三国さん。 「まいなちゃんこんにちは〜☆」 先輩はうれしそうに挨拶します。 ボクにもこんな笑顔ではなかなか挨拶してくれません。ちょっとヤキモチ・・・・・・。 ちょっとむっとしながら、ボクも挨拶。 「こ、こんにちは」 笑顔を作ろうとしても、顔が引きつって・・・・・・。 だって三国さん、なんだか怖いんだもん!! でも三国さんは、にっこり微笑んで。うつむき加減だけど。 「井上君・・・こんにちはぁ・・・」 といって、ウサギさんのぬいぐるみをぎゅっと。 「あなた、いつもそのうさちゃん持ってるのねぇ・・・先生になんか言われない?」 雪乃先輩は、少し不思議そうに聞きます。 すると三国さんは、 「・・・特例、で・・・・・・認めて、もらってます・・・」 と、つぶやくように言いました。 「ふぅ〜ん・・・にしても可愛いウサギ。自分で作ったの?」 「・・・・・・は、ハイ・・・かわいい、でしょう?」 先輩の無邪気な質問に、照れて答える三国さん。 でもこんな見た目とは裏腹に、ものすごい人なんです・・・・・・。 本を借りて、図書室を出ようとすると、 「あの・・・、ちょっと、まって・・・・・・」 と、三国さんがボクたちを呼びとめました。 少し、やな予感・・・・・・。 「えと、なんですか?」 「あの・・・井上君、いつも、どこで・・・女の子の、格好、してるのかな・・・・・・?」 少し首をかしげて言います。 ・・・あまりに唐突で、ビックリ。 「うわっ、こんなところで聞かないでくださいよ!?」 「良いじゃない。まいなちゃん、今度の日曜、わたしのうちに来ない?」 と、唐突な先輩!! 「せ、せんぱぁい・・・・・・」 ボクは、げんなりしちゃって。 「あ、あの・・・もしかして、堀江先輩の、おうちで、ですか・・・・・・?」 「そうそう。遙クンかわいいんだからぁ☆」 せ、先輩ってば!? これは日曜日、怖いことになりそうです・・・・・・。 「じゃ、じゃあ先輩・・・・・・とっておきの、用意、しますね・・・・・・?」 にやりと、三国さんが笑った気が、しました・・・・・・。 「ウフフ、期待してるわ♪」 43. 雪乃先輩、ボクの伸びた髪をいじりながら。 「ねぇ・・・ハルカ・・・?」 さみしそうに、つぶやいたんです。 「もしもわたしが、遠くに行っちゃったら・・・・・・」 先輩の顔は、見えないけれど。 その言葉が、ボクの心を刺すようで。 「・・・・・・お別れのときは、泣いてくれるかな・・・・・・?」 あんまりに漠然として、よくわからないけれど。 けれど、悲しくなってきて・・・・・・。 で、声も、出なくって・・・・・・。 「・・・・・・ハルカ?ねぇ、ハルカ?」 先輩は、繰り返しボクの事呼んでた。 でも、こんなに近くにいるのに、先輩がものすごく遠くにいるみたい・・・・・・。 後ろから、ボクをやさしく抱きしめて。 「ハルカ・・・答えてよ、ハルカ・・・・・・」 何度も何度も、ボクの名前呼んで。 でも、ボクは、声が、出なくって。 「・・・・・・先輩、そんなこと、言わないで・・・・・・」 ようやくひねり出した、涙声。 そして、抱きしめる雪乃先輩を振り払うようにして、そして雪乃先輩の顔を見て。 先輩は、少し驚いた表情です・・・・・・。 「先輩!!そんなさみしいこと、言わないでください!!」 ボクは、ボクは、ボクはぁ・・・・・・。 そんな事言われたら、泣いちゃうじゃないですか・・・・・・。 「・・・・・・ハルカ、」 先輩はものすごくさみしそうな瞳で、ボクを見つめて。 ボクは、先輩がよく、みえないよ・・・・・・。 だから、ぎゅっとして。 「先輩、雪乃先輩?そんなこと、いわないで・・・・・・・・・」 あぁ、泣いていたんだ。 ボクの目からは、止めどなく涙があふれてきて。 嗚えつが、止まらない・・・・・・。 子供みたいに泣きじゃくるボクを、雪乃先輩は強く抱きしめて。 「・・・・・・ゴメン、ごめんね・・・わたし、いなくなったり、しないから・・・・・・」 そして、突然くちづけを。 ・・・反則です。 そんなことされたら、ボク、余計泣いちゃうじゃないですか・・・・・・ねぇ? 先輩は、子供をあやし寝かしつけるように、やさしく背中を叩いて。 「よしよし、いいこだから、泣かないの・・・・・・」 そんなこと言ってる雪乃先輩も、真顔だったけど、ボクの肩は涙で濡れて・・・・・・。 「・・・・・・大丈夫。わたしは、ここに、いるよ?」 先輩の気持ちが、わからなくて。 いつもそうなんです。こんなにも近くにいるのに先輩は、とっても頭がよくて、ボクには考えも付かなくて、だから・・・・・・。 でも、先輩は、きっと、ボクのことが大好きで。 ボクも、先輩が、大好きなんです・・・・・・。 「ごめんなさい・・・」 泣いちゃって、ごめんなさい。 「・・・ごめんなさい・・・」 心配かけて、ごめんなさい。 だから先輩、泣かないで・・・・・・。 「ねぇ、セーラー服」 しばらくして、先輩がつぶやきます。 「先輩・・・?なんで、そんなこと・・・?」 本当に、よくわからなくって。 ・・・ううん?本当は、わかってるよ? 目の赤い先輩は、でも笑って。 「もうイヤだなぁ・・・・・・わたし、どこも行かないってばぁ・・・・・・」 と、照れ臭そうに笑います。 そんな笑顔が、かわいくて。 思わず、ほっぺにちゅっ。 そうしたら先輩、ますます照れちゃって! 「あ、やったなぁ〜!?」 と、先輩はいつものニヤニヤ笑いで。 ボクのくちびるを、掠めとるんです! 「・・・ハハハ、わたしの勝ち〜」 「あぁ、先輩ずるい!!」 本当に先輩は、ずるいです!! いつも一方的に、ボクの心を奪ってしまう・・・・・・!! 「・・・ううん?ずるいのは、キミだよ・・・・・・」 ・・・・・・アレ? ものすごく、やさしい笑顔・・・・・・。 そして、先輩はボクを、抱きしめて。 ・・・・・・キミはわたしの心をここまで奪っちゃったんだから。 こうなったら、とことんまで、付きあってもらいますからね!! もう、まったく、雪乃先輩ってば、ボクは耳まで真っ赤になっちゃったじゃないか!!!!! 「ハルカ?わたしはどこにも行かない・・・もし遠くに行くことになったら、キミも一緒にさらってしまうからね?」 44. ちょっと先輩!! どうしてボクは、あなたのクラスで、女子の制服になってるんですかぁ!? 「みてみて、わたしの彼氏〜」 と、先輩は大胆不敵な笑顔で、クラス中にボクのこと自慢します。 「かわいいでしょ〜」 「ちょっと堀江ぇ・・・どうして女の子連れてきて彼氏〜とか自慢しちゃってるの?」 ・・・ごもっとも。 「このコ、男の子でーす♪」 「え、ウソ!?」 クラスに人があまりいないから良いものをぉ・・・・・・。 先輩、大暴走です!! そうしたら、もう一人、大暴走している方が。 「ちょっと堀江さん!?」 と、声をかけたのは小柄でツインテールの女の子。 でも、先輩と同じ学年だ・・・・・・。 しっかし、気が強そうな・・・・・・。 「堀江さん?あなた最近、大鳥さんといつも屋上にいるみたいじゃなくて?私聞きましたよ・・・・・・」 綺麗な顔立ちに似合わず、気の強い口調で迫る先輩の同級生。 「あ〜ら六条さん?どうしたんですかぁ?」 うわ。先輩、不敵にもニヤニヤ。 あの剣幕にクールに対処・・・・・・雪乃先輩も六条さんという先輩も、なんか怖い・・・・・・。 「あらなに?その貧弱な小娘」 ものすごい傲慢な態度で、ボクをバカにして言うんです。 ボク、男の子・・・・・・。 「え?一年の井上遙クン。可愛いでしょ?あなたと違って性格も素直でかわいいんだからぁ♪」 うわ、絶対六条先輩怒る。 見るからに気の強そうな六条先輩は、怒りを包み隠そうともせず。 「なぁ〜にぃ〜!?あなた大体生意気なんですよッ!?」 え?そんな流れなんですかぁ!? 「あぁ〜らあら♪そんなにカッカしてると角生えちゃうわよ〜」 先輩は怒りを焚きつけます。 あくまでも大胆不敵なんだけど、先輩は六条さんのこと嫌いなんでしょうか? すると、雪乃先輩と仲良しの如月先輩がやってきて。 「あらぁ、雪乃またぁ?」 ・・・・・・日常茶飯事、なんでしょうか? 恐ろしいです・・・・・・。 「あ、遙君女子の制服だー」 もう、見なれちゃってるみたいです。そうだよね、なんだか最近いつもこの格好なんだもん・・・・・・。 はぅ。 「では、なぜ堀江さんはいつもいつもいつもいつも大鳥さんと仲良くしてるんですか!?」 指をビシィと、雪乃先輩に向ける六条先輩。 あぁ、イヤだなぁ・・・・・・。 放課後、なぜか雪乃先輩は、校庭に呼びだされました。 そして巻き添えの如月先輩。 「遙君、これ日常茶飯事なのよ♪」 と、笑って言います。 って、先輩いつも六条さんにちょっかい出してたんでしょうか・・・・・・。 それとも、六条さんが難癖付けてこんな調子? 「・・・・・・いつもって、どう言うことですか?」 「まぁ、見てればわかるって。もうね、六条さんは負けず嫌いなの☆」 如月先輩、おちゃめにウインクして。 でもそれを見守るボクは、ハラハラヒヤヒヤしちゃって・・・・・・。 「だいたい、恋人でもないのに、ましてやそこに井上君という可愛い彼氏がありながらなんであなたは・・・・・・ッッッ!!?キィ〜」 うわ、いつの時代の少女漫画のライバルでしょう!? 敵慨心剥き出し。恐ろしいです・・・・・・。 でも、そんな恐ろしい相手にも、まったく物怖じしない雪乃先輩・・・・・・。 「なにしろグループのリーダーなのよ、みんな結構ビビッちゃう感じ?でも雪乃、全然余裕なのよ〜。だから、意外とこのバトル楽しみにしてる人、多いの・・・」 如月先輩は、わくわくしているような口調で言います。 そしてボクは、女子の制服のまんまなんですが・・・・・・。 六条先輩は、指をさして宣告します。 「堀江雪乃さん!!今日は、50メートル走で勝負していただきますわ!!」 ・・・いったいいつの時代の人なんですか、六条先輩は・・・・・・。 その宣言に、雪乃先輩はあくまでも平静で、 「・・・あなた、大丈夫?」 ・・・・・・クールすぎます。そして、ボクの方向を向いて、 「ハルカー!応援よろしくねー!!」 ・・・とってもそんな気楽な事態には見えません。 六条先輩の取り巻きは、今にも雪乃先輩に飛びかかりそうな剣幕で睨みつけます。 ・・・・・・女の人って、怖い。 この騒ぎを聞きつけたのか、いつの間にか人が集まり始めます。 そして、騒ぎの渦中のはずの大鳥先輩が、ひょっこりと。 「やぁ、井上君」 「あ、大鳥先輩・・・・・・あれ、」 と、ボクは指をさして雪乃先輩が決闘を申し込まれたことを言います。すると、 「あぁ、いつものアレかぁ」 と、笑顔で。 「六条さんも頑張るよね・・・・・・俺も、頑張らなきゃな!」 え? 今、あなたのことで決闘してるのにィ!? 「え、大鳥さん・・・・・・?」 「彼女、堀江さんにかなわないんだけど、いつもチャレンジしてるんだよ?」 ・・・・・・大鳥さん、鈍感? いつもサッカーをやってる秋山君たちに、今日はバイトがないという仁科君もギャラリー。 「あれ?お前の彼女、なにやってるん?」 「・・・わかんない・・・・・・決闘だって」 外野は気楽です。 ボクは先輩が、心配で心配でたまらないのに・・・・・・。 「雪乃ならだいじょうぶだよ☆」 そんなボクを見かねてか、如月先輩は笑顔で。 そして、運命のときは近づきます。 「遙クン、わたしにキスして」 いつになく真剣な表情で、雪乃先輩は言います。 でも突然、どうして・・・・・・? まぁいいか、ボクは先輩のほっぺたにキス。 先輩は少し目を閉じて。 やわらかいほっぺ・・・どきどきしちゃいます。 ダメだダメだ!今は、先輩の勝負の時!応援する気持ちに、気合も入ります。 「・・・よーし、コレで大丈夫!乙女のキスは、ご加護があるのよね♪」 「ボク、乙女じゃないし第一先輩がぁ・・・・・・」 「え?あ、そっか!アハハハハ・・・・・・」 と、ニヤニヤしながら。 あ、ボクってばまだ女子の制服だァァァァァァァァァァァァぁぁぁぁ!? なんでみんな、突っ込んでくれないんだ!?困りますゥ・・・・・・。 「あ、遙制服・・・・・・まいっか、見なれたし、可愛いしな・・・・・・」 仁科君・・・また顔、赤いです・・・・・・。 でも、ボクの制服には誰も気にも留めないで・・・・・・いいのかなぁ、悪いのかなぁ・・・・・・こういうの。 今はそれどころじゃない、ってことで! そして雪乃先輩、ボクにネクタイを手渡して。 髪をとめているリボンも、ほどきます。 「今日はあのコに、勘違いだって思い知らせなきゃね・・・・・・」 「せ、先輩・・・・・・」 それって絶対、逆効果だと思うんですけど・・・。 いつの間にかプロのような格好の六条先輩と、体操着になった雪乃先輩。 ハラハラしながら、見守ります。 「・・・今日こそは、負けないんですから・・・・・・愛の力、思い知らせてやるわ!!」 もう六条先輩はとんちんかんです・・・・・・。 雪乃先輩は余裕の表情で。 「だから大鳥君は友達だってば・・・・・・ハルカ見たくせに」 妙な雰囲気を吹き飛ばすように、ボクは大声で、 「せんぱぁ〜い!!がんばって〜!!!」 ボクの声援に、雪乃先輩はあの大胆不敵な笑顔で答えました! 二人はスタート位置に付きます。 六条先輩の取り巻きの女の人が、ピストルを構えます・・・って、いつの間に!? そして声を上げて。 「位置について・・・・・・よぉ〜い、ドン!!」 ピストルがなるなり、雪乃先輩は綺麗なフォームで飛びだします。 そしてワンテンポ遅れて六条先輩が飛びだすのですが・・・・・・足がもつれて、転んじゃいます。 あっという間に、雪乃先輩はゴールへ・・・・・・。 は、速すぎです!! すると、転んだ六条先輩は猛烈に抗議を・・・。 うわぁ、怖い・・・・・・。 「あ、あなたッ!?卑怯よ、人が転んでるのに・・・・・・今のはなし、ノーカンよノーカン!!しきり直し!!」 まわりからは、ブーイングですが・・・・・・。 雪乃先輩は六条先輩を見て、 「・・・・・・もう一回、やる?」 うわぁ・・・・・・ものすごい余裕! それに一層腹を立てたのか、六条先輩はものすごい剣幕で。 「あなた・・・笑ったわね!?笑ったでしょう!?失礼極まりないわ、もう許しませんわ!!」 けれど先輩は余裕の笑顔で、 「じゃあ今日は、あなたの気の済むまで付きあってあげるわ?」 それから二人は、何度も何度も50メートル走を続けました。 当然雪乃先輩の圧勝で、それでも何度も何度も六条先輩は挑みつづけて。 グラウンドからは、少しずつ人が減っていって。それでも六条先輩はへこたれません。 「六条さんすごいねー・・・・・・勝てないってわかってるのに。ガッツあるわぁ・・・・・・」 と、六条先輩の恋する大鳥先輩は感心しています。 六条先輩はそんな大鳥先輩にも気付かず、 「まだまだぁ!!六条家の誇りに掛けて、負けるわけにはッッッ!!!!」 と、汗だくになりながら雪乃先輩にチャレンジしっぱなし。 六条先輩の取り巻きの面々が 「ねぇ六条さん・・・・・・もうやめようよ・・・」 と言うのも聞かず、再び走り出します。 ・・・・・・あ、夕焼け。 「・・・今日のところは、勘弁して差し上げますわ・・・・・・」 六条先輩は肩で息をしながら、悔しそうに言います。 雪乃先輩は余裕で、 「気は済んだ?」 と、一言。 夕焼けが、二人を照らします。 「ろ、六条さん・・・?」 取り巻きの人たちが心配そうに駆け寄ると、六条さんはその場に倒れこんで、泣きだしてしまいました。 「あぁぁぁぁ〜〜〜ん!!今日も負けてしまいましたわぁ〜!?」 あんまり大泣きで、ビックリしちゃいます。 いつもの強情さからはちょっと想像できないんですけどね・・・・・・。 「あー・・・・・・今日も雪乃圧勝かぁ」 と、飽きたように如月先輩。 「え、あの、泣いちゃってますけど・・・・・・?」 ボクは、六条先輩が少し心配になったのですけど。 「いーのいーの、いつものことだから」 と、あっけらかんと如月先輩は言います。 なだめる取り巻きにも、八当たり。 雪乃先輩も、呆れています・・・・・・。 すると突然、缶ジュースをもった大鳥先輩がひょっこり。 「よく頑張ったね。俺には真似できないよ、あのガッツ。本当根性あるね、尊敬する」 と、さわやかな笑顔で、六条先輩にジュースを手渡します。 すると、さっきまで手の付けられない駄々ッ子のような六条先輩は呆然として。 「え・・・・・・あ、あの、大鳥さん!?」 と、ものすごくうろたえます。 もう、その様子がさっきまでのあの剣幕からは想像できなくって・・・・・・。 ボクは思わず、笑っちゃいました。 周りも同じように。 「え、あの!?なにあなた達、笑ってるの!?えと、大鳥君?うそ、私、ワタクシぃ・・・・・・」 といって、その場で倒れてしまいました。 ・・・・・・ちょっと、心配です。 「・・・・・・これは意外な展開ねー・・・・・・彼女、大丈夫なのかしら?」 と、如月先輩。 そしてみんなして駆けよりますが・・・・・・。 疲れ切って、六条先輩はその場で、寝ちゃってました・・・・・・。 「じゃあ俺、心配だから送って行くよ」 と、疲れて眠りこける六条先輩を背負って、大鳥先輩はグラウンドを後に。 そして取り残された、ボクたち。 雪乃先輩は溜息付いて。 「まったくどうしようもないんだから・・・・・・でも今日は、大鳥君にしょわれてちょっとは良い思いしたかしらね?」 と、微笑みます。 「ま、良いんじゃない?」 と、ちょっと呆れたように如月先輩。 「すげーモン見た・・・・・・」 最後まで残ってた仁科君と秋山君も、驚きながら。 すると、遠くから先生が怒鳴ります。 「おいお前等!!もうこんな時間じゃないか、さっさと帰れ〜!!」 「はぁ〜い」 と全員は気の抜けた返事をすると、そそくさと学校を後にしました。 そして走りながら先輩が思いだしたように。 「あ、バイトだったんだっけ・・・?まいっか。みんな、マスターのところでお茶にしましょう!」 バイトのこと、ボクもすっかり忘れてました。 マスターは怒ってるんだろうな、と内心びくびくしながらお店に入ると。 マスターは意外にも、笑ってます。 「おぉ雪乃チャン、今日はどうした。アレだったのか?」 と、ニヤニヤしながら。 ・・・マスター、知ってたんですか!? 雪乃先輩は平然と。 「きたきた、久しぶりに例の決闘。今日は50メートル走を延々よ、笑っちゃう!」 「ガハハハハ!!お嬢さまとは『講和条約』結んだんじゃねーのかよ!!!!」 と、マスターは豪快な笑い。 聞くと、雪乃先輩と六条先輩は、一年生からのライバル・・・といっても、六条さんが雪乃先輩を勝手にライバルと思ってるだけなんですけど、事あるごとに難癖付けて勝負を挑んでは、負けてたんだそうです・・・・・・。 「最後の勝負はアレか、寒中水泳か!!結局あんまりにヤバそうで取りやめにして・・・・・・」 「どっちが提案したんですか?そんな無謀な・・・・・・」 ボクはなんだか不安になって、聞きます。 先輩はそんな人じゃ、ないですよね・・・・・・。 「雪乃チャンじゃねーよ、そんなバカなこと、なぁ!!」 「わたしは博愛主義者ですから☆」 あぁ、よかった・・・・・・そうですよね、先輩はそういう人じゃないよね。 でも、かなり攻撃的だとは思いますけど。 「そういえば、講和条約はこのお店だったわね・・・」 「そうそう。あのお嬢さま、最初さんっざんここけなし腐ってたなぁ・・・・・・」 マスターがしみじみ言います。 なんでも、古いだ汚いだ不衛生だマスターが怖いだと大騒ぎ、とか。 ・・・最後は、ちょっと当たってるかも。 「汚いだなんて、ねぇ・・・雰囲気って言うのがわからないのかしら。まだまだ未熟よね・・・」 と言いながら、先輩はマスターのコーヒーを飲みます。 ・・・ふと、マスターはボクの方を見て。 「あ、遙チャンまた制服・・・!似合ってるけどな!!ガハハ!!」 ・・・気にしてるのにぃ。 「まぁ、結局彼女はヤキモチ妬きなだけみたいですよ?好きな人がいて、彼が雪乃と仲良くしてるから・・・・・・ほら、あの、このまえ来た・・・」 「あぁ、あのハンサムか!!」 如月先輩が補足。するとマスター気が付きました。 「じゃあそのハンサムは、今は・・・・・・?」 「今日は六条さん倒れちゃって・・・・・・いま、大鳥君が送ってますよ☆」 ・・・六条先輩、少しは良い思い、できたかな? 45. アフレコと言うのでしょうか?違う気もしますけど。 今日は仁科君たちとサッカーをやっていて、その帰り道に先輩とばったり。 「あら遙クン。サッカーはどうだった?」 少し悔しそうに、雪乃先輩。 先輩はこう見えても、ものすごいヤキモチ妬きなんです。 「ハハハ・・・今日はボロ負けです」 ・・・・・・自分の側のゴールに入れてしまって、恥ずかしかったです。 「無理しないでよぉ」 と、先輩は口をすぼめて言います。 「ハイハイ」 と、ボクは笑って。 いつもの調子です。 「おう雪乃チャン、それにお友達かぁ!あれ、遙チャンは?」 突然、マスターのドアのベルがなった。扉の向こう、影二つ。 遙の姿はない。 「今日は・・・・・・仁科たちにとられたぁ〜」 と、悔しそうな雪乃。 明日香は笑いながら、 「まぁまぁ。クラスの友達と仲良くやってるんだから、いいじゃない」 と。それに雪乃は猛烈に反論する。 「ハルカ怪我しちゃったらどうするの!それに、それに・・・・・・」 「あ〜あ、すっごいヤキモチ」 あんまりなうろたえようの雪乃に、明日香は。 「遙君も雪乃にお人形さんごっこさせられるよりも、サッカーやってたほうが良いでしょうに・・・・・・」 「そんなこと・・・」 と、慌てる雪乃。 「ハハハ!まぁ良いから休めよ、いま入れてやっから」 「あのさー、一つ気になってるんだけど」 並んでコーヒーを飲みながら、ふと明日香が聞く。 「雪乃ってさー、井上君のどう言うところが好きなの?」 好奇心を含んだ眼差し。 雪乃は唐突な質問に、少し動揺した。 「えっ!?いや、それは・・・・・・」 うろたえる様子を明日香は面白そうに眺めながら。 「恋は理屈じゃないけどね、でも遙君のどこが気に入ったのかなぁーって」 「・・・どこが・・・・・・」 気が付けば、マスターはカウンターから離れている。 二人っきり、少し気まずい雰囲気。 「そっか・・・・・・どこが・・・」 明日香は笑いながら、動揺しっぱなしの雪乃を和ませるように。 「やっぱ女装?」 「う〜ん、それもあるけど・・・・・・」 雪乃は、自分の気持ちを整理するように話しだした。 「初めて合った時は屋上で、彼落ちこんでたのよね・・・・・・」 「ふむふむ」 「やたらちっちゃい子でさ、振り向いた表情があんまりにせつなくて。それでわたし、話しかけたのよねぇ・・・・・・」 「雪乃、ショタコンだモンね〜」 明日香、からかうように。 雪乃は少しむくれて、 「違うってば・・・それ聞いたらハルカ、ものすごく怒ると思うよ?」 「ハイハイ」 「でね、クラスで友達が出来ないって、しょんぼりしてるんだけど、あんまり女の子と話したことないのねー、私が話しかけたら彼、どぎまぎしちゃって」 明日香には、その情景が鮮やかに浮かぶよう。 今でも遙は、雪乃としゃべるのが照れくさいようだから。 顔を赤くしながら手振りを加えてたどたどしく話す遙と、それをニヤニヤしながら聞く雪乃。 いまでも、あまり変わってない。 「あんまり可愛いもんだから、頭撫でちゃったりしてさ。そしたら彼の照れッぷりが・・・・・・」 と、うれしそうに雪乃は回想する。 「じゃあ、一目ぼれ?」 目をくりくりさせながら、明日香は覗きこむ。 ニヤニヤ。 雪乃は少し顔を赤らめて、 「ち、違うかな・・・・・・そのときは、多分」 「う〜ん?」 雪乃は真剣な表情で、続ける。 「まぁその後もいろいろあって、ほらわたしもなかなかクラスになじめなかったじゃない?それでよく屋上で遙クンと話しててさー・・・」 明日香はふと思う。 確かに、雪乃は最初、クラスでも少し浮いた存在だった。 成績優秀、運動も出来て、それでいて不敵な態度を取っているものだから、プライドの高い人と誤解された節もある。 話してみると、案外そうでもないんだけどね・・・・・・と、明日香は思った。 「それでいろいろあって・・・・・・ある時たまたま同窓会があって、誰か一緒に行く人いないかなーと思ったの・・・何故か友人を一人連れて来いってあってねー。で、遙クンを連れていったの」 「同窓会って・・・まさか、男子禁制?」 「うん。でも、女友達もいなくって・・・ねぇ?」 「普通、そこでいくら可愛いからって遙君を誘おうとは思わないんじゃ・・・・・・」 やっぱり変わってるな、と明日香は思った。 「そしたら遙クンはばっちり似合ってしまって・・・最初はホンの冗談のつもりだったのよ・・・」 「ゴメン、冗談には思えないよ・・・事実連れてってるし」 「そぉ?まぁでもね、遙クンわたしの戯言にもよく付きあってくれてさ・・・・・・」 雪乃は、少しうれしそうに。そして、悲しそうに。 「それであんまり付き合ってくれるもんだから、いろいろバカなこと言っちゃって・・・・・・でも、ヤな顔せずに・・・。悪いとは思ってる、ホント。で、いいコだなぁ・・・って」 「・・・彼、やさしいモンね」 明日香は微笑む。 「でも実際、良いカップルだと思うよ?ホント」 「ホントそう思う?」 雪乃も笑って。 「でも遙君もしたたかねー・・・」 「!?」 「ずっと雪乃のこと、好きだったんじゃないの?だからバカなことにも付きあったんだろうけど・・・・・・普通どっかでヤになる気がするなぁー」 平然と言う明日香に、雪乃は顔を真っ赤にして。 「えっえっ?それって・・・・・・」 その様子に、明日香はニヤニヤしながら。 「辛抱強く耐えてきた甲斐もあったってワケじゃないの〜?雪乃をモノに出来たわけだし?」 「ち、違うわよ!!ハルカそんなコじゃ・・・」 「わかってるよ」 うろたえる雪乃に、明日香は微笑んで。 「単に雪乃が好きだから、答えてくれたのよ、きっと」 「・・・・・・そっか」 少し冷静に戻って、雪乃はコーヒーに口を付ける。 その様子を、明日香は見守りながら。 「そういえば・・・・・・一目ぼれって、言ってたなぁ・・・・・・」 ふと、雪乃がつぶやく。 「へぇ〜、やっぱそうだったんだ」 と、明日香はニヤニヤしながら言う。 「この前、『白状しろ!!』ってくすぐりながら聞いたのよ、そしたらハルカ口が固くってさぁ・・・・・・ようやく言ったのよ。『綺麗なお姉さんが話しかけてきたから、ボクどきどきしちゃって・・・・・・』なんて、顔真っ赤にしちゃってさぁ・・・・・・かわいかったなぁ」 と、少し顔を赤くしながら回想。 「おや、雪乃さん顔が真っ赤ですよ?」 「うるさいなぁ、もう・・・」 と、黙ってコーヒーを飲む。 「綺麗なお姉さん、ねぇ・・・」 と、隣の顔立ちの整った少女を見ながら、明日香はニヤニヤ。 「でもまさかこんな趣味が・・・なんて?」 「そうでもないのよ・・・最近、慣れてきたみたい」 「お、洗脳成功?」 「洗脳だなんて・・・・・・人聞き悪い」 少しむくれて。 「まぁ、いいんじゃない?それは男の子としてちょっとまずいけど」 「ハルカはハルカだから良いの!!」 「うわ、むちゃくちゃ・・・・・・」 「今度、どんな格好させようかなぁ・・・・・・」 苦笑いする明日香をよそに雪乃がつぶやくと。 「遙君も災難ね・・・・・・」 「何をぉ!?」 と、明日香に飛びかかってくすぐりを掛ける雪乃。 「おぉ仲良いな!!」 突然ひょっこりとマスターが現れて、豪快に笑う。 「ちょっとマスタぁ〜、このコに言ってやってくださいよ!遙君がかわいそう!」 「えぇ〜、そんなことないってば!!」 「ガハハ、いーんだよこいつ等は!!」 「・・・とまぁ、ざっとこんなもんね〜」 と、雪乃先輩は笑いながら言います。 うわ、ちょっと照れる・・・・・・。 でも先輩、ボクのこと、好きでいてくれてるんだな。 ちょっと、うれしかった。 いや、ちょっとじゃない、ものすごく!! 「でさぁハルカ?わたし、ハルカに女の子のカッコさせてばっかだけど、・・・イヤ?」 ふと、先輩が聞きます。 ちょっと、真剣な表情。 「ボクは・・・・・・」 本当は、ちょっとイヤだけど。 先輩の喜ぶ顔が、とってもうれしいから。 「・・・・・・そんなこと、ないですよ?」 と、にっこり答えます。 「そーだよね?まったく明日香ったら酷いって言うのよ!?あったまきちゃう」 ・・・如月先輩の発言にはちょっとだけ同意です・・・。 そして先輩は、いきなりボクを抱きしめます。 「ハルカ・・・・・・これからも、よろしくね」 ・・・あんまり突然で、ビックリ。 ちょっとどうしたんだろうと、気になるけど。 にっこり笑って。 「ハイ!こちらこそ、お願いしますね!!」 46. だから、なんでボクがいつもこんな格好なんですかぁ・・・・・・。 今日も今日とて、先輩のお部屋。 最近の先輩のお気に入りは、「不思議の国のアリス」。なぜか今日は先輩も、うさみみ着けて英国紳士風。 「せんぱぁい、なんでボクがアリスで先輩が三月ウサギなんですか!?」 「だってわたしにはアリス似合わないんだもの?」 ・・・確かに、先輩はどっちかというと綺麗な人だから、アリスみたいな可愛い格好は似合わないですけど・・・・・・。 でも男のボクがこの格好は、ちょっと不満。 ふとボクは聞きます。 「先輩、最近コスプレっぽいのばっかですよ?」 すると先輩は笑って。 「う〜ん・・・ハルカに可愛いの着せようと思うと、どうしてもこういう風になっちゃうのよ・・・」 と、少し困ったような表情で。 う〜ん・・・・・・先輩、最近暴走気味。 「同じアリスなら、どうせならかっこいいブラックバーンが良いです・・・・・・」 弾幕シューティング『ケツイ〜絆地獄たち〜』の、主人公。 弟思いな、かっこいい人です。 「あぁケツイの・・・でも、ハルカには似合わないよ〜・・・」 と、ニヤニヤしながら言います。 「そしたらわたしはエヴァンズマンかな・・・『後で私のオフィスに出頭するように』なんて」 愛する人(男)のために自らの命を投げうった漢。 うわ。 ボクはいつも先輩の牙城に呼びだされているわけですが・・・・・・。 「あ!東方のアリス・マーガトロイド!!」 え・・・あの、ひらひらな魔法使いですかぁ!? 「やっぱハルカにはかわいいのが似合うわ、うんうん」 ボクだってたまには格好良い格好がしたいです・・・・・・。 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! 47. 土曜日の『大バク天!』、とっても面白かったです。 お腹を抱えて笑っちゃいました。特にハードゲイとか、あとハードゲイとかハードゲイとか。 ・・・ゴメンなさい、ハードゲイしか見てませんでした・・・・・・。 それにしても、レイザーラモンさんはあの格好でいつも街に出て撮影してるなんて、ものすごいです。恥ずかしく、ないのかなぁ・・・・・・。 ・・・・・・よく考えたら、時々女の子の格好して街を歩いてるボクも、大差ないですかねぇ・・・・・・? ・・・はぅ。 月曜日。 雪乃先輩と会って、ボクは普段と同じように朝の挨拶。 「先輩!おはようございまーす!!」 すると、雪乃先輩は意外な行動を。 「おはようございますフォォォォーーーー!!」 ・・・・・・レイザーラモンの真似。 ボクはビックリすると共に、唖然。 ・・・せんぱぁい、恥ずかしいですよぉ・・・・・・。 「せ、先輩・・・朝からそれは・・・・・・」 「おはようハルカ!!バク天面白かったよねー」 と、すぐいつも通りに戻って。 「お、面白かったですけどぉ・・・先輩が真似すると・・・」 ものすごく、ヘンです。 「なに?遙クンふぉ・・・」 「先輩やめてよっ!!」 と、とっさにボクは雪乃先輩を取り押さえます。 すると雪乃先輩、正気に戻って。 「あ・・・遙クン、ごっめーん♪」 まったく、もう・・・・・・恥ずかしくないんですかね!? すたすたと歩きながら、ふと雪乃先輩がボクに聞きます。 「ねぇ遙クン・・・ひとつ聞いても、いいかな?」 心配そうな表情で。 ボクも少し、不安になります。 「・・・最近仁科たちと仲良くしてるじゃない?その・・・・・・ハルカ、そっちの気はないよね!?」 ほんっとうにものすごい真剣な表情で、聞いてくるんです。 思わずボクは、笑っちゃいました。 「あぁ!何がおかしいの!?わたし本当に不安で・・・」 「なに言ってるんですか、まったくもぅ・・・。ボクが好きなのは、先輩だけですよ♪」 ボクは明るく答えます。 そして、抱きついて。 「・・・・・・そっか、よかったぁ・・・ハルカがハードゲイに走っちゃったら、イヤだモン・・・・・・」 まったく先輩ってば、なに言ってるんでしょうね!? すると、抱き合うボクたちを仁科君が通りすぎます。 そして二人に気付いて、挨拶。 「よぉ!遙フォーーーーーー!!」 あぁまた・・・・・・バカばっかりです・・・。 「おはよー・・・仁科君、朝からなにやってんの?まったく・・・」 と、すこし憤慨して言います。 「わりぃわりぃ、土曜のハードゲイが面白かったから、つい・・・」 「まったく。人前で恥ずかしい・・・そんなことやっちゃ、ダメだよッ!?」 「へぇ〜い・・・」 そんな感じのやり取りを見て、雪乃先輩は何故か、 「うわぁぁーん、また仁科にハルカ取られた!?まさか仁科アンタ、ハルカに気があるんじゃないでしょうね!?そんな、そんなハードゲイな展開だなんてぇ!!」 と、先輩は走り去ってしまいました。 残されたボクは、仁科君に一言。 「まったくもう!仁科君のせいだからねッ!?」 と怒って、走る先輩を追いかけました。 「・・・まったくよぉ・・・ただの冗談じゃねーかよ?・・・お、秋山!!おはようフォーーー!!」 「朝は動揺しちゃってさー、ゴメンね?」 かわいく手を合わせる先輩。 朝のどたばたを引きずった、昼休みの屋上で。 「だいたいボクが好きなのは先輩だけだって、言ったばかりだったのに・・・・・・」 「あら?二人ともどうしたの?」 今朝の顛末を知らない如月先輩が、興味津々で聞いてきます。 「今朝も仁科にハルカを取られたのよぉ・・・」 「だから違うって言ってるじゃないですか!」 如月先輩は冷たい目でボクらを見ます。 「なにその夫婦漫才、ふざけてるの?」 「なんだとぉ!?」 と、雪乃先輩は如月先輩の頭をわしゃわしゃします。 「うわっ雪乃、何すんのよ!?」 まったく、先輩ったら・・・・・・。 「いやね明日香ぁ・・・今朝、仁科にハルカ取られたの」 「何それ?」 「違いますよぉ!!」 と、ボクたちは笑います。 「だからね?ハルカと仁科がハードゲイな関係なんじゃないかとちょっと心配したのよ」 「だからなんなんですかそのヘンな心配は・・・・・・」 先輩は本当に心配性? 「へー、そんなに怪しかったの?」 と、如月先輩はニヤニヤして。 「だって仁科ってば、『遙フォーーーー!!』なんて言っちゃってさ?」 「それはただのHGの真似では・・・・・・」 如月先輩、呆れてます。ボクも。 第一先輩、ボクに対して同じ事やってませんでした? 「でもさぁ明日香?時々仁科ヘンなんだよ?ハルカが女装すると顔赤くしてるし・・・・・・」 ・・・確かに、それはある。 でも、それはただ単に友達が女装してるのがヘンに思えるだけじゃないかと、思うのですが・・・。 「雪乃、それ考えすぎ」 「そうですよ!それに言ってたじゃないですか、『永遠にハルカはわたしのものだ』って!」 とボクが、笑いながら言ったら。 「うわ・・・・・・何それ、告白したときの?」 「ハイ!!」 「あぁっハルカぁ・・・なんでそんなこと言っちゃうのよ〜」 と、先輩は顔を真っ赤にしてぽかぽか。 わわ、止めてください!! 「・・・大丈夫ですよ、ボクはずっと先輩に付いていきますから!」 「あぁもう遙クンてば・・・。でも安心した、やっぱわたしのこと、好きなんだね☆」 ・・・面と言われると、照れちゃいます・・・・・・。 「あ、ハルカぁー。今日はHG仁科は?」 「HGって・・・・・・。今日は秋山君と一緒だって」 「ふぅ〜ん」 すっかり安心したせいでしょうか?先輩は興味なさそうに言います。 「ところでさ・・・仮に仁科君と井上君が出来てたとしても・・・・・・」 ふと、如月先輩は妙な例えを持ってきます。 「うわ、明日香ぁ!?」 「あぁもう例えよ例え!!そんなんでなんで驚くのよ・・・・・・」 まったくです。 雪乃先輩、ボクのことになるとヘンに心配性です・・・・・・。 ・・・・・・でもそれって、それだけボクのことが好き、って事なのかなぁ? そうだと、うれしいなぁ・・・。 「でも仁科君と遙君じゃ、ハードゲイと言うよりむしろショタ・・・だと、思うんだけど」 !? 「ちょっと如月先輩?その言い方も・・・・・・」 「そっか。そうだねー可愛すぎてハードゲイじゃないよねぇ?」 先輩はヘンに納得して。 なんか複雑・・・・・・。 すると突然、雪乃先輩はさらにヘンなこと、言いだすんです。 「わたしちょっと思ったんだけど、遙クンがHGの格好したら・・・どうかなぁ?」  ! ? 「なにそれぇ・・・ハハハっ」 「だから、あの格好って手足がけっこうアレじゃない?ハルカが着たら、綺麗な手足が際立つかなぁ、って・・・・・・」 「もうっ!先輩何いってるんですか!!恥ずかしいですよ!?」 すると如月先輩も雪乃先輩もニヤニヤして。 「へぇ〜?じゃあ女装は恥ずかしくないんだぁ?」 「なるほど、そういうこと・・・・・・」 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!? 48. テストが終われば、夏休み、というこのごろ。 まだまだ梅雨は続いてますが・・・・・・窓の外眺めて、憂鬱。 「う〜ん・・・相変わらず雨、雨、雨・・・イヤンなっちまうぜ」 と、マスターがぼやきながらコーヒーを入れます。 今日は、マスターのお店で一緒に勉強会。 それにしても奇妙な面々だと思います。1年はボクと、仁科君と秋山君、そして三国さん。2年は雪乃先輩と如月先輩、大鳥先輩、そしてあの六条先輩も! 「堀江さん?今度のテストでは負けなくってよ!?」 と、眉間にしわを寄せて言う六条先輩に、雪乃先輩はノートをめくりながら平然と 「はいはい、頑張ってくださいな。わたしはわたしで頑張るから」 と、返します。 確かに勉強は自分との戦いですが、一方で目標があればもっと頑張れるのも事実。 なんだか面白いなー、と思いながら、ボクも数学の問題を解きます。 「みんな頑張るねぇ・・・俺も昔は苦労したもんだ・・・まぁ、今でもコーヒーのことで苦労してるわけだけどな・・・・・・」 と、マスターは難しい顔をしながら言います。 「何?コーヒーで苦労って」 雪乃先輩が聞きます。するとマスターは困った表情になって、 「夏と言えばアイスコーヒーだろ?でもよぉ、イタリアにはアイスコーヒーって基本的にないわけよ・・・だからこう、試行錯誤してるわけなんだけど・・・上手くいかねえ、香りが死んじまう・・・・・・」 ・・・みんな、苦労してるんだなぁ・・・。 外の雨脚は、強まって。 しとしとと、リズミカルに音を立てます。 それにポタンポタンと、演奏も加わって・・・・・・!? 「いけね、水洩れしちまってら!!」 ・・・・・・お店の改装もぼちぼち必要、みたいです。 「あらあら水洩れ?なんてしょぼいお店なのかしらねぇ?」 六条先輩はまたマスターのお店を侮辱します。 「うるせえな、客席には洩れてねーんだから大丈夫だろうが・・・資金が溜まったら改装する予定なんだよ」 と、ちょっと不機嫌にマスターが言います。 「ガキのおもりも楽じゃねーな・・・」 と、マスターの苦笑。 なんだかんだ言って、ボクたちの相手をするのは楽しいみたいです。 「・・・・・・早く、夏にならねえかなぁ・・・・・・」 盛大な雨漏りを眺めながら、マスターはまたぼやきます・・・。 青い空、白い雲。咲き乱れる色とりどりの夏の花、鮮やかな深緑。 みんな、夏が待ち遠しいみたい。 こう、陰鬱な雨が続くと、余計みたい。 ボクは雨も結構好きなんですけど・・・・・・。 そしてふと、先輩がつぶやきます。 「ねぇ、ハルカ・・・みんな、今年はどこか遠くへ行きたいねー・・・・・・」 あんまりに突然だから、ちょっと驚いたけれど。 「遠くへ・・・・・・いいですね。みんなで、どこかへ」 どこか、遠くへ・・・・・・。 「おまっとさん、試作品」 と、マスターが全員にアイスコーヒーを持ってきてくれます。 「・・・試作品?」 きょとんとした表情で、三国さんが。 「あぁ・・・・・・俺、アイスコーヒーはマトモに入れられた試しがねーのよ・・・今日は幾分かマシにはなったが、まだまだ・・・・・・」 三国さんは、グラスに注がれた黒い液体をじっと見つめます。 「・・・・・・黒水晶・・・・・・」 うっとりと、眺めています。 マスターはその様子に、 「お嬢チャン、コイツは見るもんじゃなくて飲みモンだからよ、ちょっと飲んでみてよ」 と、促します。 三国さんはマスターの顔をぼんやりと見ましたが、その後すぐにアイスコーヒーに手を伸ばして。 こくりこくりと、少しずつ飲みます。 「・・・・・・美味しい・・・・・・」 と、三国さんはほぅっ、とした表情で感想を。 とっても可愛い表情で、仁科君も秋山君も少しドキッとしています。 「おぉウマイか?そっか、でもまだ何か足りねぇ・・・」 マスターは難しそうに言います。 「あら?まだ足りないって?」 と、雪乃先輩がアイスコーヒーに口を付けて。 その仕草に、ボクはドキドキしてしまって・・・。 「う〜ん?何が足りないのかしら?香り?苦味?」 先輩は平然と。 マスターは悩んだような表情で、 「多分両方だな・・・・・・参ったことにどうも冷やすと香りが死んじまう」 「コーヒーの生命線だものね・・・」 雪乃先輩も一緒に。 う〜ん・・・やっぱり、難しいんですね・・・・・・。 「今年、みんなでどこか行かない!?海とかさ、山とか、どこか遠くへ・・・」 唐突な、雪乃先輩の提案。 一同、突然の提案に少し呆然としていたものの、 「へぇ〜、面白そうじゃない?」 「いいね、どこいこっか?」 と乗ってきたのは如月先輩と仁科君。 「俺はどうせなら海水浴が良いな・・・・・・」 と、大鳥先輩も。 「・・・私は・・・えっと・・・」 と戸惑いながらも、楽しそうな三国さん。 「海だったらビーチバレーやろうぜ?」 と、秋山君。 「いいねーやりたいなぁ・・・オレ何年もやってねーよ」 と、仁科君も笑います。 雪乃先輩はボクの方を向いて、 「ねぇ、ハルカは・・・・・・?」 と、ボクの目をじっと見つめて、聞きます。 ・・・・・・海だったら、せ、先輩の水着姿が・・・・・・。 ・・・ちょっとハレンチな想像、しちゃいました。ゴメンなさい。 ボクも笑って、 「いいですね・・・行きましょう!!」 と、答えます。 そして何処へ良くか、盛りあがって。 「良いじゃねーか面白そうでよ・・・青春だねぇ・・・。俺にもこんな時代が・・・」 と、マスターしみじみ。 雨は相変わらず、しとしとと。 ・・・六条先輩一人が、むっつりしています。 「フン・・・この私が、あんな連中などと・・・ッッッ!!」 プライドの高い、お嬢様らしいといえばらしいです。 「あの・・・六条先輩は、」 と、ボクはちょっと気になって雪乃先輩に言います。 「・・・行きたくないんなら、良いんじゃない?」 と、先輩はそっけない答え。 ボクは少しだけ、さみしい感じがしました・・・・・・。 でもそのとき、大鳥先輩が六条先輩の隣に座って、 「あれ?キミは?折角だから一緒に行こうじゃないか・・・きっと、楽しいよ?」 と、まぶしい笑顔で六条先輩を誘います。 大鳥さん、やさしいな・・・・・・。 そして六条先輩は突然の大鳥先輩の誘いに動揺して。 「え・・・お、大鳥さん!?あの、いえワタクシ、その、そんなつもりは・・・・・・」 と、顔を真っ赤にしてうつむきながら、言います。 「でも、お、大鳥さんが言うなら、折角ですから・・・・・・い、行こうじゃありませんか?でも別にあの連中のためではありませんのよ!?その、・・・気が変わっただけですわ!?」 ・・・六条さん、よっぽど大鳥さんが好きなんだなぁ・・・・・・。 「みんなー、六条さんも行くって!!」 と、大鳥先輩が大声で。 六条さんは顔を真っ赤にして照れちゃって! 「うんうん、予定調和ね」 と、雪乃先輩はニヤニヤして。 ・・・・・・もしかして、狙ってた? その後はみんな勉強が手に付かなくなって、とうとう夏休みの予定をみんなで考え始めて。 「おーいお前ら、勉強しないんだったらウチ帰った方が良いんじゃねーか?もういい加減7時になるぞ?」 とのマスターの一声で、今日は解散。 雨脚はだいぶ弱まって。 そして夏休みを心待ちにしながら、みんな別れていきます。 帰り道、先輩とボク二人きり。 突然、先輩は自分の傘を畳んでしまいます。 「折角だから、あいあいがさ〜♪」 と、ボクに抱きついて。 「わわっ!?先輩、濡れちゃいますよ!?」 「い〜のい〜の。どうせ帰ったらお風呂はいるし・・・たまには、ね」 と、むぎゅっとしたまま言います。 ボクはなんだか、照れくさくて。 でも、バランス悪いよなぁ・・・・・・どうしよう? 「ねぇハルカ・・・ちょっと遠回りしても、いいかな?」 と、唐突に聞きます。 先輩、いつも唐突。 嫌いじゃないですけど、ね。 「いいですよ?どこ行くんですか?」 「いいからいいから」 と、先輩はボクの手を引いて。 気が付けば、雨はすっかりやんでいます。 走って走って、たどり着いたのは空き地。土管がいくつか放置してあって、ちょうどドラえモンに出てくるような空き地です。 空がぽっかりと空いて。 「・・・ここ、どうしたんですか?」 ボクは気になって聞きます。 「・・・・・・」 先輩は黙って空を見ています。 厚い厚い、雲の彼方を見つめるように・・・・・・。 そして、いきなり質問。 「ハルカ、木登り得意?」 ・・・自慢じゃないけど、いつもこの手の遊びでは置いてけぼり食っちゃってました。小さいころ。 「・・・あんまり、得意じゃないなぁ・・・・・・」 すると先輩、手を出して。 「じゃあつかまって?木登りしましょう!!」 と、空き地の真中に生えている大きな木に登り始めます。 ボクは手間取りながらも、先輩の手に助けられて。 それにしても先輩はするすると登っていきます。まるで・・・ 「サルみたい、ハハハッ」 「あぁ〜笑ったな?このこのぉ」 と、枝を揺らしてボクにぶつけます。 わしゃわしゃ。 「ウワッ!?せんぱぁい・・・」 「男の子と一緒になって遊んでたからね、小さなころは」 と、笑います。 おてんばだったんですね、先輩! 木の頂上近く、水平に伸びたひときわ太い枝に先輩は腰かけて。 「ハルカぁ〜、こっちこっち!」 ボクも恐る恐る、その枝を伝って、座ります。 「うわぁ・・・・・・」 ちょっと、怖かったけど。 木の上から眺める景色は。 「・・・・・・綺麗でしょ」 と、先輩がボクを見て。 ときめくような、その表情。 ボクは見たことない顔に、ドキッとしました。 幼稚園くらいのころの、おてんば少女の瞳で。 「なんか、見ててドキドキしてこない?」 ボクは、恐る恐る、景色を見ました。 ・・・・・・宝石箱のように、街明かりが小さく瞬いて。 今まで気が付かなかったけれど、こんなにも綺麗な景色・・・・・・。 ボクは、感動してしまって。 「うわぁ・・・・・・」 「どぉ?わたしこの景色が好きなの・・・でもね?」 先輩が、ボクをまた見つめて。 ボクも、先輩も見つめます。 ・・・悲しそうな瞳・・・・・・。 「ここ、もう、家が建っちゃうんだって」 この景色が見られるのも、あと一週間だそうです・・・。 「わたしのお気に入りの景色、消えちゃう前に、ハルカに見せたくって・・・」 と、さみしそうに、笑うんです。 「悲しいよね?小さいころからの思い出の場所が、消えちゃうなんてさ・・・・・・」 先輩は、笑っていたけれど。 その笑顔が、今にも壊れてしまいそうで・・・・・・。 ボクはふと立ち上がって・・・。 うわ!? バランスを崩して、おっこちそうに。 「ハルカ!?」 先輩がボクを支えながら。 「まったくもう・・・どうしたの?」 本当に心配そうに、聞いてきます。 ボクは近くの枝につかまって、やっとこさバランスをとりながら。 「ゴメンなさい、ちょっと写真をとろうと思って」 このまま消えてしまうのが、さみしいから。 先輩の思い出がなくなってしまうのが、悲しいから・・・・・・。 あいにく、ケータイのカメラしかないですけれど。 「まったくもう・・・心配したんだから」 と、ちょっと怒った口調で先輩。 でも、少しだけ、うれしそう。 「でも・・・ありがとうね?」 ・・・先輩は笑顔で言いました。 少し、悲しそうだったけれど。 ボクは、なにも言えなくて、それで写真をとり始めました。 「・・・ハルカ、」 突然先輩も立ちあがります。 さすが手馴れたもので、近くの枝に手を伸ばして、バランス良くすっくと立ちあがる。 その拍子に枝がしなって、ボクの方が少しぐらッと来てしまって。 先輩が片手で、ボクの身体を抱きかかえてくれます。 「無理しないで・・・?」 「大丈夫ですよ!心配しないで」 と、ちょっと震える声で答えます。 その様子を先輩は心配に思ったか、良くわからないけれどボクからケータイを奪って。 「うん、こっちの方が綺麗なんだよ?」 なんて言いながら、写真を勝手にとります。 先輩が写真をとった方向を見ると、なるほど凄い景色。 夜のとばりが降りる直前の、独特の深い青に、色とりどりの明かりがパラパラと瞬いて。 「綺麗でしょ?」 「・・・うん」 ボクは、先輩が写真をとるのをじっと見守っていました。 その後ろ姿はなんだかとっても悲しそうで、切なくて、別れを惜しむ姿のようで。 先輩はとうとう、ケータイのメモリいっぱいまで写真を撮り貯めてしまいました・・・・・・。 「あ、ハルカありがと・・・ゴメンね?」 ・・・先輩はボクにケータイを返します。 また二人肩を並べて、座り込んで。 でも先輩は、なにかまだ、と言う様子でした。 「あぁ・・・今日はダメだった、かなぁ・・・」 先輩は悔しそうに声を絞りだします。 「どうしたんですか・・・?」 「まだホントはね?ハルカに見せたいものがあって・・・でも、今日は、」 さみしそうに、うつむいて・・・・・・ 「・・・ダメだった。ゴメンね?ハルカ・・・・・・」 ものすごく、申し訳なさそうな、元気のない声。 さっきまでの元おてんば少女のかけらも見当たらないような、切ない声・・・・・・。 あまりに先輩を見るのが辛くなったから、ボクは。 「・・・・・・!?は、ハルカぁ・・・・・・」 雪乃先輩の、ほっぺに、ちゅっ。 赤くなって、先輩はうなだれちゃって。 「だって先輩、悲しそうで・・・・・・。少しでも、元気になれば良いなって、思って・・・・・・」 でも、雪乃先輩は、相変わらず悲しそうで・・・・・・。 「違うの、なんていうか、違うのよ・・・・・・遙クン、うれしかったけど、違うの・・・・・・」 ・・・・・・本当は、わかってます。 なんで先輩がこんなに悔しそうなのか・・・・・・。 まだなにか、あったんです。きっと。 今日はダメなのかもしれないけれど・・・・・・? 先輩を見るのが辛くって、思わずそっぽ向いてしまったら。 目に飛びこんできた、鮮やかで大きな大きな沈む夕焼け・・・・・・。 そして、夕焼けの赤に照らされる街、縁取りに夜の帷の深い青。 ・・・綺麗な夕焼けに照らされる先輩の後ろ姿、悲しそうな横顔。 すべてが、あまりに美しくて。 ボクは声を出そうとしても、 「あっ」 という、すっとんきょうな声しか出せませんでした・・・・・・。 「ハルカ?・・・・・・!!」 ボクの声に振りかえった先輩は、思わず息を飲んで。 あまりにまぶしい黄昏に、目を潤ませて言いました。 「あ・・・・・・間に合った、間に合ったよ、ハルカ!!」 ボクは声も出ません。 すっかり、夕焼けに魅せられて。 それに気付いて、先輩がボクを抱きしめながら言います。 「ねぇハルカ・・・・・・わたし、小さいころは、落ちこむことがあると良くここに来て、あの夕日に叫んでたの・・・『バカヤロー』ってね・・・おかしいよね、あんな綺麗な夕日に、あんなやさしい夕焼けに『バカヤロー』だよ?子供のころのわたし、わかってないなぁ・・・・・・」 ふと先輩の台詞に戻ってきて、ボクは瞳を閉じて、小さなおてんば少女の叫ぶ姿を想像します。 小さな女の子が、目にいっぱい涙浮かべながら、バカヤローって、力の限り叫ぶんです。 でもあのやさしい夕焼けは、じっと、その女の子の言うことを聞いてくれて・・・・・・。 ・・・・・・わかった、気がする。 「先輩、違いますよ。あんなにやさしい夕焼けだから、きっと聞いてもらいたかったんですよ」 と、笑顔で言います。 けれど、ボクの目には、何故かいっぱい涙が浮かんでしまうんです・・・・・・。 「あぁもうハルカってばぁ・・・・・・」 先輩はやさしく微笑みながら、ハンカチでボクの目の涙を拭ってくれます。 そして、ボクにやさしく、語りかけます。 「わたし、小学校から全寮制のところに入ってたの・・・。それでね?入学式の前日だったかな・・・みんなとお別れするのがとってもイヤで、一人この木の上に座ってずっとずっと泣いてたの」 遠い日を思いだすように、あの日の足取りを一歩一歩たどってゆくように。 先輩は、丁寧に、その日のことを語ります・・・。 「ずっとずっと、泣いてた。本当あのとき、どこから涙が出て来るんだろうって思うくらいに泣けちゃったわ?それでようやく泣きつかれて、名残惜しくってずっとここからぼんやりと景色を眺めてたの・・・・・・」 いつの間にか、先輩は、ボクをなだめるように頭をやさしく撫でます。 「ひとりで、ずっと。だから余計に切なくてね?まったく、バカだよねぇ・・・お別れするお友達に挨拶くらいすればよかったものを、けっきょくその日ずっと木の上にいたんだから・・・」 ボクは先輩の話を、黙って聞きます。雪乃先輩に、やさしく頭を撫でられながら。 少し、顔が赤くなっちゃいます。 「で、ようやく落ちついたところで、この夕日。もうね、子供のわたしは舞い上がっちゃって、初めてそのとき、夕日に言ったのね?・・・・・・」 ボクの顔を、やさしい瞳で、じっと見つめながら。 「・・・・・・『ありがとう』って・・・ね?」 気が付けばもう星空。 木の上から眺める夜空は、まるで別世界。 先輩は明るく言います。 そのめには、涙がうっすらにじんでいたけど。 「・・・聞いてくれてありがと。わたし、少しだけ元気が出た」 と、小さくガッツポーズ。 ずっと聞いていたボクはニヤニヤしながら、 「えぇ?少しだけ、ですかぁ?」 「うん、少しだけ・・・・・・ゴメンね」 と、さみしそうな雪乃先輩は。 ボクはちょっとだけ、この木とあの夕焼けにジェラシーを感じてしまいました・・・・・・。 「お別れだから、哀しいの」 と、先輩はおちゃめに舌をペロッと出して。 でも、とっても悲しそうに・・・・・・。 「そっか・・・この木も、お友達だったんですね」 ボクもつられて少し悲しくなって。 「そぉそぉ!この木にはいろいろお世話になったわ〜?例えば小学校のころなんて脱走の常習犯でね?」 お嬢様学校のおてんば姫ですか・・・・・・想像できます。 「それでこの木の上に登って、いっつも『バカヤロー』!!笑っちゃうよね・・・」 「脱走って・・・厳しかったんですか?」 ちょっと気になります。 「ううん?そりゃあ怒られはするけれど、別に悪いことしたわけじゃないし。なんだかんだ先生の方が酷かったりして。だって、時々宿直の先生が抜け出しては居酒屋ハシゴよ?笑っちゃうわ・・・一度なんて新聞部にすっぱ抜かれて」 「もしかして、その新聞部って・・・・・・」 先輩はにっこり笑って。 「鋭いねぇ〜!わたしは新聞部じゃなかったけど、そのスクープを提供したのはわたしだったのよ!!もう先生のリアクションったら痛快でたまらなかったわぁ〜!!」 うわ! おてんば少女だった小さなころと、大胆不敵でクールな今がクロスして。 あぁ、先輩は昔からそうだったのか・・・・・・。 すると、先輩はふと切ない表情に戻りました。 「・・・あのときも、この木の上から激写したのよね・・・・・・まぁ気付かれなかったものねぇ・・・・・・」 そうか。 思ったよりも、先輩とこの木の思い出は深くって。 ボクは少し、ヤキモチ。 ・・・・・・でも、もうすぐ切られてしまうのか・・・・・・。 そう思うと、先輩でなくても、悲しくなってきちゃって・・・・・・。 「あぁもう、どうしたの?」 また涙が・・・・・・。 「まったく・・・キミはどうしてこう、泣き虫さんかなぁ?」 と、先輩は困ったように言います。 でも、笑って。 「・・・・・・でも、そんなキミが、わたしは好きなんだけどね」 この空き地、ボクも思い出があるんです。 なんとなく、言いだせなかったんだけど。 それを言おうとした矢先、先輩が。 「そういえば、ここから遙クン見かけたことあったなぁ・・・・・・?」 と、ニヤニヤしながら言います。 「え?アレ?ボク、先輩と会った事、ありましたっけ?」 と、ボクはあたふたしちゃって。 先輩はクールな表情で、 「ううん?わたしはここから見てただけだけど・・・」 と、遠き日の回想。 それにしても先輩、良く覚えてるんですね・・・・・・。 「確かハルカ、土管の上に座ってたのよ。しょんぼりして。あのときは・・・そうねぇ、わたしが中学2年かしら?小学3年生くらいに見えたのよね・・・・・・」 ・・・・・・先輩が2年のときは、ボク中1だったんですけど・・・・・・。 「それで声かけたことが一度だけあったわ?『どーしたのキミ?』ってね・・・。そしたらそのコはめそめそしちゃってね・・・・・・」 ・・・それ、覚えてないです・・・恥ずかしい。 「遙クン覚えてない?そのときわたしがヒュッと飛び降りたら、ものすごい顔でビックリしちゃってね?それで、あんまりかわいくって頭撫でちゃった☆」 先輩は無邪気な顔で。 その顔を見て、ボクはふと思いだしたんです。 「・・・思いだした、大声で叫んだんですよね!?『危ないッ!!』って」 「そうそう。それで・・・」 「確かボク、抱きしめられちゃいました・・・」 あのとき、ものすごくドキドキしたっけ・・・・・・。 綺麗なお姉さんに、ぎゅっとされちゃって・・・。 「こんな風に、だよね?」 と、先輩は無邪気に飛びつきます。 ワワッ!?危ないし、ビックリしちゃう!! 「・・・・・・そうそう。あのときもキミは、華奢だったなぁ・・・男の子の格好だから辛うじてわかったのよ」 「せんぱぁい・・・・・・」 あのころからボクって、やっぱり貧弱だったんだなぁ・・・・・・。 「まさか今こうして、二人並んでるなんて・・・ね」 それから二人は、星を眺めてました。 ずっと、無言で。 時々二人、見つめあったりしながら。 とっても幸せな時間が、流れました・・・・・・。 「じゃあ遙クン、そろそろいこっか?」 ふと、つぶやきます。 もう、ケータイの時計は8時近く。 「そうですね・・・」 と、言いかけると。 ちゅっ。 突然で、ビックリ!! 「良い思い出に、なったかなぁ・・・・・・?」 そっか。コレで最後、なんだ・・・・・・。 笑顔でお別れ、したいですよね。 「先輩こそ・・・・・・この木とのお別れ、良い思い出になりそうですか?」 「そーねぇ・・・、最後には彼氏をご紹介できたし、良かったんじゃないかな?」 と、雪乃先輩は笑って言うけれど。 その頬には、うっすら涙。 そして、ボクに抱きついて。 切ない声で、言うんです。 「ねぇハルカ・・・?少しだけ泣いても、いいかな・・・・・・?」 ボクは黙って、うなづきます。 先輩はボクみたいに大泣きはしなかったけれど、ちょっとだけ、すすり泣くような声が聞こえたり・・・・・・。 すっかり子供みたいに、ボクに顔をうずめて。 あのころのおてんば少女の、面影なのかな・・・・・・。 先輩は最後に、お世話になった木に抱きついて。 ぎゅっと、抱きしめた。 いつもボクをぎゅっとするように、強く抱きしめた。 先輩のこの木への愛着をボクが知るすべは少ないけれど、本当に好きだったんだな・・・・・・。 ちょっとだけ、切なくなって・・・・・・。 「ハーイ、チーズ☆」 と、ボクは先輩と木を撮ります。 「アレ、ハルカ?もうメモリー残ってないんじゃなかったの?」 と、平然と言って見せたけれど。 顔が少し、赤いですよ? 「あぁもう・・・恥ずかしいなぁ・・・・・・消しといてよね?」 「ヘヘヘ、じゃあボクだけの秘密にします」 と、ボクは悪戯っぽく笑って言いました。 「めずらしい、ハルカこんな顔するなんて・・・」 と、先輩は苦笑い。 ここを長年見守ってきた木とかつてよく木登りしたおてんば少女のツーショット、結構絵になってます。 だから、消さないで、いいですよね? 「・・・・・・でも、いっか。良い思い出、なのかな?」 そして空き地を後にします。 先輩は名残惜しそうに、木を見ながら。 あんまりに、切なそうな表情なので。 ボクは、手を振って。 「バイバイ、またね?」 先輩はきょとん、として。 「あれ?ハルカ、どうして、また?」 ボクは笑って答えました。 「だって、ただ『バイバイ』じゃ、あんまりに悲しいじゃないですか・・・。だから、いつかまた会えると、信じて」 そう、きっといつかまた会えますよ・・・。 「良くどんぐり拾いとか、しませんでした?きっとこの木の子供も、どこかで元気ですよ・・・・・・」 そう。きっと、どこかで。 「そっか・・・そうだよね、きっと」 先輩は笑いました。 少しその横顔は、さみしそうだったけれど。 切ないけれど・・・・・・。 「じゃあ、またね・・・きっと、どこかで」 翌日の帰り道、空き地に行くと、工事が始まっています。 「あぁ・・・意外と、早かったね・・・・・・」 先輩はさみしそうな表情で。 どんどんならされて行く地面に、切なさを覚える・・・。 そしてあの木のあった場所にも、もうその立派な姿はなくって。 でも・・・・・・。 「あれ?掘り返してある・・・・・・」 「ホントだ」 ボクはボーッとしてました。 そしたらその隙に先輩、射も矢もたまらなくなって、工事の人に聞きます。 「あ、あの・・・あそこにあった木は、どうしたんですか!?」 工事現場の人はヘンな顔をしながら、 「う〜ん?あぁあの木・・・・・・なんかねー、『昔からあって愛着があるから欲しい』って人がいてねぇ・・・。ウチじゃただ切っちまうだけだし、土地の持ち主もいいってから、じゃあいいやって・・・」 と、答えます。 先輩はお辞儀して、 「ありがとうございましたッ!」 と、うれしそうに言います。 戻ってくるなり、 「よかったぁ・・・・・・あの木、どこかの人にもらわれてったって!!」 雪乃先輩、本当に安心した様子で。 ボクもなんだか、うれしいです。 「・・・あ〜今日も、お勉強会だったッけ?すっかり忘れてた・・・」 ・・・ボクはてっきり、ここを確認してから行こうとしてたんだと思ってましたが・・・・・・。 意外とうっかり屋さん? 昨日と同じメンバーは、マスターのお店の前で待ちくたびれてました。 「雪乃〜?おそいよぉ〜」 如月先輩が、雪乃先輩の顔を見るなり。 「ごめ〜ん☆ちょっと野暮用があってさ♪」 と、うれしそうに答えます。 「あ、遙君と抜け駆け?」 如月先輩はニヤニヤして。 「違うよ〜♪」 と、雪乃先輩はうれしそうに。 そしてみんな、マスターのお店に入ります。 でもいつもと少し違う感じが・・・・・・? お店に入るとマスターは、なぜか機嫌が良さそうです。 なんか笑顔なんですが、その笑顔が今日の雪乃先輩と同じ感じ・・・・・・。 「おぉみんな!今日はきちんと勉強しろよ〜?」 「マスタぁ〜、今日は夏休みの予定を立てに来ましたけどー・・・」 「おいバカ!?学生の仕事は勉強だろが!!」 「すいませ〜ん、てへッ☆」 如月先輩のお茶目な笑顔に、マスターは少しドキッとしてました。 「・・・まぁ、そこそこにな。あぁそうだ、夏休みと言えば良いバイトがあるんだけどよ・・・」 突然マスターが、切りだします。 「俺の知りあいにちょっとしたホテルみたいなのをやってるのがいてよ、そいつが夏は忙しいからバイトが欲しいッてんだよ・・・。まぁバイトって言っても大したことねえ、朝ちょっと料理の仕込み手伝って、夕方には掃除を手伝って・・・その程度で、後は料理とかもホテルで出すのとおんなじのくれるって言うさ。どうだ、いかねえか?」 と、マスターは自分のことのようにわくわくした口調で言います。 「何しろ朝ちょっと早起きして、ちょっと仕事やったら後は遊び放題だぜ?良い話だと思うんだがな・・・」 「へぇ〜そのホテル、何処にあるんスか?」 と、仁科君が乗ってきます。 「あぁ・・・結構遠い別荘地みたいなトコでよ、でも海水浴も楽しめるわな〜」 「マジ!?」 そして話は盛りあがります。どうやら行き先は決定・・・なのかな? でも雪乃先輩、なぜか一人窓の向こうを見つめて・・・。 「ねぇマスター?あの木は・・・・・・なに?」 先輩が指さした先には。 ・・・あの公園の、木でした。 喫茶店の裏庭に、植えたんだそうです。 「ガハハ、俺も小さなころお世話んなってッからなぁ〜、このまま切られちまうのも惜しいと思ってよ?あぁそうだ、ガキのころ良く登ったなぁ・・・バカがおっこちたりしてよ!」 と、懐かしみます。 「あら?わたしなんて木の上でケンカしたりしたわよ・・・ホンット仕方ない子供だったのねー」 「おてんばだったんだな、雪乃チャン!」 見かけによらず、凄い人・・・・・・。 「へぇ、俺も登ったっけなぁ・・・。結構高いから、ビビッちゃったりしてね」 と、大鳥先輩も。 「あら、結構思い出ぶかいのね?あの木・・・」 と、明日香先輩。 「オレたちよく木登りとかやったよなぁ・・・・・・」 「あるある、一度俺落ちて骨折しちゃったよ・・・」 仁科君と秋山君、わんぱくボウズだったんでしょうね・・・。 一方、三国さんは。 「私、は・・・木陰で本を読むのが、好きで・・・・・・」 と、文学少女らしく。 「へぇ〜、木陰で読書・・・いいわねー」 「風が・・・気持ち良かった・・・」 と、ほぅっと笑います。 六条先輩は・・・・・・。 「フン、そんな野蛮な遊び・・・」 と、またツンとしています。 でもそういう割には、うらやましそうに他の人の話を聞いていたり。 ・・・・・・雪乃先輩は、笑ってました。 「・・・マスター、ありがとね」 と、お礼を言います。 けれど、なんの事かマスターは良くわからないふう。 「どうしたんだ雪乃チャン?突然・・・」 「・・・なんとなく、よ」 そういうと後は、黙ってあの木を見つめていました。 そのいとおしげな表情に、ボクは少しさみしくて。 ・・・木にヤキモチ妬くの、なんだかなぁ・・・・・・。 暑い日でした。 結局みんな勉強なんて全然手に付かなくて、あの木の影でずっと休みながら夏休みのプランを考えてました。 「やれやれ・・・結局おまえらみんな勉強サボりたいだけじゃねーか!」 と、マスター苦笑。 でもみんな気にせず、きゃいきゃいやってます。 まるで、みんな、小さな子供に戻ったみたい。 あの六条先輩まで、一緒に木登りやってるんですから。 「まったく、何が楽しいのよこんな・・・ッッッ!?・・・あ、お、大鳥さん!?」 「ほら、俺につかまって」 「・・・ハイ・・・」 もう、笑っちゃいますよね! そんなこんなで日も暮れて。 みんな、夕焼けに目を奪われていたのですが。 雪乃先輩一人、店の中でコーヒーを飲んでいます。 ボクはとっさに、先輩のところに言って、聞きました。 「・・・あれ?外、綺麗ですよ・・・?」 すると先輩は笑って、ボクを抱きしめて・・・。 「悲しくないから、いいの。それに、もういつだって見れるもの・・・・・・」 ・・・ドキドキしちゃう・・・。 「それよりも、ハルカ、キミを・・・・・・」 と、頭をやさしく撫でながら。 でも、良くわかりません。 先輩はいつもこうなんです・・・・・・。 まったく勉強は、手に付きませんでした。 みんなで夏休み、白い砂浜、山々の緑豊かと言うホテルの話に期待を膨らませながら、順次解散。 ボクも楽しみで楽しみで、待ち遠しくて。 先輩も少しわくわくしているようですが、ちょっとだけ複雑な顔、かも・・・・・・。 すると突然、雪乃先輩はボクに真顔でたずねました。 「ねぇハルカ・・・水着、どんなのが良いのかなぁ・・・?」 唐突な質問に、ボクはあせって、どぎまぎしちゃって。 「え・・・うわ、せんぱぁい!?それは先輩の好きで、いいんじゃ・・・」 と、うろたえるボクに。 「・・・?違う違う、遙クンの水着よ!!」 と、無邪気に笑いながら・・・・・・。 ・・・ちょっと待ってください、それは・・・ 「先輩!それってどう言う意味ですか!?」 「えぇ〜?だから可愛い水着が良いのかなぁって思って・・・でもハルカ男の子だし、難しいかもなぁ〜って・・・」 「ちょ、ちょっとまって・・・」 「あぁそうか、ツィーランよろしくなレオタード風の・・・・・・」 まったく聞いてくれません。 先輩、暴走しっぱなし!! ・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!? 49. 今日も先輩のオモチャにされてました・・・。 あの、頼みますから学校で女子の制服着せるのはやめてよぉ・・・・・・。 しかもボクにくれたほかに何着か先輩が持ってるのは・・・・・・。 勇気を出して先輩に問いただしたんです。すると先輩は自信たっぷりに、 「他の学校の制服もあるよ?」 その時の雪乃先輩の、うれしそうな顔ったら・・・・・・。 そ、そんな顔されたら、ボク、逆らえなくなっちゃうじゃないですか!? しかも、先輩は野暮用が出来て、 「あぁ、わたしのウチで待ってて♪」 と、軽やかに出かけてしまうのです・・・・・・。 先輩のクラスに、一人取り残されるボク。 すると、慌てた様子で六条先輩が、なんと三国さんを連れて入ってきたのです・・・。 二人はなにかをごそごそと探しているようでした。 ・・・なんで、よりにもよってこのお二人が御一緒なんでしょうか!?とてつもなく恐ろしい・・・・・・。 それでボクは仕方なく、教科書を広げて見ないフリ、してたんですけど・・・・・・。 「あら、井上さん?ちょうど良かった、少しお話しませんこと?」 思いっきり気付かれてました・・・・・・。 しかも無言の三国さん、うれしそうです・・・・・・。 三国さんの手には大きな袋。 六条先輩は、なにか本を抱えています。 ボクは恐る恐る、聞きました。 「あの・・・お話って、なんですか?」 ボクのおびえた表情を見て、なぜか三国さんは無言で頭を撫でます。 その行動が、逆に恐ろしさをあおります・・・・・・。 確認するように教室を一瞥して、六条先輩はボクにたずねます。 「・・・堀江さんは今日は、いらっしゃらないのね?」 ボクは怖くて、無言のまま。 「じゃあ、行きましょう?井上さん、まいなさん」 と、六条先輩は堂々とした足取りで教室を後にします。 怖じ気づくボクの手を、無言の三国さんは引っ張って。 ・・・・・・これからボクは、どうなってしまうのでしょうか・・・・・・? ファーストフード店で、六条さんはアイスコーヒーを3つ注文します。 ボクがお金を出そうとすると、 「いいですわ、ここは私が」 と、制止します。 こう言うところ、なんかお嬢様なんだな・・・と、思ったり。 そして、三人は席に付きます。 ボクの向かいに、六条先輩と三国さんが。 威圧感たっぷり・・・・・・。 ボクは二人を向けずアイスコーヒーを飲んでいたのですが、突然六条先輩が切りだします。 「・・・あなた、本当に女子の制服が似あうのねぇ・・・・・・その方が違和感なくってよ?」 と、笑って言います。 なんか、男として失格のような気がして、複雑なのですが・・・・・・。 でも六条先輩、相当の美少女なんだなぁ・・・・・・。 珍しい忌憚ない笑顔に、そう思ったり。 「うんうん、『美少女』三人、なかなか絵になりますわ?」 と、さらりと言ってのけて、三国さんは顔が真っ赤です・・・・・・。 ・・・その三人に、ボクも入っているというわけですかぁ・・・・・・。 はぅ。 「それで、本題なのですけれど」 と、六条先輩はボクの目をじっと見つめながら、言います。 ちょっと照れるし、怖い・・・。 気が付けば三国さんも、真剣な眼差しで。 ボクは、二匹の蛇に睨まれたかえるのよう・・・・・・。 「あなた、よく堀江さんに女装させられてるらしいわね?」 突然、きびしめな口調。 「・・・・・・はいぃ」 ボクは少しげんなりして、答えました。 すると六条さんは表情をやわらかくして。 「別に悪いとは言ってませんわ?私も可愛いコ、好きでしてよ?」 ・・・意外な言葉。 てっきりボクは六条先輩に敵視されているとばっかり思っていましたから・・・・・・。 苦笑いして、 「ありがとうございます・・・」 と、返事。 ちょっと、複雑。 六条先輩はいっそう笑顔で、続けます。 「それで、折角だからもっと可愛い格好をしてもらおうと思って・・・そうしたら、ちょうど私の理想に賛同してくださる方が・・・こちらに」 と、三国さんを紹介。 ぺこりと三国さんは会釈。 ボクも、いつも挨拶はしてるんですけど、なんとなく会釈を返します。 「それで、今度、堀江さんと私たちどちらがあなたを可愛く着飾って差し上げられるか、試してみようと思いますの・・・」 と、六条先輩は頬を赤くしながら言います。 けれどその目つきは、何かを企んでいるようで。 その様子、怖いです・・・・・・。 「その、つまり・・・今度の対決は、ボクの女装・・・と、言うことですか・・・?」 ボクはびくびくしながら。 すると、六条先輩は立ち上がって、高らかに言います。 「その通りですわ?今まで何度も何度も惨敗してきましたけれど、今度こそはワタクシ自信がありましてよ!?なにしろ今度の私には、三国まいなさんと言うとっても心強い味方がいらっしゃるのですから!!!」 三国さん、ぬいぐるみのウサギを拍手。 ボクはその様子を、呆然と見守ります。 「今度の対決は一週間後、いい、まいなさん?とっておきのを頼みますわね!?というわけで遙君、あなたにも今から協力していただきますわ?これから三人でワタクシの家に行って、まずは採寸からね!?ワタクシ久々に燃えてきましたわぁ〜!!」 ・・・・・・ホントにボク、いったいどうなっちゃうの? 50. 「メメント・モリ・・・・・・」 先輩は時々、不思議なことを言いだします。 「死を想え」人生の警句。 そんな先輩の横顔は、とっても切なくて・・・・・・。 時に一抹の不安さえ、感じさせるくらい。 その日ボクは、小説を少しだけ進めて、勉強も手に付かないまま眠りに落ちました。 暑くて、寝苦しい。 夜の帷も重々しくて。 まどろみのなか、ボクは先輩の台詞を回想します。 ・・・・・・メメント・モリ。 なんと重々しい響きなのでしょう・・・・・・。 夢を、見た。 とってもとっても哀しい夢。 何故かわからないけれど、雪乃先輩がボクの前で瞳を閉じているんです。 ・・・・・・花に囲まれて。 「・・・雪乃、先輩?」 ボクは茫然として問いかけるけれど。 先輩は何も、言ってはくれません。 ただ、瞳を閉じて。 呼吸一つせず、静かに横たわる。 身に付けているのは、真っ白なドレス。 ボクも純白の、ワンピース姿で。 もう一度、呼びかける。 「・・・・・・先輩?雪乃先輩?」 けれど、返事はなくて。 その表情は、あの不敵な普段の姿の面影すらなくて。 ・・・・・・よりにもよって、あのボクの頭をやさしく撫でて、ボクをぎゅっと抱きしめてくれる、やさしいやさしい顔なんです。 「ねぇ・・・雪乃、さん・・・・・・」 ボクは、動かない先輩を抱きしめて。 そのとき感じた、ぞっとするような冷たさ。 ねえ?ねえ?どうしてうごかないの? ボクは小さな子供のように。 ・・・・・・・・・・・・。 あぁ、そのときボクは、泣いていて。 気が付けば、みんなが先輩と、ボクを、取り囲むようにして。 手には花束、最後の手向けに。 そして哀しげなレクイエムが、響くんです。 動かない先輩を前に、ボクはひたすら泣いていました・・・・・・。 ・・・いくつもの月日が流れたようでした。 海の見える白い丘。 緑を背に、潮風にゆられて。 まるで遠い日の白昼夢のように、ボクはたたずんでいるんです。 ボクの視線の遥か向こう、小さな白亜の墓標。 いくつもいくつも、花で飾られて。 あぁ、雪乃さん、あなたはこんなにも小さな石の下に葬られて。 ボクはあふれる涙を抑えることも出来ず。 やっとの思いで、花束を手向け。 そして元来た道を、帰ります。 すれ違いざま、真っ黒な男が。 そしてまた潮風にゆられて。 ただその白い丘に、砂浜、そして青い海と空が、水平線が、哀しかった・・・・・・。 「雪乃さんッ!!!?」 ボクは飛び起きました。 気が付けばボクの頬はすっかりぐしょ濡れで、身体も汗だく。 あんまりに酷い、切なくて哀しい夢でした・・・・・・。 身体がだるい・・・・・・。 今日は休もうかと思ったけれど。けれど、ボクは気が付けばいつも通り身支度をして、玄関を飛びだしていきました。 「おぉ遙クン、おはよう♪」 目の前の雪乃先輩はいつも通りだったけれど。 ボクの心の中が、普段とまったく違うざわめきを見せて。 思わず、抱きついて。 「・・・ハルカ?珍しい、甘えんぼさん」 その言葉に耳も貸さないように、強く抱きしめて。 雪乃先輩のほうが、困惑してしまいました・・・・・・。 ボクは今朝の夢を先輩に話しました。 途中、なんどもなんども涙をこぼしそうになりながら。 そして先輩は黙ってうなづいて、ボクが泣きだしそうになるたび、頭を撫でてくれて。 ・・・黙って、聞いてくれてた。 そしてボクが一切を話し終わると無言で、抱きしめてくれて。 先輩も少しだけ、泣いていたようでした。 ・・・その様子を、三国さんに目撃されてしまって。 「・・・おはよう、ございます・・・・・・」 先輩はボクを抱きしめたまま、三国さんに挨拶。 「おはよう三国さん☆」 涙は、拭いたかな・・・・・・? ボクは目が真っ赤だったので、先輩にくっついたまま小さく 「おはようございます」 と、言いました。 ・・・三国さん、二人の様子を見てか、つぶやきます。 「・・・・・・ラクリモーサ・・・?」 その日の昼休み。 めずらしく、他のみんなはいなくって。 先輩とボク、二人で座って。 今朝のことを、少しだけ心配そうに、雪乃先輩は聞きます。 「・・・・・・わたしが、死んでたの?」 「・・・・・・・・・多分」 ボクは少し落ちこみながら、答えました。 よりにもよって先輩の死んでしまった夢を見たことが、とっても罪深い気がしてたから。 「・・・そっか、」 先輩は下を向いて言います。 「一番大切なもの・・・・・・なのかな?」 悲しさはないけれど、さみしそうな声で、聞きます。 「・・・ボクにとって、先輩は・・・・・・」 言いかけて、顔が赤くなってきます。 声が、出ないや。 でも先輩は、そんなボクの様子を見てわかってくれて。 「いいよ?言わなくても、わかってるってば・・・・・・てか、聞くんじゃなかった」 と、ボクの頭を撫でながら。 「わたしもハルカが、一番大事」 と、笑ってくれて。 そして背伸びして、言いました。 「・・・・・・実はね?わたしも、ハルカが死んじゃった夢、見たんだ・・・・・・」 「え!?」 奇妙な偶然。 なんだか、ヘンな気分・・・・・・。 「やっぱりわたしも悲しくてね?大泣きして・・・・・・もう、イヤだった・・・」 先輩の不安そうな表情。 初めて見た、気がします。 「だって目の前でいつものようにハルカが横たわって・・・手も届かない、感じで」 そうか・・・・・・。 ボクは笑って、先輩に抱きつきました。 「うわぁ・・・ハルカってばぁ?」 ちょっと照れながら、先輩は笑いました。 そして、耳元で言います。 「大丈夫大丈夫・・・わたしもハルカも、今ここに、いるんだから」 ・・・抱きしめた先輩は、やわらかくて、良い匂いで・・・・・・。 あの夢の中の先輩と違って、とても温かかった。 --------------------------------------------------------------------------- そうだね。 俺はいったい今まで、幾人をブッ殺してきたんだろうね? まぁ関係ないのさ・・・・・・。 そう? わたしには大きな問題。 やれやれ、『メメント・モリ』の意味すらねじ曲げてしまったとは、キミにはホント頭が下がりますよ? 小癪な。 死の舞踏、嘘のように壮麗なリズムに乗って華麗に舞う。 その足元、いくらでもの屍、骨、臓腑。 あぁ御都合主義ならいくらでも捏造してやれると言うのに・・・・・・。 デウス・エクス・マキナの神意は死なないよ、っと。 「あなたはわざわざハルカにまで入りこんだの?ふざけるのはいい加減にして頂戴」 「あぁ、どうしようもないね。俺は別にあんなガキなんていらないよ、ただキミが欲しいだけ。Maybe?」 「何気取ってるのかしら?まぁ良いわ、そんな余裕こいていられるのも今のうちだけね、いっくら誰かさんのミスだからって、単純な悪夢ごときにあれこれ引っ掻きまわされて堪るもんですか!」 「そんな余裕、ね。それは俺の台詞だ・・・第一俺はただの悪夢じゃないんだぜ?そうだねぇ、いうなれば伝染する・・・そうだあの中世の黒死病の残り香だ」 「もうペストなんて流行らないわ?」 「いうねぇ・・・まぁいい、誰がこの街でアル・アジフなんて開いちまったかしらねえが俺は好きなようにやらせてもらうよ」 ・・・まいったぁ。 まさか、夢の中で悪魔とやりあう羽目になるとはね。 けれどこれもハルカのため、そんな事言ってられますか!! -------------------------------------------------------------------------------- 「ねぇ、ハルカ?」 と、先輩は不思議な表情で声をかけます。 「あのね?多分これから当分、キミには要り様になると思って・・・これ、貸してあげる」 と、ボクに手渡したのは、綺麗な水晶に、銀の鎖を通したペンダント。 「・・・これは?」 良くわからないけれど。 先輩は、にっこり笑って。 「お守り。きっとキミを、守ってくれるから」 と、ペンダントの乗ったボクの手のひらを、きゅっと握らせて。 「大丈夫。わたしは、ここに、いるんだから」 と、胸をはって言います。 その笑顔に、ボクは安心して。 「・・・・・・ありがとう」 と、つぶやきました。 自分の部屋に戻って、水晶のペンダントを見つめます。 昨日の悪夢が、嘘みたいに消えてゆく、光をたたえて。 ・・・・・・それにしても、不思議です。 悪夢を見たなら先輩も同じはずじゃないですか・・・・・・。 それに、「これからしばらく」という言い方も、気にかかります・・・・・・。 けれど、今は気にしないで。 今日は勉強を一段落させて、眠りました。 悪夢は、見なかったけれど。 --------------------------------作者コメントwwww---------------------------------------------------- 40. ちょっと、夢と交錯するファンタジーですよ? 本当は何故か妖怪悪魔とのバトルモノになる予定だったはずが、というかなんというか。今の見たら想像できんwwwwww あと、新都社40万ヒットに合わせて40話wwwwごめ、ウソwwwwwwwwwwwっうぇうぇwwwwwwwwwww 41. 雪乃超人過ぎってか人間なのかよwwwwwwww緋蜂A-Sで落とすなんてwwwwwwwwwwwwwしかも白往生ぽwwwwwwww しかも遙はブリジットのコスプレすることになったらしいwwwwツィーの次鰤wwwwwwwwっうぇうぇwwwwwwwwwwwwwwwwww でも、そもそもツィーランやブリジットのコスプレを男がやること自体がそもそもありえないwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww 42. 恐怖な三国さん。 あー・・・三国といえばTMR欲しいなぁ・・・MJN。 43. ある意味基本に立ちかえってのあまあま。 恋する二人はこんなにも近いのに遠い気がして、それで離れられないんだなぁ・・・・・・。 実はこの話、後の話に繋がるのですが・・・・・・まぁいいかwwwwwwwwwwwwwwwwww 44. また強烈キャラ、お嬢さま六条先輩の登場。 少しグダグダ気味になっちゃうのに反省しきり。 45. ・・・遙萌え話が書きたいのにィ。これじゃ雪乃先輩が・・・・・・。 てかなんのための女装ショタ小説だと思ってるんだ!?えっと、これ遙萌えじゃねーだろ。ヒロインは遙なんだってば!!男の子だけど。 というわけで、だれか「ヒロインは遙」に同意してくれ・・・・・・。 46. あぁ、ケツイ知らない人には何がなんだか。東方はまだ有名ですが。 CAVED!! 47. フォォォォォーーーーーー!!!!! てか遙HGしか見てねーのかよwwwwwクソワロスwwwwwwwwwwww そして遙と仁科って絶対ショタな展開だよな。一度書いてみたいとは思うんだけどさぁwwwwwwwwwww ・・・・・・遙のレイザーラモンコス、にあわねえええええええええええええええええwwwwww描いて見るかwwww 48. ときどき小説書いてると暴走して長く長くなってしまうことがあるんだけど、これもそうかな。 ちなみに夏休み編に続く予定ですよ? そして連載開始からまだ一月も立っていないにもかかわらず、もう50話目前wwwwwwwしかも番外編というかちょっとした企画もので12話のものと24話のものを書こうと思ってるからwwww100話まで意外と早くたどり着くかもwwwwwwwwwwwwwwwwww 49. 意外なキャラの組み合わせ。 久々に女装ショタものっぽい展開になってきましたね!?お嬢様と不思議少女と女装美少年の珍道中!! この続きは漫画の方が良いかしら? 50. ついに50まで到達!!まだ連載開始から一月立ってないwwwwwっうぇうぇwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww ちなみに先ボクって、陽気さとメランコリーを行ったり来たりな話しになりつつあるねぇ。 この話は、また一つのエピソードの始まり。独立した短編連作になりますので、しばしお待ちを・・・。 50.まで行ってからの雑感。 読んでくれる方なかなかいないだろうし、そもそも小説だし、ジャンル的にもまったく万人受けしそうにない感じで、それでもここまで書いてしまったのはただ単に遙と雪乃が書きたくて書きたくてたまらないから。 可愛い男の子と、大胆不敵なおねーさんの珍道中、なにしろネタが後から後から出てきて、読む人もなかなかおっつかないだろうけど、一番追いついてないのは書いてる俺自身なんですね。 NURUPOもそうなんだけど、なにしろキャラクターが一人で勝手に動き始めちゃうものだから、迂闊に構想を練ることすらままならなくて、それでも彼らが急かすような感じがして、だから急いで書かなきゃ!!て気持ちになってしまう。 まぁ確かに、どんなに少ないと言っても読んでくれる人はいるわけだし、何はどうあれ俺たちは書くしかないんですよ。それでここまでつっぱしっちゃったんだけどね。 そもそも女装ショタものなんて書こうと思ったのは単純にそれ系で萌えたことがあって、自分でも書きてえと思ったからなワケでして。 見てくれた方々のどれくらいが気が付いたかはわかりませんが、まず俺は旋光の輪舞のツィーランと言う男の子に非常に萌えてしまったのですね?最初女の子だと誰もが思っていたら衝撃の展開、「こいつちんこついてるよ?」でも俺はその予備知識を持った上でゲーセンでツィーきゅんに再会。もう、あんまりの可愛らしさに心臓Dogyuuuuuunn!!でしたよ。本当。 なにしろ可愛い男の子大好きなことに気が付いてしまったもんで、いろいろあって次に手を出したのは放浪息子でした。こちらは御存知な方も多いかも・・・。 ・・・萌えちまいましたよ。まったく、もう!みんな可愛すぎるんだから!! でも、実はあの雪乃(当初は名前がなくって、「先輩」とだけ呼んでました)の同窓会に遙が女装して出たのは、放浪息子を買う前日のことだったんですね・・・。で、買ってしまったものだから、すっかり遙が女装して(てか雪乃にさせられて)あれこれ、という基本の線が出来上がったと言うわけです。 話自体はどたばたな学園ものです。当初はもっと違う感じになるはずだったのですけれどね・・・・・・。いうなれば、コイスムとニート様がみてるを足して2で割った、という。 ・・・まぁ実は、俺はVIPではコイスムを先に知った口で、初めて新都社知ったときは「なんだこれ?」でしたよ。いろいろあったみたいだけど、それはまぁいいか。俺がどうこう言う話で無しに。 まぁいいや。とにかく俺は女装ショタが書きたかったの!!遙にいかに女装させようかと最初は腐心してたんだけど、今じゃ雪乃先輩が遙クンをいっつも女装させて出歩いてるものだから、それはもう・・・雪乃さん自粛してくださいってばかりにね。 しっかしくだらねえ長文。 このどうしようもない小説と呼べない(事実、最初は小説ではなくてプロットでした・・・)ものを読んでくれて、なおかつこんな俺の戯言に付きあってくれて、ありがとうね? 「先輩とボク」は、まだまだ続きます。というか、今までと趣向を変えた連作短編を二つほど考えていて、それが片方は24エピソード、もう片方は12エピソード、さらにそれぞれプロローグとエピローグでおおよそ40エピソードも書く構想ですwwww我ながら呆れちまう。 あと、どういった展開を希望しているか、皆さんの意見が聞きたいので、もしよろしければweb拍手なりなんなりでご意見ご感想のコメントがいただけるとうれしいな・・・書かせていただけるだけでうれしいのに、そんな贅沢なこととても言えたもんではございませんが。 ではでは、どうもありがとう。これからもよろしくお願いいたします!! 平成17年7月11日 ぬるぽっくす記す。